「暖はなんで転校してきたの?先生は家の事情って言ってたけど...」

「………」

なぜか暖は悩む素振りを見せていた。
もしかして、今あまり良くないことを聞いてしまっただろうか。

やっぱり自分は無神経なのか、普通こういうことは聞かないもの?とぐるぐる頭で考える。けれどすぐに暖が口を開いた。

「普通に親の転勤だよ」
いつものようににこりと微笑みながら返してくれる。けれどそこには、なんだか少し寂しげな影を感じた。

もしかすると他にもっと深い理由があるのかもしれない。あまり無理には聞かないでおこう、と考える。

「そっか、転校って色々大変だよね」
「うん。やっぱり慣れない環境だとどうしたらいいか分かんなくなるよね、友達できるか不安だよ」

ははっ、と軽く笑っているがもう既にできているのではと思ってしまう。それにチカと隣だし、とまたネガティブな感情が巻き起こる。

このことを考えるのはやめておいた方がいいだろう。

「暖ならきっとできるよ。優しいし、皆仲良くなりたいと思う」
「...そうだと嬉しいな」

他愛もない会話をしていると空は徐々に晴れてきて、先程まで雨が降っていたとは思えないほどの晴天になっていた。

傘をとじて空を見るとそこには七色の橋がかかっていた。

「「 虹だ !」」
二人の声がそろってしまい思わずお互い目を合わせて笑ってしまう。

あまりに久々に見たものだから子供のようなリアクションをとってしまった。

「っはは…テンションあがりすぎ」
「……っふふ、ほんとだね」

虹の下で笑う彼は見とれてしまいそうなほど綺麗でなんだか絵になるなぁと思う。

私は手でカメラのポーズを作ってみる。
彼を収めるかのように。

「…うん、やっぱり綺麗」と小さな声で呟く。
「なんか言った?」と聞かれなんでもないよ、と返した。

「じゃあ私そろそろ帰るね、今日はありがと」
「うん。気をつけて帰ってね」
私が見えなくなるまで、暖は手を振ってくれていた。