葬列は途切れることなく、居鶴の死を惜しむ人達で溢れていた。
 彼の人柄の良さと人望を現している様だった。

 私はその場から逃げるように部屋の隅で小さくなっていた。
 もう散々泣き腫らした後で、涙なんて一滴も出なかった。
 周りの大人から見ても異常なほど衰弱していたそうだ。
 手が空けば親戚たちが構ってくれたが、彼らの心遣いを他人事のように傍観していた。

 私の目には居鶴と過ごした思い出だけが再生されていた。
 現実味のない状態で誰かに手を引かれながら、大好きだった人が灰になる過程を見送った。

 ――心が、静かに死んでいくのを感じた。


 
 その後、他の親戚に引き取られたが、夜になると家を抜け出して居鶴と住んでいた家に戻ってしまう。……そんなことが何度もあったらしい。
 大人はみんな毎度根気強く連れ戻していたが、最初に痺れを切らしたのは叔父の奥さんだった。 

「そんなに我儘を言うなら、勝手に一人で生きなさい」

 そう突き放されたのをこれ幸いと、その言葉通りに私は生涯一人であの家に住み続けた。
 幸いにも蓄えはあったし、身の回りのことも最低限こなせた。
 たまに様子を見にくる親戚もいたが、普段訪問者は滅多に訪れない。

 雑音がしない、静かな空間。でも同時に地獄だった。
 
 少し前まで幸せな日常を過ごした、思い出に溢れた場所。
 私の居場所はここしかないのに、当時そこが一番の毒だった。
 温かい思い出と、冷たい現実の差をまじまじと感じさせられ、苦しかった。

 
 ――私は考えた。なんでこんなに苦しいのか。

 いつまで続くのだろう?
 もう辛くて悲しいのは、耐えられなかった。

 ――そうだ、温かい記憶が苦しいんだ。

 これがあるからいつまでも心が晴れない。
 だってもう一生手に入らない時間なのに。思い出すほど後悔しか生まれない。

「なら……いっちゃんとの思い出、忘れたい」

 そう強く願い、私は一番大切にしていた物に蓋をして、意識の外に手放した。
 何か猛烈な寂しさを感じたのには、気づかぬふりをした。
 こうして平穏を取り戻したつもりで、屍の様になった。

 なんだか体調も悪く寝込みがちになったのも、この頃だ。