あれ以降、私は一層一人を好んだ。
心を殺し、本当の気持ちを偽って、誰とも接しなくなった。
あれ以上の悲劇が待っているくらいなら、温かいものから遠ざかろう。
失うと決まっているなら、幸せもいらない。
「もう二度とあんな思いはしたくない」
何にも侵されず、ただ寿命という時間を消費しよう。
機械人形の様に、ネジがまかれた時にだけ命が宿り、決められた動作だけをして。
そんな人形を目指した少女の生活は、十年以上が経過した。
多くの優しさを犠牲にした日々だった。
手を差し伸べてくれた人。
気遣いの言葉をかけてくれた人。
傍に居ようとしてくれた人。
それら全てに一定以上の距離を置き、拒絶した。
そんな努力の甲斐あってか、様々なものを失って得たのは……孤独という名の、平穏な生活だった。
中でも一番失ったのは、あれだけ大事だと思っていた居鶴との思い出。
苦しむことを恐れ、厳重に蓋をして見えない所に追いやったそれは、もう確かな輪郭を描くことが出来ない。
全部自分が選んだことだ。でも時々無性に寂しくなる。
実は居鶴の思い出と共に、もう一つ思い出せないことがある。
もう一人、この家には誰かいた気がするのだ。居鶴と自分以外に……誰かが。
今でも稀にそんな存在の気配を感じる。
それが何か分からないのに、不思議と安堵感が体を包んだ。
こんなヒビだらけの日常の中に、異分子が混入してきた。
ある日突然、見知らぬ青年が訪ねてきたのだ。
「線香をあげさせて下さい」
そうやって言われては断れなかった。
久しぶりの客人に戸惑いながらも彼を部屋に通し、遠くから観察した。
青年……にしては自分より年上だったが、少年のような幼さも残る顔立ちに、よく通る声。
「ありがとう。貴方は娘さん?」
「……実の娘ではないけど、強いて言うなら姪ですね」
「ということは……やっぱり、栞恩ちゃん? いやぁ、大きくなったね」
「お会いしたこと、ありましたっけ?」
「残念ながら。でも話はずっと聞いてたんだよ、居鶴さんから」
「そう、でしたか」
「うん。だから会えて嬉しいよ」
自分とは対照的に表情豊かでよく笑い、素直で明るい性格。
そんな彼が一瞬で苦手になった。
私には眩し過ぎる存在だったから、息が詰まった。
だからいつも以上に距離を置いて、愛想悪く拒絶した。
――そうすれば、もう二度と会うことはないと思っていた。