「栞恩に、話したいことがあります」
「私に?」
「えぇ。先ほど貴方は私が存在し続けている事を、喜んでくれた。それは貴方のおかげなんです」
「心当たりが全くないけど……え、何もしてないよね?」
「ワタシが実体を保っていられたのは、ある物を憑代にしていたからです。それは今も同じです」
「ある、物……」
「そう……あの時、栞恩が()()()()()()()()()()、ワタシはこれを持ち出すことが出来た」
 

「………………う、そ」
「貴方はあの時に燃えてなくなった、そう思っているかと思いまして」
「……これ、本当に、あの時の台本?」
「ワタシの存在がそれを証明していますが、信じられませんかね」
「ううん、信じる。露命は嘘つかないでしょ?」
「はい、誓って」
「ありがとう。ずっと持っていてくれて。……出来ればこの先も、露命が持ち続けて」
「……いいのですね?」
「うん。その代わり、絶対……消えないで」
「それが、貴方の願いなら」
「うん……ありがとう。それとね、露命。私、あの子を迎えに行きたいの」
「……栞恩。此処を出ると恐らく、実態の無い貴方は……長く、持ちませんよ」
「我儘でごめんね? でも」
「貴方の頑固さは、今に始まった事じゃない。もう決めてしまったのでしょう?」
「決めたよ」
「……分かりました。ただし、ワタシにも譲れないことがあります」
「露命?」
「ワタシも一緒に行きます。それが貴方を、外に出す条件です」
「……露命」
「最後まで、お傍にいます。一人にはさせませんよ」
「もう、敵わないな」
 
 
 身支度を整え、長く世話になった此処へ別れを告げた。

 すると戸は自然に開き、夜の景色と対面した。
 まるでこの建物自身に、新しい門出を祝福されている様だった。
 栞恩に続いて、ワタシも外に出る。
 
 振り返ると、役目を終えた様に、ワタシ達が過ごしていた小さな茶室は消失を始めた。
 それを栞恩と二人で見送り、ゆっくり前へ踏み出した。

 ――ワタシに結末は読めない。
 ただこれが栞恩と過ごせる最後の機会だと、覚悟した。