言葉通りに、私の感情は自分で制御が効かないほど、深い所まで沈んでいった。
その隙に化け物は私の首筋に何かを埋め込むと、用は済んだとばかりに姿を消した。
体内に入ってきた異物は甘い毒のように、意識を朦朧とさせながら浸透していった。
私は理性を失う代わりに、自由の効く頑丈な体を手に入れた。
崩壊寸前の家屋から難なく脱出に成功し、まずは例の盗人を追うことにした。
それはまだ近所に潜伏しており、すぐに見つけた。
改めて姿を捉らえると、体内の血液が沸騰したかのような激しい熱を感じた。
引っ捕まえて胸ぐらを掴み、顔を覗き込むと相手は明らかに怯えた様子だった。
だって今頃焼死体になっていると思ってた女が、復讐しに業火の中から舞い戻ってきたのだから。
私は「絶対に許さない」と腹から言葉にならない叫び声をぶつけた。
すると、男を上から引っ張っていた糸が切れたのを見た。
突然死が降ってきたのか、天から見放されたのか。
人形劇の操り糸が切れたように、それはぴくりとも動かなくなった。
何とも味気なく幕は降りて、目の前には息絶えた憎い犯罪者が転がっていた。
私はようやく自分に訪れた変化を認識した。
まずはこの糸。こんな物が見える様になっている。
そして私が怒りの感情をぶつけただけで、糸が切断され男は事切れた。
惨たらしく殺してやろうと思っていたのに、呆気なく逝かせてしまった。
――あぁ、そうか。
今度は私が化け物になっていたのだ。
ただ恨みを叫ぶだけで、相手を殺してしまう、そんな馬鹿げた化け物に。
もう人ではないんだと実感が湧いた。
その事実に戸惑い、私はあの場から逃げ出した。
もう帰れる場所は本当に何処にもなかった。