この状況で首を突っ込むなんて、よほど正義感が強いのか、おせっかいなのか。
全員が声の主を探す。
すると、すぐそこの曲がり角に立っていたのは見知らぬ少年だった。
自信なさげな憂いた雰囲気に、面倒ごとに関わってしまったという罪悪感に苛まれてるような表情。
本当……なんだって声をかけてきたんだろう?
――いや、それより……似ても似つかないのに、どうして。
この不思議な少年は、更に奇妙なところがあった。
彼からは……。
一番に行動を再開したのは、彼女の方だった。
少年めがけて武器を振り下ろすが、意外にも彼は受け止めてしまった。
「ジャ……マ、スルナ……!」
「っと……なんだよ、この人」
更に武器を軽々と取り上げ、容赦無く彼女の鳩尾を蹴り飛ばし、二人の間に物理的な距離が生まれる。
彼女はすぐには起き上がれないようで、地面に蹲り咽せていた。
呆気に取られていると、彼はこちらを振り返り声を上げた。
「おい、そこのあんたら! 逃げるなら早くしてくれよ」
「……聞かせて、何故助けてくれたの?」
「いつもの悪い癖だ、気にしないでくれ」
「そう……て、わっ、露命?!」
「栞恩。気付いてないようだが、もう限界だ。ここは彼に任せよう」
「でも、」
「俺は構わないよ。……それよりあんた、消えかけてるぞ」
「……え?」
ここで初めて自分の体を確認した。
先ほど貫通された腹部から、ハラハラと崩壊が始まっていた。
全くの無効化な訳がなかったらしい。
露命の悲しそうな吐息が目に沁みた。
「悪いな」
「この近くに良い神社があるらしい。俺も行く途中なんだ。当てがないなら其処に行くといい」
「分かった、先に行ってるよ。すまない」
「あぁ」
「……待って! 最後に名前、教えてくれない?」
「え?」
「私はシオン」
「ユメビシ、そう呼ばれてる」
「そっか……ありがとう、ユメビシ」
そのやり取りを皮切りに、露命は私を抱えて立ち上がりこの場を遠ざかった。
私は見えなくなるまで少年の背中を見ていた。
彼は最後まで彼女を足止めしていたのだ。
そんな義理なんてない、ただの通りすがりの筈なのに。
少年は自身をユメビシと名乗った。
当たり前だ、彼のはずがない。
なのにずっと後ろ髪を引かれてるのは、どうしようもなく彼に燐灯の気配を感じてしまったからだ。
それはなんの根拠もない、ただの違和感だった。