「はづき!」
明るく光る太陽の下で空夜くんが笑う。
「おはよう」
ほんとうに、太陽みたい。明るくて眩しいところがそっくりだ。
「……おはよう」
対して私はものすごく小さい声。これでも頑張ったつもりなのだけど、家族以外の人と話すことなんか2年半以上なかったから話し方さえ覚えていない。
空夜くんとは昨日会ったばかりだけど、声がちゃんと出るというのは私にとって凄いことだった。逆にまだあまり知らない人だからこそ出てくるのかもしれない。
「今日は昨日より晴れてるね」
「……うん」
昨日は今にも雨が降りそうだったのに、今日は雲が少なく、ベタ塗りしたような薄い青の空が広がっていた。
昨日初めて出会った私たちは明日もここに来ようと約束をした。言いだしたのはもちろん空夜くんで、私はただ頷いただけだけれど。
本当なら私は学校がある。
今日は、ほんとうなら二学期の終業式。
だけど私は、こっそり空夜くんと会っていた。
学校に行ったっていつもと変わらない、つまんなくて、大嫌いなことしか起きない。
なら、賭けてみたかった。
空夜くんとの過ごす日々に。
私のことを全く知らない人に。
「……はづき、ほら、見て」
空夜くんが指をさしたのは、崖から見える街並み。私が見た限りでは、特に変わった様子は見えなかった。
「あそこ」
どこのことだろう。目を凝らしてもどれのことを言っているのか私には分からなかった。
「……どれ?」
「あの公園のたくさんの花、綺麗だよね」
あぁ、と小さくつぶやく。空夜くんが言っているのは遊具のない小さな公園のことだった。
沢山の咲き乱れる花々。私はかつてそこで遊んでいたことを鮮明に思い出すことが出来た。
「カナ、みてみて!お花で指輪作ったの!あげる!」
「すごい、こんなに可愛いの僕にくれるの?」
「うん!カナにあげたいの」
そう言ってシロツメクサで作った指輪をあげる。ただ茎を指輪の形になるように結んだだけでそんなに可愛くもないものだった。だけど、そんな些細なことでもカナは喜んでくれた。
「ありがとう」
そういってふんわりと花のような笑顔を咲かせるカナ。そういえば、カナもずっと笑っているような子だった。空夜くんのように。
「……どうかした?」
「え」
「考えてるような顔でずっと僕の方見てたから」
どちらかと言うと思い出に浸っていたのだけれどそんなに違いは無い。私は黙って頷いた。
そういえば、空夜くんは学校は無いのだろうか。少なくとも高校生くらいの年齢に見える。大学生でもおかしくは無いけれど20歳程ではなさそうに見える。
……でも、私が聞いていいことじゃない気がする。なんとなく、私が聞かれたら嫌だから。
お互いの間に、高く厚い壁があるのだ。だからこそ安心できて、だけどだからこそ踏み込めない。
だけどそんな関係も私は好きだな、と思った。