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~黒の終焉・新ギルド拠点~

「人《じん》Dランクが37人。そんで炎《えん》Cランクが11人に……天《てん》Bランクが2人。そして竜《りゅう》Aランクが1人」

 何やら真剣な顔つきで机上の紙に目を通す男――バット・エディング。
 顎に手を当て、気怠そうに肘を着きながら紙へと視線を落としているバットは、次の瞬間、不敵な笑みを浮かべて愉快に笑い出した。

「うひゃひゃひゃ! いつの間にか50人を超える大所帯ギルドになっちまったぜ!
ざっと5人パーティが10組。前の黒の終焉より人数も多けりゃ戦力も増してやがる。
やっぱランク通り天B2人と竜A1人のこの3人が率いるパーティがダントツの稼ぎ頭。
コイツらは棚ぼたもいいとこだぜ。それに他の奴もやる気は十分あるし、最低限の動きはしてる。こりゃ遂に“イケる”ぜ。なぁ、舐め腐ったアーサー君よぉ――!」

 バットの憎悪の瞳が追うは、他ならないアーサー・リルガーデンただ1人。己の全てを奪ったアーサーへの復讐の毒牙は、もうすぐそこまで迫っていた。
 悪運の強さと悪知恵でここまでの戦力を集めたバットは、今すぐにでもアーサーを殺したいという気持ちで一杯であった。だがそれと同時に、確実をアーサーへの復讐を果たす事は勿論、バットは更に父親であるオーバト・エディングをも見返そうとしていたのだった。

(この戦力があれば、最早アーサーの野郎は目じゃねぇ。後はコイツ等と、コイツ等をここまで束ねて組織をデカくした俺の実力をあのクソ親父にも見せつけてやらねぇと気がすまねぇ……!
アーサーの野郎は勿論、俺の全てを奪った様に、今度は俺がお前の全てを奪ってやるぜオーバト・エディング! テメェの天下もここま。実の息子に足元救われる日を舞ってやがれ!)

 バットには最早復讐の二文字しか存在しない。しかし、以前の彼とは少し違い、今のバットは感情を優先させつつも、しかと今の自分や現状を冷静に見極め判断していた。
 アーサーと父親に全てを奪われ、一度地に落ちたバットは、そのまま終わる事なく怒りを原動力に変えて再び這い上がった。そしてこの経験が奇しくも、バット・エディングという人間を少なからず成長、変化させていたのだ。

「マスター。古参の面子やガルダスのパーティの奴らがまた騒ぎ出してやがる」
「ああ、分かった。俺が直接話そう」

 そう言ったバットは椅子から立ち上がると、何やら机の上に置いてあった紙の束を雑に掴み、一堂に会しているメンバー達の元へと向かい出した。メンバー達も部屋から出て来たバットを視界に捉えるや否や、数人が矢継ぎ早にバットに声を掛けた。

「お、マスター! 丁度良かった。話したい事があるんだが!」
「お前の話は後だ。俺達が先だろ」
「新参者は黙ってろ! 俺の方が前からこのギルドにいるんだよ」
「所属の順番なんて関係ねぇ。全ては実力次第だろ。一丁前に文句言いてぇなら、先ずはウチのパーティの稼ぎ抜かしてから出直せ」
「な、何だとッ……! ふざけんじゃねぇぞテメェこの野ッ……「落ち着けお前ら」

 荒々しいメンバー達が衝突しかけた瞬間、バットが会話に割って入った。更に「お前達の言いたい事は分かってる」と前置きしたバットは、そのまま全員に聞こえる程の大きな声で言い放った。

「いいか、全員よく聞け! ひとまず今日までご苦労。お前達のやる気と実力は十分に見させてもらった。この実力なら我がエディング装備商会と正式に契約を結べるだろう」
「「うおおお!」」

 バットの言葉に沸くメンバー達。

「そこでだ! 確かにこのままの曖昧な状態じゃ、お前達の不満が貯まるのも無理はない。だからコレを用意した!」
「「……?」」

 バットは持っていた紙の束を上に掲げて皆に見せるが、メンバー達はその紙が何なのまだピンと来ていないせいか。一瞬の静寂が生まれた。しかし、次のバットの言葉で、この場は再び大歓声に包まれる事となる。

「これはエディング装備商会、そして我が黒の終焉ギルドの正式な加入の為の契約書だ――!」
「「うおおおおおおお!!」」
「遂に来たぜ!」
「正直嘘なんじゃねぇかと疑ったぜ!」
「あのエディング装備商会となりゃ、生活は安泰だ!」

 一斉に湧く場。皆念願であった正式な契約に、自然と歓喜の声が上がる。

「しかーし! 決して勘違いはするな。契約したからといってそれで終わりじゃねぇ! 寧ろここからが始まり。俺のギルドに入ったからと浮かれてる奴は何時クビになっても可笑しくないと思え。
でもそれはお前ら自らに奢りが無ければ全く問題のない話。今までの様に……いや、これから更に俺にその実力を見せてみろ!

正式に契約を結びたい者、実力を示したい者はこの契約書にサインするんだ!
だが先に言っておく。契約書のサインと同時に“初任務”という名の最終選考も行う。初任務の内容はここに記してある。それを踏まえた上で、我こそはと思う奴は契約書を取りに来い!

黒の終焉ギルド――そしてエディング装備商会はお前らが思っている以上にデカい存在だ。結果を出した奴には、今までとは比べ物にならない程の金、地位、名誉、欲しい物が全てが手に入ると思え! それが我がエディング装備商会だ! 気合い入れろ野郎共ォォォ!」
「「うおおおおおおおおおおおお!!」」

 類は友を呼ぶとでも言うべきか。様々な理由はあれど、この場の全員に共通するはシンプルな“欲求”のみ。しかしシンプル故、その結託と勢い、熱量は凄まじかった。結果誰もバッドに“騙されている”とは知らず、自然と同じ志の者達が同じ方向を向いた瞬間であった。

(ひゃーひゃひゃひゃ! 面白過ぎるぐらいアホな連中だぜ全くよぉ。こんな契約書は偽物に決まってんだろ。お前らみたい品のねぇ下等な腐れハンター共が、エディング装備商会と契約なんて結べる訳がねぇっつうの。
でも安心しろクズ共。お前達のその実力と無駄なやる気だけは俺がちゃんと使ってやる。
まぁ全てが上手くいった暁には、俺が“新エディング装備商会”のトップとして、お前らにも相応の甘い蜜を分けてやらん事もねぇ。精々自分の為、そして俺の為に動いてくれよ兵隊共――!)

 歓喜に包まれるこの場で、バット独りだけが、皆とは違う不敵な笑みを浮かべていた。
 そして、水面下に潜んでいた大きな影が、遂にアーサーを飲み込むべく動き出した――。