学校は山の中間あたりにある。

私はその山を上へ上へと登って行った。

その先には崖がある。見晴らしが良いと評判な、数少ない観光名所。名所と言っても田舎の山奥なのでほとんど人は来ることがない。高さも十分あり、それは死ぬのにも適している環境だった。

木に囲まれ、崖の高さはビル10階くらい。そこから落ちたらきっと、苦しまずに死ねる。

私は息切れしそうになるくらい山を登っていた。帰宅部で体のあちこちに傷のある私は長い距離を歩くのも苦しい。

だけど、もうすこしで、たどり着く。

やっと、私、死ぬんだ。私という邪魔者がいなくなればきっとみんなが幸せになれるなんて、そんなことは思ってないけど、少なくとも今よりはマシになるんじゃないかな。

このたくさんの人間が全員幸せになるなんて、そんなの無理に決まってる。戦争なんて絶えないし、それだけでたくさんの人が死んでる。いじめだって沢山あるし、ひとりが幸せになればひとりは不幸になってしまうと考えるのは私だけなのかな。

……何、考えてるんだろう。私は存在しない方がいいから、だから消える。それだけの話。

だけど、なぜか考えてしまう。
今後の世界を。
死ぬことを。
幸せを。

だけど、それも何もかももう終わり。

やっと、その場所が見えてくる。先程までの細い道とは変わり開けて木が数本ある。私は1度ここに来たことがあるのだけれど、久しぶりなので新鮮な感覚がある。景色は確かに良いかもしれないけれど、まだ明るいので星も街の灯りも見えない。ただ太陽があるだけ。

そんな太陽の光があっても、私には見えない。あるけれど、私は見たくない。

この世界に輝きなんて一つも存在しないのに、なんでそういう考えが生まれたんだろう。

そこまで考えて、やめた。だって私がいくら考えたって答えは出ないし、もう私は死ぬから。

少し考えてから、最後に空に向かって言葉を放つ。

「今までありがと、カナ。来世では生きてね。」

私はもういない君を探すようにして目を凝らして空を見る。快晴でもなく、嵐でもない。なんてことの無い普通の空。強いて言えば曇っているくらい。

今の私と同じなのかもしれない。

私はまた考えようとして、やめる。そして、足を踏み出した。

あと、1歩。少し勇気がいるその1歩。その言葉だけだと良い方へ向かっていそうだけれど、真反対。でも、勇気がいるのは本当だから。

私は足をあげ、落ちようとした瞬間だった。


「……君、大丈夫?」