玄関に置かれた置き手紙。『今日は仕事で帰れません』。私のことは普段放っておく癖に、出かける時に置き手紙だけは律儀に書いていく。
「……空夜くん……」
無償に会いたくなるのは何故だろう。
私は何故こんなにも空夜くんを信用しているのだろう。
日付は7月6日。まだ空夜くんと出会ってからは1週間も経っていない。そういえば、明日は七夕だ。彼は、何かお願い事をするのだろうか。




───カナといつまでも一緒にいられますようにってね

私の脳裏に音が流れ込む。

あれは、私とカナが小学6年生の夏。私はカナと近所の夏祭りに来ていた。田舎の割にはどこから湧いてきたんですかというほどの人が集まっていた。人混みから逃れ、花火穴場スポットへ急ぐ。林を抜けた先にある、少し高くなっている丘はこの世界に2人だけだと思わせるほどのロマンチックな雰囲気を出していた。天の川に大きな花が咲いたのは鮮明に覚えている。そして花火を打ち上げるため、少しの間が空いた時だった。

大きな流れ星が一つ、大きなカーブを描き海を越えた彼方へと落ちていった。

人生で初めての、生で見る流れ星は綺麗という一言では表せないほどの美しさで、思わず願わずにはいられなかった。

「……お願いごと、した?」
「したよ、もちろん!……カナといつまでも一緒にいられますように、ってね」
「あははっはづらしいね」

またいつものように笑う。カナの笑顔はいつもこんな感じで、すごく人懐っこい。安心感があるし親しみやすい。

ドーン、と赤とオレンジの花火が光る。

「カナも隠さないで言ってよ、お願い事したんでしょ?」

ドーン、と今度は青と黄色の花火が光る。

「……僕のはひーみつ」
にこっという効果音がはっきり聞こえるほどの笑顔。

ドーン、とカナの笑顔のようなピンクのハートマークの花火が咲く。

「えぇー、ずるい!」
「でもさ、七夕に流れ星って、絶対叶うよね」
話を逸らしているのはバレバレだけれど、私は素直に大きく頷いた。
「これでずっとカナと一緒にいられるね!」
私もカナに負けないほどの笑顔を見せる。

ドーン、と金色のすすきのような花火が降ってくる。

花火と天の川に囲まれた、世界でたった2人だけの思い出は、きっとこれからも忘れることは無い。でも、流れ星にも、織姫と彦星にも、叶えられないものはあるのだと、私は知らなかった。運命は、誰にも変えられないのだろう。



そこまで考え始めた所で慌てて考えを振り払う。この思い出はカナとの大切な思い出だ。私個人の感情で(けが)したくない。

気付くと時刻は23時になろうとしていた。私はそのまま目をつぶり、眠りについた。