これで終われば私も化けて出たりはしなかった。
ただあの男は非常に用心深かった。自分が逃走する際、家に火を放ったのだ。
よりにもよって、居鶴と燐灯、二人と過ごしたこの場所に、だ。
私は薄れゆく意識の中で、自分の不甲斐なさに怒り、震えていた。
……そして初めて疑問に思った。
何故、私はこんな目に遭っているのか、と。
――どうして?
『燐灯と過ごすうちに、幸福を感じてしまったから』
――何故、幸福を感じてはいけないの?
『そういう呪いだから』
――呪いって、何?
『分からない……でもきっと、罰』
――罪を犯したの?
『多分、あの化け物を外に逃してしまったこと』
――何故そんなことをしてくれたの?
『中にあんなのがいたなんて、知らなかったの。騙された』
――騙された?
『そう……あそこに、いっちゃんがいるって』
――誰に、そう言われたの?
『…………誰、なんだろう。分からない』
――ねえ、そいつが全ての元凶じゃない?
『待って……私は今、誰と話してる?』
――逃してくれたお礼だよ。一緒に復讐しよう、死にかけのお姉さん?
燃え盛る炎の中、その異形は平然とそこに立ち、複数の目で私を見下ろしていた。
それは忘れるはずもない。あの時、扉を開けた先にいた化け物だった。
強い炎に体の肉が容赦なく焼かれていく。
それは残された時間があと僅かだと思い知るには充分の苦痛だった。
『私は、自由に動く体が欲しい。憎い……憎くて堪らない。私を騙した奴と、家に火をつけた奴が。このまま惨めに死ぬなんて、受け入れられない』
――わかった、一緒に墜ちよう……憎しみの底まで。