「私ね、暖が病気だってこと暖がいなくなってから知ったの。信じたくなかった…だから自分の記憶に蓋をした」

「うん」
暖が柔らかな表情を浮かべて返事をする。

「でも…暖のことまた思い出しちゃった。だってこんなに優しくて暖かい人私他に知らないもん」

私の目には徐々に涙が溜まっていく。

「っねぇ、…ねぇ、病気は…」
声がかすれる。

「………」
私の言葉に暖は何も言わずに、花に触れるかのような優しい手つきで私の頭をそっと撫でてくれる。

暖は随分と長い時間が経ってから、口を開いた。
「…僕ね、冷に会うためにここまできたんだ」
「え…?」
「ねえ冷、今から言うことを落ち着いて聞いて?」

暖が困ったように眉を下げて、あまりにも優しい表情でそう言うから私は「…うん」としか言えなかった。

「この学校にくる前に、言われたんだ。残り余命1年だって」

暖のその言葉に心臓が締め付けられるように苦しくなる。分かっていた…こうなるかもしれないことも。

それでも、あまりにも早すぎるじゃないか。
なんでこの世界はこんなにも残酷なのか、私には全く分からなくて。私の目からは涙が止まらない。

「冷、泣かないでよ」
ふふっと切なそうに笑っている暖は、何でこんな時まで優しいのか分からない。

苦しくて一番辛いのは暖のはずなのに。
何で私なんかのために笑ってくれるのか分からない。

そんな私の分からないだらけの感情を包み込むように暖は丁寧に、愛おしいものに触れるように、私をそっと抱きしめる。