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~ダンジョン・フロア96「魔女の城」:アーサー&マリアside~

 黒い大きな鍔に隠れて、顔がいまいち確認出来ない。だが全身黒色の服に包まれている彼女は、間違いなく目の前のアーサーとマリアに殺意を放っていた。
 見た目は限りなく人間に近い。しかしよくよく見ると、尖った耳に大きな鼻。肌はどこか紫がかっており、それが人間ではない事を物語っている。

「ククククッ。来客とは何百年振りだろうかね……」

 “魔女帝・ヘクセンヴェロニカ”――。
 彼女はアーサー達がいるフロア96のモンスターであり、不死鳥王・フェニックスと同類の神Sランクレベル。得体の知れない不気味なオーラと笑みを見せていた。

「魔女……?」
「気を付けてアーサー君。“来る”わよ――」

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~ダンジョン・フロア96「デスリバー大砂漠」:ベクター&シェリルside~

「「暑いです」」

 シェリルとベクターの気怠い声がハモる。何もしていない、立っているだけで全身が焼かれる様に暑いデスリバー大砂漠。早くも2人は多くの汗を流していた。

「“プロテクト”」

 徐にそう唱えたのはベクター。これは彼の賢者スキルの1つであり、あらゆる耐性を付与して身を守る力があるらしい。ベクターのスキルによって、2人は灼熱の暑ささに耐性が付いた。

「暑くないです」
「一応そういうスキルですから。それより――」

 直後、ふと視線を横に向けたベクター。
 2人の視界の先は、果てしなく続く大砂漠。しかしその砂漠の真ん中には、明らかに異質な存在がそこにいた。

 “超巨神兵・サクリファイス”――。
 未来文明の科学技術が施されたような大型の機械でありながら、どこか何千という古代の歴史をも感じさせる無機質な巨神兵。フェニックス、ヘクセンヴェロニカと同じ神Sランクモンスター。
 その巨神兵に感情はない。しかし、確実にシェリル達を敵と認識していた。

<魔力センサー感知。対象2体ロックオン>
「どうやらその気のようですね」
「名前、シェリル……でしたよね? 君クールそうに見えて、野蛮グリムと同じぐらい好戦的ですね」

 超巨神兵・サクリファイスがシェリル達を敵とみなした事が分かった瞬間、対するシェリルもサクリファイスを敵とみなし、早くも魔力を高めて剣の柄を握っていた。
 ベクターはその切り替えの早さと好戦的なシェリルの姿に、一瞬グリムの姿が重なって見えていた。

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~ダンジョン・フロア96「不死の火炎山」:モルナ&グリムside~

「はーっくしょん……!」
「どうしたのグリム、風邪? それともフェニックス相手にしてるのに寒いの?」
「いや。多分誰かが俺の噂でもしてんだろ。こう見えてもトップクラスの有名ハンタ
ーだからな」
「あんまり自分で言わない方がいいよそういうの☆」
『ギギャアアアッ!』

 まるでモルナの意見に賛同するかの様なタイミングで咆哮を上げたフェニックス。

「ほら、フェニックスもそう思うって!」
「やかましいわ! 絶対そんな事言ってねぇだろ」

 グリムとモルナがそんな事を言い合っていると、宙を舞っていたフェニックスが急降下。勢いよくグリム目掛けて突撃してきた。

 ガキィィン。

『ギギャ!』
「そんなもんかフェニックス!」

 グリムの武器とフェニックスの鋭い嘴が激しく衝突。一瞬の鍔迫り合いの後、互いに衝撃をいなす様に後方へ飛び下がった。そしてグリムは右手に『ムラマサの妖刀』、左手に『草薙の剣』を持ち二振りを構えると、グッと魔力を高めた。

「所詮お前らの実力は魔王以下なんだろ? 俺達も急いでる身だ。テメェとのお遊びもここまで。こっちは迷子になってる仲間も探さないといけねぇんだよ――」
「モルナ達が迷子になってるってゆー確率のが高いけどね☆」

 グリムはモルナのツッコミを他所に、空中のフェニックスの元まで跳躍。

「二天我流……“神神落死(ししおとし)”!」

 スパン――。

『ギッ……!?』

 刹那、両断されたフェニックスの頭部と首がボトりと大地に落下。数秒前まで激しく燃え盛っていた炎も消え、宙に残された胴体も時間差で大地へと落ちた。

「うおおー☆ さっすがグリム! フェニックスを一撃で倒すなんて頼りになる~!」
「調子いい奴だな本当に」

 散ったフェニックスを横目に、グリムは静かに剣を鞘に納めた。

 不死の火炎山、グリム対フェニックス。勝者グリム。

 そして時を同じくして――。

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~ダンジョン・フロア96「魔女の城」:アーサー&マリアside~

「とどめよ……“リバース・ヒール・アクション”!」
『ウギャァァァッ……!!』

 マリアの攻撃スキルが直撃した魔女帝・ヘクセンヴェロニカは、断末魔の叫びを上げると共に、この世から消え去っていった。
 
(マリアさんってヒーラーだよな? なのに自ら「とどめ」って……。流石唯一無二の“攻撃型ヒーラー”。美人な見た目と違って恐ろし過ぎる――)

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~ダンジョン・フロア96「デスリバー大砂漠」:ベクター&シェリルside~

「“時盗み”」
<……!?>

 ベクターのスキルによって、巨神兵サクリファイスの動きが止まった。

「奴を止めておけるのは3秒が限界ですね」
「十分です」

 シュバン。

 白銀の一閃――。
 シェリルの無駄のない動きから繰り出された一太刀は、彼女の何十倍もある超巨神兵・サクリファイスの体を切断した。

<損傷ダメー……ジ……修復不可……プロ……グラム……停止……>

 サクリファイスからそう音声が奏でられると、巨大で無機質な機械はガラガラと轟音を響かせながら、砂へと沈んでいった。

(これが彼女、『勇者』スキルに選ばれた者の実力ですか……。確かに剣術だけ見ればまだ粗削りで、野蛮グリムの方が洗練されてますね。
だけどSランクアーティファクトを召喚させるアーサー・リルガーデンと、勇者であるシェリル・ローライン。君達2人は間違いなく僕らハンターの中でも特質な存在です。
君達が自分の力を完璧に使いこなせれば、魔王復活を阻止するのも、このダンジョン――世界樹をこの世から消滅させる事が出来るのも、全てはこの2人に懸かっていると言ってもいいでしょう)

 崩れ落ちたサクリファイスを見るシェリルを横目に、ベクターはそんな事を思っていた。

「どうですか? 『聖なる剣』の使い心地は」
「はい。とてもしっくりきます。今まで使ったどのアーティファクトよりも」

 そう言ったシェリルは手に持つ『聖なる剣』に視線を落とす。

「まさかリバースフロアで手に入れた『聖なる剣(C+3)』がSランクまで上がって“勇者専用”になるなんて」
「そうですね。C+3の表記がSランクにまで上がる事は僕も予想していましたが、それが勇者専用のSランクアーティファクトになるとは流石に予想外です。
以前手に入れた『聖なる鎧・足(C+3)』がこんな形で役に立つとも」


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シェリル・ローライン

【スキル】勇者(A):Lv4
・勇者の証(全能力値+20000)
・スキルP:2,880,200
・聖剣一文字
・聖斬波

【サブスキル】
・勇者を紡ぐ者(使用不可)

【装備アーティファクト】
・スロット1:『聖なる剣(S):Lv9 ※勇者専用』
・スロット2:『ドラゴンメット(A):Lv9』
・スロット3:『ドラゴンウイング(A):Lv9』
・スロット4:『ドラゴンアーム(A):Lv9』
・スロット5:『聖なる鎧・足(S):Lv9 ※勇者専用』

【能力値】
・ATK:26,000『+110000』
・DEF:26,000『+18000』
・SPD:26,000『+110000』
・MP:26,000『+18000』

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「ベクターの言う通りでしたら、あと3つは私専用のSランクアーティファクトが存在するのですよね?」
「そうだね。ほぼ確実に残りも同じパターンだと思う。アーサーが皆のアーティファクトをSランクにランクアップさせたあの日から、君のそのアーティファクトも揃えようとジャックがエディング装備商会も使って探させたようだけど、結局見つからなかった。でも必ずどこかにある筈ですよ」

 思いがけない発見で見つかったシェリル専用のSrランクアーティファクト。
 アーサーがこの数日間、毎日どれだけAランクアーティファクトをSランクにランクアップさせても、一向にシェリルのアーティファクトとなる勇者専用が出てこなかった。アーサーとシェリルは一瞬諦めかけたが、まさにその時だった。奇跡が起こったのは。
 何気なく『聖なる剣』を思い出したアーサーは、ランクAまで上げていた『聖なる剣』にランクアップ召喚を使用。すると、『聖なる剣』がSランクに上がったと同時に“勇者専用”という表記が現れたのだった。

「残り3つ……。必ず探し出して、次こそグリムに買ってみせます」
「うん。その心意気は大事だけど、目標はグリムじゃなくて魔王ですから。お間違えなく」

 淡々とシェリルに指摘を入れたベクター。
 見事フロアのボスモンスターを倒したであろう2人が話していると、唐突にそれは起こった。

『超巨神兵・サクリファイス討伐。フロア96の“強制リバースフロア”攻略成功。報酬がドロップされます』

 突如奏でられた無機質なアナウンスに、思わずシェリルとベクターは目を見合わせた。
 そして、そんな2人の前に報酬――『聖なる鎧・頭(C+3):Lv1』がドロップされた。

「「……!」」