「先輩」
「なんだい、後輩くん」
「俺、まだ烈奇官(ここ)に配属されてから華宿人(かしゅくじん)に遭遇してないので、改めて聞きたいことがありまして」
「いいよ。何が知りたいの?」
「あれは人か化け物、どちらですか」
「……見た目はね、人間だよ。少々興奮気味な」
「他に一般人と見分けるのは、やはり()()()()ですか」

 
 ――華宿人。蟠華(ばんか)と呼ばれる寄生植物の妖に憑かれた人間の末路。

 まずは首の後ろに種を埋め込まれる。
 すると精神的に消耗する悪夢を見続けることになり、メンタルが不安定になる。
 放っておくと「一線越える」ことに余念が無くなるため、犯罪欲求が高まる。
 これは最終段階の一歩手前で、埋められた種は蕾まで成長している。
 完全に花が開花すると、蟠華になってしまう。

 こうして蟠華は密かに増え続け、華宿人に罹る被害は絶えない。

 
「そう、視える奴にしか視認できないけどね。でも蕾の段階なら救いがある」
「救い? 助けられるんですか」
「俺達には無理だよ。庵の当主にだけ、摘出が出来るんだ」
「それは少し安心しました」
「まあ安心し切れないけどね。あそこも曰くが多いから」
「曰く……まあ機密事項の本山みたいなものですし」
「確かにね。あぁ、うちにも昔から伝わる噂話があってね。『喰い姫』は知ってる?」

「あの都市伝説の少女ですか? 今でもたまに目撃情報が上がる」
「そうその彼女。あれが目撃され始めたのは今から約七十年前」
「七十年!? そんな昔から……」
「当時の目撃者の中に、半世紀以上烈奇官に勤めていた方がいた。その人の証言でね。ほら、今の喰い姫は顔を隠しているだろう? けど最初は素顔を見ることが出来たんだと。それがね、ある人物とそっくりだったらしい」
「ある人物ですか?」
「それが()()()()()()宿()()()()()()()()と言われてる」


「何故そんなこと、分かったんですか?」
「華宿人が確認されたのは明治二十六年頃。資料が残っているから間違いない。そして俺たちの大先輩は、この事件の生き残りのため覚えてたらしい」
「そんなことが……」
「それでここからが、庵の曰く。当時は()()()()()()()()()()と報告された」
「え?」
「不思議だろ。じゃあ何で、そっくりさんが現れた?」
「その二人は関係あるのでしょうか……」
「さあね、噂だから。ただ言えるのは、」

「……季楼庵は、何かを隠してる」
「察しがいいね。けどそれをあちらに聞くのはタブーなんだ。リスクしかないし。今までもこれからも、持ちつ持たれつの関係を築くに限るでしょ」
「そう、なんでしょうね……。あの、先程話題に上がった華宿人最初の捜査資料、今でも閲覧可能ですか?」
「え? 探せば何処かにあるとは思うし、読むのも問題ない」
「探してみてもいいですか?」
「別にいいけど、あまり深く首を突っ込むのはオススメしないよ。まあ話しちゃったのは俺なんだけど」
「大丈夫です。程々にしておきますから」