「それでも生きてて欲しいなぁは、ずるいかな」
「ずるいな」
「アラタのことが好きなんだ私」
「俺も好きだよ」
「違う違う、アラタのこと、恋愛として好きなの。親友だと思ってるけど。初めて話した時から、まっすぐ私の名前を呼んでくれて、大丈夫をくれるアラタを好きになった。それがたとえ、自分を救うための言葉だったとしても、私は救われていた」
だから、ここまで来た。アラタにずるい嘘を吐いてまで、ここに来させた。いなくなってほしくない。私のエゴだって、ワガママだって、わかっていても、私はアラタと明日を迎えたかった。
「そう」
呑み込むようにアラタが口にして、黙り込む。私も黙って満月を見上げた。満月はイラストに描かれるように真っ黄色ではなく、鈍い茶色のような色をしている。
「変なこと言っていい?」
「なに?」
「月って、絵で描く時黄色じゃん」
「そうだね」
「でも、実際に見たら黄土色というか、鈍い茶色でしょ」
「おう」
変なこと言ってるのはわかってるのに、口が勝手に動く。黙ってる間に、アラタに覚悟を決められたくなかった。
「イラストって分かりやすく描かれてるじゃん」
「月の色とかもイメージに近い色ってこと?」
「そうそう。だから、私たちが見てるものとか、思うものって勝手に変換されてるんじゃないかなって」
「この、嫌な気持ちが嘘だってこと?」
「嘘じゃなくて、なんていうんだろう、こう、モヤモヤに包まれて、何も見えなくなると言うか、変換されちゃってるんだよ、きっと」
アラタが噛み締めるように「変換か」と口にした。本当は多分、死にたいんじゃなくて、逃げ出したいとか、助けて欲しいとか、誰かに求められたいとか、寂しいとか。色々いっぱいあって、それが、どうにもならないと思うから、死にたいに変換されてしまってる。
私の死にたいだって、きっとそうだ。寂しくて、誰にも見てもらえなくて、うまくいかないのが苦しかった。逃げ出したいくせに、誰かに救い出して欲しかった。強い人たちは、他力本願だと言って、私のことを嘲笑ってより一層苦しい沼に落としてくる。
「生きてていいのかな、って思うのは、私には勝手に答えられないけど。アラタと変わらず話したいし、いつか付き合いたいと思ってる」
「なんだよそれ」
笑った声が少しだけ震えていたし、鼻声に聞こえた。生きてさえいればなんとだってなると言われたのが私は嫌だったし、真実だとは思わない。生きていれば嫌なことはきっと続いていく。
それでも、アラタにはこの辛い世界でも生きていてほしい。私は、そう願ってしまう。
私の死にたいはどこかにすっ飛んでいて、今考えられるのは、どうやったらアラタとこれからも生きていられるかばかりだった。
「俺もさ、ミチルのこと、好きだったんだよ」
「はい?」
「嘘じゃないって、反応してないだろ、ウソ発見器」
スマホをパッと見れば、通知は一切届いてない。
「ミチルってよく笑うじゃん」
「そうかな?」
「そうだよ、こんなつまんねー俺の話にもめちゃくちゃ笑ってくれて、落ち込んでる時とあるけど、あーいい子だなって思ってた」
嬉しさなのか、戸惑いなのかわからない感情が身体の中で暴れ回る。どうしていいかわからなくなりすぎて、とりあえず持ってきたお菓子を出してしまった。
「そう言う変な行動もさ、もう好きになっちゃったから可愛くてしょうがないわけ」
「待って、そう言う話の流れじゃなかったよね、今」
手に持っていたクッキーを奪い取られて、アラタはサクサクと噛み締めている。あんなに背中に張り付いていた、嫌な予感はどこかへ消え去っていた。
「ミチルが隣に居てくれるなら、俺は生きるよ」
「クッキー勝手に食べておいて」
「学校行けるようにならないとだなぁ、まずは」
「のんびりでいいんじゃないの?」
「ミチルとデートするために、学校くらい行けるようにならないと困るだろ」
まっすぐに言葉を出すから、私は戸惑って唇を噛み締めた。アラタの死にたい気持ちは、目標ができたことで静まったのかもしれない。その目標が、私とのデートというのは、恥ずかしい限りだけど。
「まぁでも、きっと死にたいって気持ちはまた来ると思う。ずっと付き合ってきたんだ、この気持ち」
「うん、わかるよ、私だってそうだもん」
「だから、死にたくなったらミチルの大丈夫を、聞かせてよ。自分は信じられないし、大丈夫だとも思えないけど、ミチルは信じられるし、ミチルの言葉なら大丈夫だと思えるから」
「じゃあ、私がそうなった時は、アラタの声を、大丈夫を聞かせて」
私だって自分自身を信じることはきっとできないし、大丈夫だとも思えない。それでも、アラタが言ってくれれば、マシにはなる。ううん、マシになってきた。
「約束」
右手の小指を差し出されたから、私も右手の小指を絡める。繋いだ小指がやけに熱くて、目の前のアラタが本当に生きてるんだなと実感する。
「ずるいな」
「アラタのことが好きなんだ私」
「俺も好きだよ」
「違う違う、アラタのこと、恋愛として好きなの。親友だと思ってるけど。初めて話した時から、まっすぐ私の名前を呼んでくれて、大丈夫をくれるアラタを好きになった。それがたとえ、自分を救うための言葉だったとしても、私は救われていた」
だから、ここまで来た。アラタにずるい嘘を吐いてまで、ここに来させた。いなくなってほしくない。私のエゴだって、ワガママだって、わかっていても、私はアラタと明日を迎えたかった。
「そう」
呑み込むようにアラタが口にして、黙り込む。私も黙って満月を見上げた。満月はイラストに描かれるように真っ黄色ではなく、鈍い茶色のような色をしている。
「変なこと言っていい?」
「なに?」
「月って、絵で描く時黄色じゃん」
「そうだね」
「でも、実際に見たら黄土色というか、鈍い茶色でしょ」
「おう」
変なこと言ってるのはわかってるのに、口が勝手に動く。黙ってる間に、アラタに覚悟を決められたくなかった。
「イラストって分かりやすく描かれてるじゃん」
「月の色とかもイメージに近い色ってこと?」
「そうそう。だから、私たちが見てるものとか、思うものって勝手に変換されてるんじゃないかなって」
「この、嫌な気持ちが嘘だってこと?」
「嘘じゃなくて、なんていうんだろう、こう、モヤモヤに包まれて、何も見えなくなると言うか、変換されちゃってるんだよ、きっと」
アラタが噛み締めるように「変換か」と口にした。本当は多分、死にたいんじゃなくて、逃げ出したいとか、助けて欲しいとか、誰かに求められたいとか、寂しいとか。色々いっぱいあって、それが、どうにもならないと思うから、死にたいに変換されてしまってる。
私の死にたいだって、きっとそうだ。寂しくて、誰にも見てもらえなくて、うまくいかないのが苦しかった。逃げ出したいくせに、誰かに救い出して欲しかった。強い人たちは、他力本願だと言って、私のことを嘲笑ってより一層苦しい沼に落としてくる。
「生きてていいのかな、って思うのは、私には勝手に答えられないけど。アラタと変わらず話したいし、いつか付き合いたいと思ってる」
「なんだよそれ」
笑った声が少しだけ震えていたし、鼻声に聞こえた。生きてさえいればなんとだってなると言われたのが私は嫌だったし、真実だとは思わない。生きていれば嫌なことはきっと続いていく。
それでも、アラタにはこの辛い世界でも生きていてほしい。私は、そう願ってしまう。
私の死にたいはどこかにすっ飛んでいて、今考えられるのは、どうやったらアラタとこれからも生きていられるかばかりだった。
「俺もさ、ミチルのこと、好きだったんだよ」
「はい?」
「嘘じゃないって、反応してないだろ、ウソ発見器」
スマホをパッと見れば、通知は一切届いてない。
「ミチルってよく笑うじゃん」
「そうかな?」
「そうだよ、こんなつまんねー俺の話にもめちゃくちゃ笑ってくれて、落ち込んでる時とあるけど、あーいい子だなって思ってた」
嬉しさなのか、戸惑いなのかわからない感情が身体の中で暴れ回る。どうしていいかわからなくなりすぎて、とりあえず持ってきたお菓子を出してしまった。
「そう言う変な行動もさ、もう好きになっちゃったから可愛くてしょうがないわけ」
「待って、そう言う話の流れじゃなかったよね、今」
手に持っていたクッキーを奪い取られて、アラタはサクサクと噛み締めている。あんなに背中に張り付いていた、嫌な予感はどこかへ消え去っていた。
「ミチルが隣に居てくれるなら、俺は生きるよ」
「クッキー勝手に食べておいて」
「学校行けるようにならないとだなぁ、まずは」
「のんびりでいいんじゃないの?」
「ミチルとデートするために、学校くらい行けるようにならないと困るだろ」
まっすぐに言葉を出すから、私は戸惑って唇を噛み締めた。アラタの死にたい気持ちは、目標ができたことで静まったのかもしれない。その目標が、私とのデートというのは、恥ずかしい限りだけど。
「まぁでも、きっと死にたいって気持ちはまた来ると思う。ずっと付き合ってきたんだ、この気持ち」
「うん、わかるよ、私だってそうだもん」
「だから、死にたくなったらミチルの大丈夫を、聞かせてよ。自分は信じられないし、大丈夫だとも思えないけど、ミチルは信じられるし、ミチルの言葉なら大丈夫だと思えるから」
「じゃあ、私がそうなった時は、アラタの声を、大丈夫を聞かせて」
私だって自分自身を信じることはきっとできないし、大丈夫だとも思えない。それでも、アラタが言ってくれれば、マシにはなる。ううん、マシになってきた。
「約束」
右手の小指を差し出されたから、私も右手の小指を絡める。繋いだ小指がやけに熱くて、目の前のアラタが本当に生きてるんだなと実感する。