「ご当主様は、そこの娘を救いたいとお考えで?」
「救い、なんて私の口から軽々しくは言えないな。だけど、出来うる限りの償いはしたいと考えています」
「なるほど」
キクゴロウの反応を見る限り、彼にとって俺がここに登場するのは予想外の事だと伺えた。
ならばお札の件は本当に偶然だったのか?
――それとも貴方が引き寄せた因果なのか。
「では此処で俺を見聞きしたことは、他言無用でお願いしますよ。勿論、うちの主人やヨミトにもです。この一件に関して貴方は墓まで持っていく。そう約束できるなら、彼女は然るべき所にお連れして供養しましょう」
「あぁ、必ず誓おう。果たせぬ様なら私を消しても構わない」
「俺ごときには無理ですよ。ただの庭師だ」
「それなら、君が納得のいく制裁を加えたらいい。任せるよ」
「……いいでしょう。承諾しました」
いつの間にか私の元に姿を現した露命が耳打ちする。
「信頼出来るのか……あの男」
「ええ。彼は今回の件で内心一番苛立っていたようです。顔には出しませんが」
「……あの、先に行ってもらえませんか」
「私がいては、都合が悪いと? でも私には彼らを最後まで見届ける義務がある。そこだけは譲れません」
「まあ、いいですけど。さっきの約束忘れないで下さいよ」
「他言無用というやつだろう。任せなさい」
「それと追加で。詮索・追求も控えてください」
「ああ、信じてくれ。その代わり、くれぐれも頼みましたよ」
俺は彼女を繋いでいた鎖を引きちぎり、体を掬い上げた。
この場所自体が大きな結界の中という考えのだから、中にいるものは物理的な拘束を施されていることが多い。
よって拘束具を壊すのは簡単だ。
でも外に出ることは出来ない。ならばどうするか。
――呼べばいい。
この娘が、彼女と同じなら現れるはずだ。そう、これは賭け。
――お戻りだぞ、あんたのご主人が。
この時、四人の茶室主人は各々異変を感じた。
それが今晩という特殊な夜の訪れを知らせる悪寒だと、全員が錯覚した。
幸運にも誰も異変を正確には察知しなかった。
それ程に一瞬の出来事で、且つそんな些細なことを気にしてる余裕は誰にもなかった。
庵の暗い歴史として刻まれた「茶室主人抹消事件」その真っ只中だった。
でもその現場に居合わせた当時の季楼庵当主キクゴロウだけは、目前に広がる光景の異常性を真摯に受け止めていた。
そして後世まで、約束通り誰にも話さなかった。