遠屋叶人。
これは私の幼馴染の名前だった。
いつも私は彼を「カナ」と呼んでいた。
「カナ」という呼び方をしていたのは、自分だけだった。
そのことがいつも嬉しかった。
自分だけがカナと親しく出来ているみたいだったから。
カナはクラスの人気者で、ちょっと可愛くて、かっこくて、何より優しかった。
虫をみても殺さないし、いじめなどのニュースを見ると決まって悲しい顔をし、時には涙を見せることもあった。
そんな優しいカナは私の隣の家に住んでいて、よく行き来していた。
私の口癖は、ずっと「カナ」だった。
「カナ、うちにご飯食べにおいでよ!今日はすき焼きにしてくれるってママから聞いたんだ!」
「カナ、そっちの家に泊めてもらってもいい?鍵家に置いてきちゃったんだけど、今日親帰ってこないんだよねー。」
「カナ、今日公園で遊ばない?クラスの友達も来るんだけど、あたし、カナがいないと寂しいな」
「カナー!見てっ!犬飼い始めたの!名前はソラって言うんだよ!」
「カナぁ……ソラ、ソラが……家から逃げちゃったぁ……」
カナ、カナ、カナ。
喜んでる時も、悲しんでる時も、いつもその名前を呼んでいた。
カナは私が喜んでいると、「良かったね」と言って優しく微笑んでくれる。
私が悲しんでいると、「何か手伝えることあったらいつでも言ってね」と言って手を握ってくれる。
そんな優しいカナが、私は大好きだった。
そんな楽しい毎日が突然終わるなんて、あの時の私は、私たちは、想像すらできなかった。