屋上へ続く扉を開けると、私の頬と手足は空風に容赦なく吹きつけられました。

 ナイフで切り付けられるような痛みに、私は思わず顔をしかめましたが、この世界で寒さを感じるのももうすぐ終わりだと思うと、そんな感覚すら愛おしく感じられるから不思議です。

 学校の大時計がカチリと針を動かしました。
 時刻はもうすぐ零時を迎えるところです。
 
 かじかんでほとんど感覚が無くなってしまった手を柵にかけると、私は一年近く暮らした街を見下ろしました。

 分厚い雲に覆われてしまって星空を見ることは叶いませんが、代わりに人々の営みによって作られたイルミネーションが街いっぱいに広がっています。

 こんな素敵な景色が見られる場所を立入禁止にしてしまうなんて、学校という場所は随分と心が狭いようです。

 「綺麗だね、リリィ」

 私の呼びかけに、足元のリリィがピクリと反応を見せました。
 リリィはその毛並みと同じく真黒な瞳でジッと私を見つめていましたが、やがて、ニャア、と一声だけ鳴きました。

 (ああ、やっぱりダメか……)

 私はがっくりと肩を落としてしまいました。

 リリィは私の言葉を理解してくれるのですが、結局、私の方は猫語を聴き取れるようにはなりませんでした。

 使い魔との対話には魔力を必要としないので、修行の身で魔力が制限されていることは言い訳にはなりません。

 単純に、まだまだ私が未熟だということでしょう。
 修行の時間はたっぷりあったというのに、情けない話です。