僕の田舎生活は一週間程でほぼ出来上がりつつあった。
 父さんも職場にすぐに馴染めたのか、それとも随分と仕事が楽なのか、前より疲れた顔をしなくなった。むしろこの環境を楽しんでいるようだ。
 僕もやはり父さんの遺伝なのか順応性は高いみたいで、あれだけ居心地の悪かった家も、もう何とも思わなくなっていた。最早「ただいま」を言う事に違和感も覚えないくらいまで慣れてる自分が何だか不思議に感じた。
 夜の静けさは今でもふとした時に不気味に感じるけど、最近は言葉通りの「カエルの合唱」が聞こえ始めて少しうるさくなって来た所だ。
 学校のほうも二人の生徒のおかげですんなり馴染めた。
 まず僕の隣の男子。つまり「ホタル」の名付け親であるこいつは「野本一彦」通称カズ。いちいち腹が立つけど何故か憎み切れない不思議な雰囲気を持つこいつは、都会から来た僕が珍しいのか、校内でいつも付きまとって来た。やれ、芸能人に知り合いいる? とか、ワックスつけるのカッコいいな! とかいちいちどうでもいい事を勝手に話しては自分で笑っている。簡単に言えばひょうきん者だ。都会に住んでいるからって芸能人に知り合いなんか居るわけ無いだろう、この野生児。お前のボーズ頭じゃワックスつけても意味ないよ。と思っても口にはしていない。今の所は。
 続いて女子の「神田由紀」通称ユキ。彼女は女子にも男子にもユキと呼ばれている。この感じで大体分かると思うけど彼女は男女の分け隔てなく人望が厚くて、クラスの学級委員もやっている。だからなのか、転校生の僕にやたらと世話を焼いてくれた。ちなみにカズとは幼なじみらしい。顔はまぁ悪くないんじゃないのかな。前の学校にはいなかったタイプ。純朴だけど都会的。矛盾しているけどそんな感じだ。
 この二人は共に男女の中心人物のようで、発言も多く行動も活発だ。カズはみんなをつれて(僕も含む)すぐに校庭でサッカーをしたがるし、ユキは女子達と何か話しては大声で笑っていた。
 この二人が毎日、僕の側に居れば自然とみんなも僕の周りに来る事になる。ただでさえ過干渉なクラスメイトだから、対応しているうちに直ぐに打ち解けてしまった。
 僕は男子にも女子にも「ホタル」と呼ばれている。
 まぁみんな良い奴らだと思う。時々、うるさいけど。
 ちなみに一つだけショックだった事がある。僕はスポーツが得意だ。前の学校では何をやっても上位三人に入っていた。それがこの学校じゃ六位がいいとこ。男子が十人しかいない中での六位なので、平均。正確に言うとそれ以下だ。
 これには僕もショックを受けた。常にトップの成績を誇るカズは足が速すぎるし、ガリ勉タイプに見えたスギも動く動く。太っているタダシは、まぁ見たまんまだったけど。
 勉強に関しては、授業の進み具合が前の学校より少し遅いくらいだったので、別に平気だった。むしろ僕は優秀なくらい。前の学校じゃ真ん中くらいだったのに、これなら勉強でトップを狙えそうだ。そっちにシフトしようかな。ちなみにカズは勉強ができない。これも見たまんま。
 携帯は誰も持っていないから僕も持ってくるのを止めた。今となってはユーヘイとメール交換するだけの物になってしまったけど、僕にとってこのメール交換は唯一のあっちと繋がる手段なので、父さんにはこっちで携帯が必要ない事は言わない事にした。

 以上、現状報告終わり。