「……行ってきます」
返事は無い。お母さんは夜勤でまだ帰ってきていないのだろう。それか、帰ってきて寝てるか。
テーブルにちょこんと置かれた金色の五百円玉を見つめる。これで朝ごはんと昼ごはんを済ませろということなのだろう。
私には、お父さんの顔を知らない。それどころか、お父さんが今生きているのかのかすら分からない。私が生まれてすぐに離婚したらしい。
だから、私の家はあまり裕福では無い。だけどお母さんが頑張ってくれている。だから私は心配をかけるようなことはしたくない。本当なら私も働いてお金を貯めたい。けれど私はまだ、バイトも許して貰えないのだ。
だって、まだ十五歳だから。
もう一度写真を見る。
楽しみだったはずの中学校生活。2人で一緒に行けたはずの中学校生活。
だけど私にとっては、地獄でしか無かった。
君がいない世界なんて。
私が生きてる意味なんてないんだろう。
だけど、お母さんを心配させなくないから。
義務感だけで行く学校。
つまらない以外の何物でもないけれど、行かなければいけない。
「行ってきます」
改めてもう一度言ってから家を出た。
徒歩30分。近くに駅がないので徒歩しかないのだ。
自転車は、ない。
……なぜなら、入学から半年も経たずに誰かに奪われたから。