「はづき、お腹すいてない?」
お昼を過ぎたころ、空夜くんが聞いてくる。私は正直少食だしお金の節約のためにもお昼は食べないことが多いから、私はお腹は空いていないけれど……
「私は大丈夫、空夜くんは?」
「僕はお腹すいた……。下に降りてカフェにでも行かない?」
私は頷きリュックを背負う。

「ん」
そう言って手を伸ばしてくる空夜くん。私は首を傾げた。
空夜くんは少し苦笑しながら、「荷物持つよ」と言ってくれた。
「いや、そんなの悪いからいい……」
「僕が持ちたいの」
少し頬をふくらませるその表情は、高校生以上とは思えないほど幼く見えた。そう、カナのような小学生くらいに……。

「……そういえばさ、はづきって何歳?」
山を下りている途中に唐突に聞かれる。
「……高校1年生」
私は嘘の情報を教えた。空夜くんを信用していない訳では無いけど、あまり自分のことは聞かれたくなかった。フルネームまで教えてしまったので本当の年齢まで言ってしまったら、私のことを知ってしまうかもしれない。同情されたり、彼に何かあったりするのは避けたかった。
「どこの高校なの?」
「……東」
この辺は高校は少なめなので、東と言ったら思いつくのは、偏差値も部活も平均的な高校。実際、私の志望校も東なのである程度のことは質問されても分かる。

「空夜くんは?」
「18歳」
高校三年生か、社会人か、それとも大学生か、はたまた浪人生か。きっとわざわざ高校生とか大学生とか言っていないということは社会人か浪人生。仕事をしている感じは無いから、浪人生のように感じる。見た目で判断するのは良くないけれど、なんとなく彼は頭が良さそうなので難関大学に行けそうで受けたけれど落ちたから浪人、そんな感じだろうか。

そこまで考えて思考を止める。本人が何も言ってない以上、色々聞くのもあまり良くない。

「そうなんだ」
私はそれだけ言って会話を終了した。

気付くと中学校を通り過ぎ、店が並ぶところまで来ていた。

「おすすめの場所とかない?」
「……空夜くんは何が好き?」
「僕は海鮮系が好き!男子なのに珍しいかもしれないけど、肉より魚派かなぁ」
へぇ、と私は小さく相槌を打つ。言われてみれば、空夜くんは確かに肉より魚っぽいかもしれない。

これは完全に私の偏見だけど。

そういえば、カナはどうだっけ……。肉はある程度食べていたけれど魚の方が好きだったかもしれない。カナは大人っぽいのに顔は可愛いし絆創膏をよく持ち歩いていたのでカナ=女子力高い=お菓子好き、みたいな感覚がある。実際、小学生ということもあって甘党だったので、カナは私と同じくらいスイーツが好きだった。

あぁ、またカナのことを考えてしまう。最近は何故かカナの事がよく頭に浮かぶ。しかも空夜くんと一緒にいる時に。

見た目は全く似ていないのに、空夜くんがカナと重なって見えてしまうのはどうしてだろう。

「はづきは何が好きなの?」
「……チョコ」
思わず言葉が漏れてから、「あっ、私はどれもだいたい好きだから空夜くんの好きなものでいいよ」と言い直す。

私は小学生の頃からチョコレートが好きで、空夜くんからはよく作ってもらっていた。
11歳の誕生日……キーホルダーをくれたのと同じ時にはチョコチップクッキー。10歳のクリスマスにはチョコでコーティングされたショートケーキ。小学校最後の春休みにも生チョコを何個も貰った。

チョコは私の好きなものであり、カナとの思い出の品だった。

「……寿司でいい?」
「うん」
私も寿司は結構好きなので嬉しい。金銭面での不安はあるものの、この近くにある寿司店はあまり高くなかったはずなので安心出来る。

空夜くんはさりげなく道路側を譲ってくれて、そういう所も優しいな、と思う。

あまり人はいなくて、テーブル席がちょうど空いていたのでそこに座った。カウンター席でもいいのだけど、周りの人との距離が近いのは少し気が引ける。

「はづき、何にするの?」
「まぐろとサーモンだけでいい」
「え、足りないよ。いくら大盛りくらい食べないと!」
空夜くんが指を指したところにはいくらがこぼれるほど乗った、手の出しにくい金額のメニューがあった。金銭的にも量的にも、私には食べることが出来ない。
「そんなに食べれない……」
「……そう。」
空夜くんはそれだけ言うと、店員を呼び、私のサーモンとまぐろと、そして自分の食べる寿司を10皿くらい頼んでいた。

さすが、男子だなぁと思った。

まぁ、もう子供では無いのか。男子じゃないなら、男性?あまり周りには居ないので少し違和感がある。そんなことを考えてるうちに、寿司がすぐに到着した。