居間だった場所が最も悲惨で、中央に大きな血溜まりが出来ていた。
 大きなガラス戸や食器棚が倒れていたからだ。
 それらの下敷きになる形で、男女の人影が確認された。

 女の方はその家に住む栞恩だとすぐに判明したが、男の顔は身元が判別出来ないほどに損傷していた。
 人を呼び込み懸命な救出活動が功を成し、二人は早急に病院へ運ばれた。
 対処が早く、幸いにも双方命に別状はなかった。

 その代わり大きな外傷が残った。それは上半身……専ら頭部だった。

 
 ――こうして私は聴覚を失い、全身に麻痺が残った。

 対して燐灯は両目を失明し、顔に一生消えない傷が残った。
 それは役者としての彼の死を意味した。


 私はどこかで勘違いしていた。
 何故、悲劇は()()()()()起こるものと思い込んでいたのだろう?


 どんな顔で会いに行けばいいのか、答えはずっと出なかった。
 なんの罪も無い、彼の未来を奪ってしまった。
 どれだけ謝罪の言葉を並べても、結末が変わるはずもない。

 ――だって悲劇はすでに起きてしまったのだから。

 ならば謝罪なんて、罪悪感から私を救うための免罪符にしかならない。
 今回の件、私に非があると知ったら、彼は間違いなく私を恨むだろう。
 いや、そんなの恨んで当然だ。罵倒したって構わない。寧ろそれを望んでいる。
 なのに、彼の言葉を彼の口から聞くことは……もう一生叶わない。

 ここは静かすぎる。私は初めて本物の孤独を知った。
 どれだけ無責任と思われようと、私はもう彼の側にはいられなかった。
 だってこれで終わる保証なんてないのだから。
 私が償えることは、ただ一つ。これ以上悲劇が起きないように、完膚なきまでにその可能性を断つことだ。

 ……これ以上彼を苦しめたくはない。