それは見た目こそ、人間の女の子だった。
 ただ状態が普通ではなかった。
 痛々しい姿……傷だらけで全身火傷の重症。動けてるのが不思議だった。
 そして目には強い憎悪の色を灯し、発する声は獣じみていた。
 彼女が唸り声を上げる度、周囲にいた人が息たえたらしい。
 突然の異常事態に誰も対応なんて出来るはずがない。
 まるで天災だ。
 言葉が通じず、意思疎通が図れない化け物だと。
 派遣された烈奇官(れっきかん)からも死人が二人出たそうだ。
 それほど規格外で前例のない存在はもう人の手には負えない……。
 そんな彼女は速やかに処分を望まれ、我々に依頼が来た。

 幸運にも例の朱華鬼(はねずき)が我々に協力し、容易く少女を拘束して見せた。
 しかし蓋を開けてみれば、――――――――――――――――――――――。
 その後――――が主導となり、――――への拘束が完了した。
 
 しかし、それこそが大きな間違いだった。
 もっと早く我々の、いや。私の過ちに気づくべきだった。
 彼女に寄生していた()()の存在は揺るがない真実を証明していた。
 こんな残酷な仕打ちをして、どうしたら償えるというのか。



 
 
「……これは、」
 蔵の片付けをしていたところ、表紙のない冊子(ノート)が出てきた。
 何気なく中身を確認すると日記のようだった。一部黒塗りされて読めないが、この筆跡はおそらく……。

「おや、キクの字だね」
「やはりそうでしたか。でも何故こんな所に、だって此処は……」
「現在失踪中の我らが現御当主、その寝床になってた所だね。まあ、キクから貰ったのか、盗んだんじゃないの?」
「そんなあっさりと……。それでヨミト、これは貴方が管理しますか? 先代当主の遺品ですし」
「いや、このままにしておこう。此処にこれがあるのは、何か意味があるはずだ」
「じゃあそれくらいですよ。あとは普通に、スメラギさんの私物が置いてあるだけでした。何か手掛かりになると良いんですが」
「そうだなぁ。仮にこの日記を盗んだと仮定すると、彼は何かを探っていた。または知ってしまい」
「トラブルに……巻き込まれた?」
「一つの可能性としてね」


「…………待った、念の為聞きますけど」
「ん、なんだい?」
「僕これ読んじゃいましたけど、見られてはまずい内容なんですか?」
「別に隠していたわけじゃないさ。トオツグ、君が生まれるより前の話でね。庵を裏切った者がいたんだ」
「大事件じゃないですか」
「あぁ、それも先代の第三茶室主人がね。彼は一人の少女の人生を利用して無茶苦茶にし、人でいられなくした。そして厄災をばら撒いてしまった。気づくにはあまりに遅すぎたが、もう済んだ話だよ。……ただ」
 一呼吸置くと、彼は珍しく拗ねた表情で再び口を開いた。

「この件、一つ分かってないことがあるんだ」
「え、ヨミトにも知らないことがあるんですか」
「そうなんだよ。面白くないことに、僕にすらキクは多くを語らなかった。もし僕以外に知ってる者がいるなら妬いちゃうね」
「キクゴロウさんが隠し事ですか。それは一体……?」


()()()()()()()()()だよ」