止めるには時すでに遅く、彼女は扉を開けてしまい中からは邪気を孕んだ異形が出てきた。

 栞恩は足がすくんで動けないのか、呆然とそれを見上げていた。
 必死で駆け寄り何とか彼女を引き寄せ、ソレの進行経路から離れた場所に移動した。

 ソレはワタシ達には目もくれず、何処かへと消えていった。
 何か得体の知れないものを野に放ってしまったらしいが、今の我々に為す術はなかった。
 すると異変に気づいたらしい者達が、こちらにやってきた。

 
「誰です、そこにいるのは」
「おや、驚いた。子供だね」
「信じられません……。この少女が開けたんですか」
「それにしても不自然じゃないか。こんなウチと縁もない子、どうやってここまで入ってきたんだい?」
「そんなの本人に直接聞けばいいでしょう。お嬢さん、貴方何処から来た子ですか? ここで一体何を?」
「…………」
「はぁ……気を失ってる。困りましたねぇ」
「じゃあ彼にも聞けばいい。それにしても君達、歪な主従関係だね」
「ヨミト?」
「トウノサイ、よく見てご覧よ。かなり存在が危うくなってるけど、居るでしょう? もう一人」

「ん……あぁ、本当だ。あなた彼女の付喪神ですか」
「核が損傷してるね。本当は姿を保ってるだけで精一杯なんだろう? 心配しなくていいよ。君の主人は元の場所に送っていこう。だから聞かせてくれないか? ここで何を見たのか」

 互いをヨミト、トウノサイと呼び合う男達と向かい合った。
 どうやら彼らもワタシと同族なんだろう……近い匂いがする。
 そして此処が彼らの領域ならば、包み隠さずに事情を話すべきだろう。


「ワタシは、誰かに連れ去られる主人を追ってここに辿り着いた。主人を見つけた時、扉を開けているところで、間に合わなかった」
「他に誰か見たりは?」
「いや、主人以外誰もいなかった」
「……貴方、正直ですね」
「ちなみに中にいた奴は、やっぱりどこかに行っちゃった?」
「あぁ。申し訳ないが、ワタシ達にはどうすることも出来なかった」
「まぁ出ちゃった物はしょうがないよね? トウノサイが雑に封じるから」
「アレの処遇には皆、困っていたでしょう。いいじゃないですか、また捕らえれば」
 こちらが思っていたより、封印を解いてしまった件は、彼らにとって深刻な問題ではなかったような口ぶりだった。

 困惑していると、また一人こちらにやってきた。
 それは驚いたことに人間の気配だった。
「私のいない間に、話が進んでいますね。一応、当主は私ですよ」

 現れた人物は、この奇妙な土地を統べる当主で、キクゴロウと名乗った。
 彼は寛大な男で、我々の在り方を貴重な物として尊んでくれた。
 栞恩がもう少し大人になったら、ここで手伝いをすることを条件に、お咎め無しで解放してくれたのだ。