「本当は俺が欲しかった言葉なんだ」
「私にくれてた言葉?」
「そう、最初はそんなつもりなかったよ。本気で友だちだと思ってたから、ミチルには元気でいて欲しかった。だから、優しい言葉を考えて、考えて何とか生きててくれーって願いを込めて言葉にしてた」
「ただのSNS上のフォロー、フォロワーの関係なのにね、私たち」
「そうだな」

 私とアラタは友だちだと思っていたし、仲も良かったと思う。毎日のように繰り返した通話がその証拠だ。

「俺、友だち一人もいないの。あ、ミチルを除いてってことな」
「そうなの?」
「そもそも、中学受験失敗して、学校行けなくなって、学校すら行ってないから当たり前なんだけど」
「そうだったんだ」

 途切れないように相づちを打とうとすれば、するほど他人行儀になってしまう。もどかしい気持ちを抱えたまま、アラタの言葉の続きを待つ。

 アラタがぎゅうっと手のひらを握りしめて、ふぅっともう一度薄い白色に染まった息を吐き出す。

「だから、俺の友だちってミチルしかいないわけ。普通の会話できる相手も」
「うん」
「だから、ミチルにとって優しい言葉を選んで、口にして、ふと気づいたんだよ」
「本当はアラタが言って欲しかった言葉、だったって?」
「そう。俺が大丈夫だよ、生きてていいんだよ、バカにした方がおかしい、誰かも同じ思いを抱えて寝れなくなってる、そう言って欲しかったんだ」

 アラタがくれた私への優しさは、本当はアラタが受け取りたかったもの。それは、私も同じだったと思う。アラタに伝えた「いいと思う」「アラタはえらいね」「アラタの優しさに救われたよ」という言葉は、本当は私が欲しかったものだ。

 私が誰かの生きる意味になる。そうなれたら、私も生きていける気がしたから。

「だから、俺最低だなと思って」
「へ?」
「ミチルをスケープゴートにして自分自身救って偉そうな顔して、大丈夫なんて言ったりして」
「それで、死にたくなっちゃった?」
「ううん、ミチルに合わせる顔ないなーって思ってたらさ、ミチルが居ないなら俺って生きてる意味何なんだろうって思い始めた。親だって中学受験に失敗した俺に極力触れないようにして、学校だって行けないから、友だちもどんどん居なくなって、何もできない。何もできない人間なのに、生きてていいのかな、って」

 アラタの言葉に息を呑み込む。「生きてていいんだよ」とは気軽に言えなかった。私だってそれなりに悩んで、なんとか生きてるけど。私に許されたところで、アラタの死にたい気持ちがなくならないって知ってたから。