ここは静かで暖かな場所。
私に都合の良く、幸せな夢をいつまでも見せてくれる。
それは気の遠くなるほど長い時間を費やして手に入れた、穏やかな永遠。
しかし永遠は狂気を呼び、狂気は正気を蝕む。
だからこそ今なら向き合える気がした。正気なら思い出す行為すら拒むだろう。
――大丈夫。今の私は既に壊れているから、これ以上狂うことはない。
これはようやく訪れた走馬灯なのか。夢から抜け出して意識の底へ沈んでいく。
いつものように隣で誰かの体温を感じた気がした。
ずっと遥か遠い昔。もう声も、顔も。ハッキリとは思い出せない。
薄情者だと笑われてしまうだろうか?
…………誰に? いや、どちらに?
私には実の両親の記憶がない。私が赤ん坊の頃に亡くなったから。
その後幼い私を引き取り育ててくれた人は、ずっと「いっちゃん」と呼んでいた伯父だ。
大好きだった。いつか恩返しをしたかった。
それだけなのに、多くを望んだわけではなかったのに、それらが叶うことは無かった。
私を引き取り数年で、彼はこの世を去った。
後から知ったことだが、彼は元々難病持ちで完治する見込みはなかった。
そんな闘病生活の身でありながら、幼子を引き取り育ててくれ、私には苦しんでいる姿を見せなかった。だから勘違いしてしまったのだ。
当たり前のように、これからもずっと一緒に暮らせる。
この優しい時間がいつまでも続く、と。
正直あの時のことはよく覚えていない。思い出さないように努めてきたから。
――唯一大切だったものをある日、突然奪われたのだ。
最期の瞬間、そばにいることも出来なかった。
居鶴は私の知らない間に、そっと逝ってしまった。
死、を正確に認識するにはまだ幼過ぎた。
それでも「もう二度と目を開かない」ことだけ理解し、泣き続けた。