冷は僕を好きだと、そう言ってくれた。

好きな子が自分のことを好きだなんて奇跡なのに。
いっそのこと冷が僕のことなんかを好きにならなければ良かったと思ってしまった。

できるならしわくちゃになるまでずっと冷と一生を共に過ごしたい。

でも僕はできない。冷を幸せにはできないんだ。

彼女に一種の呪いのようなものをかけてから先にいなくなるなんて、どれだけの苦しみを与えてしまうだろう。

僕がいなくなったとしても幸せでいてほしい。
愛する人と家庭をもって、自分の夢を叶えて…そんな生き方をしてほしい。

そう思っているはずなのに心のどこかで冷が自分以外の誰かを好きになると思うと胸が締め付けられる。

いつの間に自分はこんなに弱くなったんだろう。

ふと幼い頃からの夢を思い浮かべる。
一度だけ冷に言ったことがあった。

「僕の夢はね、小説を書いて届けることなんだ」

「辛い思いをしている人をせめて、小説の中だけでもいいから救ってあげたいんだ」

叶うはずのない夢。死期が近くなればなるほどこんなにも自分はたくさんの未練があったのかと笑えてくる。

「……しにたくないなぁ」

それは自分とは思えないような、か細くて情けない声だった。