私は誰にも告げず、彼らの元を訪れていた。
 ここは庵の関係者でも、ごく限られた一部の者達しか知らない秘匿された場所。そ
 この最深部に少女は封じられ、今は眠りについている。

 そして彼は今日も変わらず彼女の側にいた。

「報告に来ました、露命(ろめい)さん」
「驚いた、本当に来たのか」

 彼は少女の付喪神で、幼い時から側で彼女を見守ってきた。
 彼らとの出会いは十数年前に遡る。
 そう気づかせてくれたのは彼の存在と、証言あってこそだ。
 言い換えると、彼らはあの時すでに巻き込まれていた。
 取り返しのつかない今になって知る事になるとは……。

「本当に申し訳ない仕打ちをしました。どんなに謝罪しても足らないでしょう。それを承知の上で話します。当第三茶室の主人シュウザンが此度の元凶。内々で確認を取り、言い逃れできない証拠も我々は入手しました。彼の処遇については今晩中に責任を取らせます」
「そうか……」
「ただそれは(こちら)のけじめ。ここからは私独断の話です」

 
 かねてより決めていた提案を打ち明ける為に、大きく深呼吸する。
 これはヨミトにも相談していない、決断だった。

「今からシュウザン暗殺のために、庵内は騒がしくなるでしょう。それを利用してお二人を逃して差し上げたい」
「いや、でもそれは」
「えぇ、分かっています。外に出るということは、術が解かれるということ。また先刻のように暴れてしまうでしょう。でも……」
「今しかないのか」
「残念ながら。でも可能な限り、お二人の気持ちを尊重したい。こんな瀬戸際に選択を迫ってしまい、申し訳ない」
「気持ちは有難いが、自由になるのは難しいだろうな。もう誰の声も届かないし、ワタシも彼女を制御することは出来ない……待て、静かに」
「どうされました?」
「誰か、こちらに来るぞ」
 
 そう告げ露命は姿を隠した。彼は基本、私以外に姿を現さないからだ。
 呼吸を整え、後方の相手の顔を確認する。
 それは此処に来られるはずのない、意外な人物であった。

 足元まである長い髪を揺らしながら、彼は持ち場を巡回する足取りで、ゆったりと真っ直ぐこちらに向かって歩いていきた。

 第二茶室の庭師である長身の男の名は――。
「……ホウゲツ? どうやって此処に、」
「まあ細かいことはいいでしょう。悪い様にはしませんよ」