「先輩」
「なんだい、後輩くん」
「俺、まだ烈奇官に配属されてから華宿人に遭遇してないので、改めて聞きたいことがありまして」
「いいよ。何が知りたいの?」
「あれは人間か化け物、どちらですか?」
「単刀直入だね。俺から見たら、見た目はね。人間だよ。少々興奮気味な」
「他に一般人と見分けるのは、やはり首の後ろですか」
――華宿人。寄生華と呼ばれる、寄生植物の妖に憑かれた人間。
まずは首の後ろに種を埋め込まれる。
すると精神的に消耗する悪夢を見続けることになり、メンタルが不安定になる。
放っておくと「一線越える」ことに余念が無くなり、犯罪欲求が高まる。
最終段階の一歩手前では、夢と現実の区別がつかなくなり、種は蕾まで成長。
そして花が開花すると、自我と体を華に乗っ取られる。
「そう、視える奴にしか視認できないけどね。でも蕾の段階なら救いがある」
「救い? 助けられるんですか」
「俺達には無理だよ。庵の当主にだけ、摘出が出来たらしい。今は正直よくわからない」
「それは少し安心しました」
「まあ安心し切れないけどね。あそこも曰くが多いから」
「曰く……まあ機密事項の本山みたいなものですし」
「確かにね。あぁ、うちにも昔から伝わる噂話があってね。『喰い姫』は知ってる?」
「あの都市伝説の少女ですか? 今でもたまに目撃情報が上がる」
「そうその彼女。あれが目撃され始めたのは今から約八十年前」
「八十年!? そんな昔から……」
「もう亡くなられた俺らの大先輩の証言でね。ほら、今の喰い姫は顔を隠しているだろう? けど最初は素顔を見ることが出来たんだと。それがね、ある人物とそっくりだったらしい」
「ある人物ですか?」
「それが一番最初に上級華宿人となった少女と言われてる」
「何故そんなこと分かったんですか」
「異能を使う華宿人が確認されたのは、明治二十六年頃。資料が残っているから間違いない。そして俺たちの大先輩は、この事件担当の生き残りのため分かったらしい」
「そんなことが」
「それでここからが、庵の曰く。当時は庵が引き取り処分したと報告された」
「え?」
「不思議だろ。じゃあ何で、そっくりさんが現れた?」
「その二人は関係あるのでしょうか……」
「さあね、噂だから。ただ言えるのは、」
「……季楼庵は何かを隠してる?」
「察しがいいね。けどそれをあちらに聞くのはタブーなんだ。リスクしかないし。今までもこれからも、持ちつ持たれつの関係を築くに限るでしょ」
「そう、なんでしょうね……。あの、先程話題に上がった捜査資料、今でも閲覧可能ですか?」
「え? 探せば何処かにあるとは思うし、読むのも問題ない」
「探してみてもいいですか?」
「別にいいけど、あまり深く首を突っ込むのはオススメしないよ。まあ話しちゃったのは俺なんだけど」
「大丈夫です。程々にしておきますから」