「じゃあ行ってくるね。和希」
「ああ、気をつけて行くんだぞ」
和希は読んでいた本を閉じて、うきうきした様子の朱里を見つめ、にっこりとして見送る。だがドアが閉まると、すっと彼の顔から笑顔が消えた。
(朱里……最近一緒に過ごしてくれなくなったな)
和希は朱里と結婚し、半年前に結婚二年目を迎えた。中々予約が取れない店にディナーに招待したのだが、朱里は本当に嬉しそうだったのだ。プレゼントしたピアスも喜んでくれたし、朱里がくれたネクタイは、和希のお気に入りでもある。
しかしその3ヶ月後くらいから、朱里は和希がデートに誘っても、その首を縦に振らないのだ。しかもどこへ行くと聞いても行き先すら教えてくれない。聞いてもはぐらかすばかりで、和希は釈然とせずに腕を組むばかりである。一度戦場がなんちゃらとブツブツ言っていたのを聞いた時は驚いたが、和希の聞き間違いに相違ない。戦場なんて、この日本にはありゃしないのだ。
(しかも風呂場にスマホを持込んでるんだよなあ……昔はそんなことしなかったのに)
もちろん一緒にお風呂も入らなくなった。朱里がスマホを風呂場に持ち込むようになってからである。朱里は以前はそんなにスマホを見る方ではなかったのに、目を皿のようにして画面とにらめっこするのがしょっちゅうなのだ。
とはいえ、夫婦の営みは拒まれたことはなく、朱里からも誘ってくるのだが、和希はモヤモヤと胸のうちに抱えているのが原因かそうでないのか、途中で萎えてしまう頻度が増え、最近は和希が断る始末である。
(仕事から帰ってくるのが明らかに遅くなっているし、朱里の部屋に鍵付きの収納が追加されていたり、僕が朱里の部屋に入る前にノックしたら何かドタバタ音が聞こえてるし。しかも背中に隠したタブレットの中身も見せてくれないし……何だか妙なんだよな……朱里、もう僕のことは好きじゃないのか?)
我が家は寝室も部屋も別々である。お互い仕事の終わる時間が違うということが理由なのと、一人の時間はお互いに必要なタイプでもあるので、結婚前からそれは同意しているのだ。
友人からはレスにならないかと言われているのだが、愛を深める時のみ、どちらかの部屋のベッドで一緒に寝ることになっていて、いつまでも恋人気分でいられるのもまた事実である。二人はこれをお泊りと称しており、結婚前よりも却って仲が深まっているのだ。
そう、3ヶ月前までは
朱里が挙動不審になるまでは
「ああ、気をつけて行くんだぞ」
和希は読んでいた本を閉じて、うきうきした様子の朱里を見つめ、にっこりとして見送る。だがドアが閉まると、すっと彼の顔から笑顔が消えた。
(朱里……最近一緒に過ごしてくれなくなったな)
和希は朱里と結婚し、半年前に結婚二年目を迎えた。中々予約が取れない店にディナーに招待したのだが、朱里は本当に嬉しそうだったのだ。プレゼントしたピアスも喜んでくれたし、朱里がくれたネクタイは、和希のお気に入りでもある。
しかしその3ヶ月後くらいから、朱里は和希がデートに誘っても、その首を縦に振らないのだ。しかもどこへ行くと聞いても行き先すら教えてくれない。聞いてもはぐらかすばかりで、和希は釈然とせずに腕を組むばかりである。一度戦場がなんちゃらとブツブツ言っていたのを聞いた時は驚いたが、和希の聞き間違いに相違ない。戦場なんて、この日本にはありゃしないのだ。
(しかも風呂場にスマホを持込んでるんだよなあ……昔はそんなことしなかったのに)
もちろん一緒にお風呂も入らなくなった。朱里がスマホを風呂場に持ち込むようになってからである。朱里は以前はそんなにスマホを見る方ではなかったのに、目を皿のようにして画面とにらめっこするのがしょっちゅうなのだ。
とはいえ、夫婦の営みは拒まれたことはなく、朱里からも誘ってくるのだが、和希はモヤモヤと胸のうちに抱えているのが原因かそうでないのか、途中で萎えてしまう頻度が増え、最近は和希が断る始末である。
(仕事から帰ってくるのが明らかに遅くなっているし、朱里の部屋に鍵付きの収納が追加されていたり、僕が朱里の部屋に入る前にノックしたら何かドタバタ音が聞こえてるし。しかも背中に隠したタブレットの中身も見せてくれないし……何だか妙なんだよな……朱里、もう僕のことは好きじゃないのか?)
我が家は寝室も部屋も別々である。お互い仕事の終わる時間が違うということが理由なのと、一人の時間はお互いに必要なタイプでもあるので、結婚前からそれは同意しているのだ。
友人からはレスにならないかと言われているのだが、愛を深める時のみ、どちらかの部屋のベッドで一緒に寝ることになっていて、いつまでも恋人気分でいられるのもまた事実である。二人はこれをお泊りと称しており、結婚前よりも却って仲が深まっているのだ。
そう、3ヶ月前までは
朱里が挙動不審になるまでは