「あのさ」
「なに?」
「俺、アラタじゃなくて、更っていうの本名。更地の更ね」
「更って言うんだ……私はミチルが本名だよ」
「わかった、ミチル」
「うん、なに、更」
「ミチル」
存在を確かめるように、何度も私の名前を口にする。その度に私も更と名前を呼び返した。更が名前を呼んでくれるたびに、胸の中であたたかい何かが膨らむ。
「今日は遅いし、帰ろっか。ミチルの手、めっちゃ冷たいし」
ぎゅっと手を握りしめられてどきっとしてしまう。サラの手は、私と違ってポカポカとあたたかい。
「帰るよね、そうだよね」
「居なくならないから、大丈夫。ウソ発見器使ってみれば」
「ううん、わかってるからもういい」
更の目の前で、ウソ発見器のアプリを削除する。こんなアプリはもういらない。だって、更の言葉が本当だって私の耳はわかっている。
「いいの? 面白かったのに」
「更の言葉を疑ってるみたいで嫌だから、いーの」
「そっか、またすぐ会おう。これからのこととか、いつもみたいにイラストの話とか、行きたかった甘いもののお店とか、二人で行こう」
「いっぱい思い出作りたいね」
頭の中に、更との未来が広がっていく。どれだけ辛くても、更が隣に居る未来のためなら私はなんだって出来るような気がした。
<了>