数分間、私たちは暖を探し続けた。
二人して息を乱れさせている。そんな時、私はふとある場所を思い出した。

「…もしかしたら」
「はぁ…暖が行きそうな、場所でも…分かったのか」
息を整えながら桐生くんが尋ねてくる。

「うん、まだ分からないけど…」
自信のなさそうな私に「ほら、行ってこいよ」と言って勢いよく背中を押される。

「ちょっ…転ぶって!」
「うるさい、早く行けよ」

桐生くんも疲れているはずなのにそっぽを向いてそう言う彼は不器用だなと思ってしまう。

「桐生くん、ありがとう…行ってくるね」

私が向かったのは、私たちが最初に出会った…いや二度目に出会った場所。桜の木の下だった。

確信はもてない、けれどなぜか暖がそこにいるような気がして私は全力で走った。

ぼんやりと遠くから人影が見える。
色素の薄い桜色がほんのり混じった髪色、見間違えるわけがなかった。

私の大好きな人だから。

「ぁ…は、暖…!!」
私は息を絶え絶えにしながら何とか彼の名前を呼ぶ。

そんな声に気付いたのか彼が振り向いた。
「え…冷?どうしたの、そんなに急いで」

暖が心配そうに私を見つめていた。暖の声だ。
彼がいるとそう思うだけで安心して涙が溢れそうになるがそれを抑える。

「わたし、私ね…思い出したんだよ。暖のこと、ちゃんと思い出したよ」

その言葉に暖が一瞬目を見開くが、すぐに「そっか」と優しい微笑みを向けてくれた。