アラタの今の言葉がウソだと、何度も私に警鐘を鳴らす。
「おーい、ミチルー?」
「アラタ、あのね」
「おう」
「明日会えないかな」
「急だな、どうしたの?」
「私が、ちょっと辛くなっちゃって、アラタに実際に会いたい」
アラタが一瞬黙って考え込む。その間にまたアプリは【ウソです】と通知をスマホに表示する。誰のウソに対しても、反応するみたいだ。
本当だったら今すぐ会いに行きたかった。だって、アラタは私を毎日毎日「大丈夫」と暖めてくれていたから。私だって、アラタの辛い時には寄り添って支えたい。
それでも、こんな真夜中に会いに行く勇気はない。
「明日は予定があるから、ダメかな」
「そっか」
ピコンっとスマホの上に表示された通知を見ないふりして、うなずく。アラタは、私に会いたくないのかもしれない。私のことを親友だと言ってくれるけど、めんどくさく思ってるのかも。
心の中でふわふわと疑心暗鬼が生まれてきて、首を横に振って消し去る。
私は、アラタにずっと会ってみたいと思っていた。たまたま、SNSで同じイラストレーターが好きで相互フォローの関係になった相手。それでも、話していくうちに、イラストレーターだけじゃなく、お菓子の趣味も合って、愚痴や辛いを話し合う仲になった。ううん、私の言葉をアラタはいつも聞いて、笑って受け止めてくれていた。
「明後日は?」
「なんか今日ぐいぐいじゃん、どうしたの、まじでヤバいの?」
会う約束をしなくちゃ、アラタがどこかに行ってしまう。そんな焦燥感に駆られて、とにかく日にちを上げていく。その間にも、あのアプリの通知はどんどんと増えていった。
「わかった! じゃあ明日の予定何時から?」
「は? えーっと、夕方、かな」
ピコン。
「うん、じゃあ今から会いにいく。近くの目立つ場所だけ教えて」
「今からって何時だと思ってるんだよ」
「だって、もう今すぐ会わなくちゃ、私ダメになっちゃいそう」
シーン。
言葉にして、アプリの通知がないことを見て、やっと自覚する。私は、アラタが居ないとダメになってしまう。自分の中でそう思っているんだ。
ずっと頼りっぱなしだったのに。アラタには、何も渡せていないのに。
「でも、ごめん。俺、会えないや」
「私に会いたくない、ってこと?」
「うん」
シーン。
こんなアプリのせいで知りたくなかった真実を知ってしまうだなんて。あまりにも残酷すぎる。でも、そんなことよりも、アラタのことだ。
アラタが近く、と言っても同じ市内くらいのところに住んでるのは知っていた。学校は違うみたいだし、生活圏も被ってるわけじゃない。
それでも、時々アラタが上げるデパートの写真や、ファーストフード店。オープンしたてのスイーツ屋さん。どこも、見覚えのある場所だった。
どうしたらアラタが会ってくれるか、必死に頭を捻る。今会わないと、ダメ。直感が、体の中で警鐘を鳴らし続ける。
「今は、会いたくない。また、会える機会もあると思うし。ミチルが辛い時にごめんな」
ピコン。
どれに反応したかまでは、わからない。通知は【ウソです】としか書かれていない。