お祭りの盛り上がりは僕の想像以上だった。村中上げてというのは聞いていたけれど、それにしてもとんでもない熱量だった。みんなが力を入れているのがヒシヒシと感じる。出店も盆踊りもとにかく全力で、そこかしこから笑い声が飛び交っている。
 そうやって村中のみんなが浮かれている中、僕ら二年一組はひっそりと舞台袖で一年生の劇を見ながらソワソワしていた。
「ホタル……大丈夫かな」
「ユキ! 大丈夫! 上手くいく!」
 落ち着かないユキを笑って励ます。僕が「ほら」と手を挙げると思いっきりハイタッチして、ユキはようやく少しだけ笑顔を取り戻した。僕はついでに、横でヘラヘラしているカズの背中を叩いて気合いを入れる。
「いってー!」
 前によろけるカズにみんなが「しーっ!」と人差し指を立てる。
「おいおい。震えが止まんないよー」
 緊張しているスギをタダシが黙って優しく抱き寄せた。
「ちょっ! おい! やめろよ!」
 スギのリアクションにみんな笑い声を漏らし切れず、クスクス笑いながら人差し指を立て合った。
 張りつめた空気が少し和む。僕は灰坂と目が合った。
「ありがとう。がんばろうね」
「うん。が、頑張ろう」
 この顔。この笑った時の顔が一番母さんに似ていた。僕は視線を外しながら灰坂と握手を交わした。
「さあ終わった! みんな準備は良い? 歴史変えるわよ!」
「おー!」

 僕らは拳を上げて、一斉に舞台に飛び出した————。