三日間のボイトレの最終チェックは行き詰まる事無く無事に終わった。予定通り、そして予想以上の出来で最終日の午前中に全行程を終了した。
「ありがとうございました!」
「こちらこそ。お疲れさまでした」
 少し涙ぐんで灰坂は笑う。僕から見てもよく頑張ったと思う。正直、ここまでいくとは思ってなかったし、夏休みを返上して僕がこんな事するなんて今でも信じられない。でも僕自身、成長する灰坂を見て心から喜んでいた気がする。予想を超えた成長に僕はつい、作戦決行前に満足してしまいそうなくらいだった。
 ————だから、大丈夫。必ず上手くいく。
「はい。お弁当」
「おー。ありがとう」
 ボイトレ最終日である今日は灰坂が前々から、またお弁当を作って来ると言っていた。
 テーブルに見覚えのある重箱が置かれる。
「どうぞ。開けて」
 僕は灰坂に促されるまま、蓋を開けた。
「あ。これ」
「そう! おばあちゃんが美味しそうに食べてたから入れてけって」
 中にはキュウリの漬け物と鯵の南蛮漬けが入っていた。他にも煮物や揚げ物や肉も魚も野菜も所狭しと詰まっている。おにぎりは前と同じ色んなふりかけのやつだ。
 僕は蓋を置いて、とりあえずキュウリの漬け物をつまむ。
「うん! おいしい!」
 僕の言葉に灰坂もキュウリをつまむ。
「うん! おいしい! いただきます!」
「あ、いただきます!」
 灰坂に続いて、慌てて手を合わせる。おばあちゃんからの嬉しいサプライズについ、つまみ食いをしてまった。
 手を合わせたら、早々とおかずに箸をつけていく。どれを食べても美味しい。おばあちゃんの料理も灰坂の料理も、全部美味しい。
 きっとお祭りが終わったら、また灰坂の家に呼ばれることだろう。
 その時はユキも一緒かな。カズもいそうだ。二人ともこの料理食べたらきっと喜ぶだろうな。
 僕はこの合唱が終わった後の事を色々考えながら、お弁当を口一杯に頬張った。
 そういえば、昔はよく食べるほうだったな。
 向かいに座る女の子を見る。美味しそうにパクパクと食べ進めていた。
 どうやら灰坂もよく食べる方みたいだ。
 僕は何だかそれが嬉しかった。