♢♦♢

~???~

「――痛ってぇな……何が起こった?」
「真っ暗で何も見えないじゃん。アーサー様ぁぁ!」

 眉を顰めるグリムとアーサーを呼ぶモルナ。2人は困惑した様子で周囲を確認していた。更に別の場所では。

「皆の姿が見えないですね。ここは一体……」
「迷子になってしまったのでしょうか」

 グリムとモルナと同じく、困惑した様子で辺りを見渡すのは、ベクターとシェリル。見渡しても無。真っ暗で互いの姿以外の景色が映っていない。
 更に更に別の場所では。

「うわ、何だ今の揺れは!? 地震?」
「かなり激しい揺れだったわね……って、あら? 皆はどこに行ったのかしら?」

 これまた他の者達と全く同じ反応を見せるはアーサーとマリアの2人だった。
 “何が起こったのか分からない”――。
 全員がそう同じ事を思っていた。そして、それは取り残されたジャックもまた然りであった。

**

~ダンジョン・フロア96~


「あれ、皆急にいなくなってんじゃん。やべぇな……もしかして今の揺れの影響で皆バラバラに――?」

 アーサーのランクアップ召喚によって、自身の装備をSランクアーティファクトで揃える事に成功した、ジャック率いる精霊の宴会のメンバーとアーサー達。
 彼らは未曽有のフロア90以降を攻略する為、命を懸け、遂にその奥へと足を踏み入れていた。
 現在、間違いなく世界最強と謳われる『精霊の宴会』の実力を以てしても、たった1フロアを攻略するだけでも至難の技。それ程危険で未知数な神Sランクのフロアであったが、一行はアーサーの召喚士スキルの真価により、決して余裕などなかったが、あれから順調にフロアを攻略していた。
 だがその矢先に起こった現状。

「グリムとモルナ……ベクターとシェリル……それとマリアとアーサーちゃんか。とりあえず皆の魔力は感知出来たけど、あっちもそれぞれ散ってるみたいだな。
さっきの揺れは間違いなく魔王が復活しようとしてる前兆。たまたまその揺れが重なっただけで、これ事態はフロア96の“仕様”と考えるのが自然か」

 こんな状況にもかかわらず――いや、こんな状況に陥ったからこそ、ジャックは誰よりも冷静で的確に状況を見極めていた。それはトップギルドのリーダー、そして常に最前線で道を開拓してきた最強ハンターとしての絶対的な経験と実力によるもの。幾度となく死線を潜り抜けてきたジャックの数ある力の1つとも言える。
 だがそれは何もジャックのみではない。そんなジャックと苦楽を共にしてきた、彼の仲間達もまた同じ数だけの死線を潜り抜けてきたトップクラスのハンターである。

**

~ダンジョン・フロア96「魔女の城」:アーサー&マリアside~

「あ、急に景色が……!」

 次の瞬間、真っ暗闇に包まれていたアーサー達の視界に、景色が映った。特にこれまでのフロアと変わり映えのない光景。広く大きい、どこかの城のような内装がどこまでも続いていた。
 勿論アーサーとマリア以外の姿はない。これまではここに多くのモンスターが加わっていたが、今はそのモンスターすらもいない閑散とした状況。
 だがしかし、明らかにこれまでと違う“異質”な空気を、アーサー達は感じ取っていた。

「モンスターが1体もいませんね。それに皆もいない……」
「どうやらどこかの空間にでも飛ばされたみたいね、私達」
「どこかの空間って……これどうやって戻れるんですか? 皆は大丈夫かな?(やっぱ神Sランクのフロアはヤバいな……。って言うか、もう自分が神Sランクになってる事にも驚きだし、最早ランクって何なの? と誰かに問いたいぐらいなんだ。寧ろ、ふと自分が今何してるのか分からなくなるんだけど……。疲れがた溜まってるのかなぁ……)」

 ここ数日の緊張感のせいか、アーサーは不意にそんな事を考えてしまっていた。

「アーサー君、確かに皆の事も気になるけど、今はまず自分達の事を優先させましょう。大丈夫よ。私や貴方の仲間達は強いから――」

**

~ダンジョン・フロア96「デスリバー大砂漠」:ベクター&シェリルside~

「成程……。僕の計算では、これは99%このフロアの影響ですね。さっきの揺れは最近頻繁に起こる魔王復活の前兆を示唆したもの。フロアを攻略すれば皆の所に戻れますよきっと」

 少しドヤ顔で物を言ったのはベクター・ブン・セキ。冷静に状況を分析する彼の隣で、これまた同じく冷静な様子のシェリル。

「そうですね。では早く攻略してアーサー達の所に戻りましょう」

 シェリルとベクターがそう話していた直後、これまで真っ暗闇だった景色が、アーサー達と同じ様に一変したものを映した。
 辺り一面“砂”が広がる広大な砂漠地帯。明らかに自分達がさっきまでいたダンジョンとは違う、異質な場所であると2人は直ぐに悟った。

**

~ダンジョン・フロア96「不死の火炎山」:モルナ&グリムside~

「真っ暗で何も無いんだけど☆ ヤバくない!?」
「いつの間にか死んだのかもな、俺達」
「えー! どうせ死ぬならアーサー様と一緒が良かったよモルナ」
「お、何か出て来たぞ。どうやらまだ死んでねぇみたいだな」

 灼熱のマグマが、轟音と地響きを鳴らして噴火する火山。グリムとモルナの視界は真っ暗闇から見た事なの無い灼熱の火山……そして、そのマグマの噴火と同時に火口から噴き出て来た“モンスター”が映っていた。

『ギギャアアアッ!』

 業火の炎を揺らめかす翼。岩石をも簡単に貫くであろう屈強な鉤爪。鋭い目つきと、溢れ出る魔力が、並みのモンスターとはレベルが違う事を物語っていた。

「ほぉ。あれはもしや“不死鳥フェニックス”か」

 天高く舞い、豪快な鳴き声を上げたフェニックスを見上げるグリムとモルナ。ハンターの最高ランクが神Sランクとするならば、フェニックスはモンスターの中での神Sランクに匹敵するであろう。
 これまで何千何万というモンスターと出会い狩ってきたグリムの中でも、間違いなくトップクラスの強さを直ぐに感じ取る事が出来た。
 そして精霊の宴会のどのメンバー――いや、恐らく全ハンターの中でも“野生の勘”が突出しいるグリムは直感した。

「そうか。このフロアはテメェを狩ればクリアだな――!」

 『ムラマサの妖刀』を引き抜いたグリムは、不敵な笑みを浮かべると同時に一気に魔力を高めて戦闘態勢に入った。
 一方のモルナ。彼女もグリムに劣らない野生の勘を持っていた。モルナはその勘で直ぐに「フェニックスはヤバい☆」と直感。近くの岩陰に身を潜めながら、グリムに声援を送るポジションを確立した。

「いけーグリム! フェニックスなんて瞬殺だ☆」
『ギギャアアアッ!』
「テメェの火鍋は高価で美味いらしいな、クソ鳥!」

 再びフェニックスの咆哮が轟くと同時、グリムとフェニックスの両者が同時に動いた。