『ランクアップ召喚を使用しました。『ドラゴンメット(A):Lv9』が『イザナミの神飾り(S):Lv1 ※ヒーラー専用』にランクアップしました』

「よし。死刑――」
「わあああああッ! ちょ、ちょっと待って下さいグリムさん……!」

 幸か不幸か。偶然か必然か。はたまた運命の悪戯か。
 再びランクアップ召喚を使用したアーサーによって、マリアのAランクアーティファクトである『ドラゴンメット』が新たなSランクアーティファクト――『『イザナミの神飾り(S):Lv1 ※ヒーラー専用』に生まれ変わった。

 無論、つい数日前までこの世に1つしか存在していなかったSランクアーティファクトをこうも簡単に出現させてしまうアーサーの召喚士スキルは、最早他と比べようがない唯一無二の価値を証明していたが、今はその未曾有の奇跡より、「何故俺のアーティファクトだけ剣士専用にならねぇんだ!」というグリムの怒りが場を制圧していた。

「マリアのアーティファクトはヒーラー専用に召喚しておきながら、俺のは剣士専用じゃねぇとはどういう事だアーサー! テメェ、余程俺に斬られたいらしいな!」
「だ、だから違いますって! 自分でもそんなコントロール出来ないんですよッ……!」

 再びグリムに追われるアーサー。
 そしてそんな二人を他所に、マリア達は冷静に今の状況を整理していた。

「アーサー様のランクアップ召喚、今までとちょっと違うね」
「そうですね。いつもはモンスターネームをランクアップすれば、その上のランクのモンスターネームになっていましたから」
「そうそう! それに絶対武器は武器、防具は防具のままランクアップしてたし」
「って事はやっぱり、Sランクへのランクアップ召喚だけがランダムみたいね。アーサー君が自分でコントロール出来ないとなると、これはもう数でいくしかないわね」

 ランクアップ召喚によって、Sランクアーティファクトの種類がランダムに召喚されると分かった今、マリアの言った様に最早“数”で解決するしか選択肢はないのかもしれない。

「わ、わ、分かりましたッ……! じゃあ次は僕のアーティファクトを全部使います! それで剣士専用を出してグリムさんにお渡ししますのでッ!」

 必死に逃げ惑う中、アーサーが頭をフル回転させ導き出した答え。現時点では他に方法がないとも言えよう。それをグリムも分かってか、アーサーを追い回すのを止め、要求を受け入れる事にした。

「成程。確かにそれなら俺に損はねぇ。だがそれでもし剣士専用のアーティファクトが出なかったら、次は待ったなしで首を刎ねる――!」
「い゛ッ!?」

 アーサー、命懸けのランクアップ召喚開始。自分が持っている全てのアーティファクトにランクアップ召喚を使用した。

『ランクアップ召喚を使用しました。『ドラゴンバスター(A):Lv9』が『エビスの釣り竿(S):Lv1 ※会計士専用』にランクアップしました』

『ランクアップ召喚を使用しました。『ドラゴンメット(A):Lv9』が『シャカの宝戟(S):Lv1 ※賢者専用』にランクアップしました』

『ランクアップ召喚を使用しました。『ドラゴンウイング(A):Lv9』が『子丑の神使(S):Lv1 ※精霊使い専用』にランクアップしました』

『ランクアップ召喚を使用しました。『ドラゴンアーム(A):Lv9』が『イザナミの着物(S):Lv1 ※ヒーラー専用』にランクアップしました』

『ランクアップ召喚を使用しました。『ドラゴンクロウ(A):Lv9』が『未申の神使(S):Lv1 ※精霊使い専用』にランクアップしました』


 刹那、グリムの剣がアーサーの首を刎ねッ――『ガキィン……!』

 かと思われた、これまた刹那、グリムの剣がアーサーの首を捉える紙一重の所で、シェリルがグリムの剣を受け止めた。

「ほう。ちっとは成長してるみてぇだな」
「例え貴方でも、アーサーの命は私が守ります」
(うぇぇぇ!? 今グリムさん、マジで俺の首を刎ねようと!? 正気かこの人ッ!! 危な過ぎるって……!!)

 顔面蒼白になるアーサー。シェリルが助けてくれなかったら間違いなく命がなかっただろう。だがしかし、まだアーサーの命の危険は終わっていなかった。

「さて、次こそ殺ッ……「待った! 待って下さい! 早まらないでグリムさん! まだグリムさんのAランクアーティファクトが4つ、マリアさんのが3つ、それにシェリルとモルナも合わせて全部で17回召喚チャンスがあります! それで絶対にグリムさんのアーティファクトを全てSランクで揃えてみせます! なので、なのでどうか命だけはッ……!」

 全身全霊を賭け、グリムの後生の頼みをしたアーサー。

「なんか私達のアーティファクトまで換算されてるわね」
「アハハハ☆ 本当に面白いよね、アーサー様って!」
「仕方ありませんが、アーサーの命には変えられません。どうぞお使い下さい」
「ありがとうシェリル、モルナ! マリアさんもどうかご協力をお願い致しますッ! この御恩は必ず返しますので!」

 アーサーは悪い事など1つもしていない。寧ろ皆から盛大に感謝されるべきだ。だが今のアーサーはそんな事を思う余裕など一切なかった。ただ目の前の超危険な“野獣”の殺気から逃げる事で精一杯であった。
 マリアも引く程、アーサーは彼女の足にしがみついては必死に「アーティファクトを貸してくださいッ!」と命乞いをしている有り様。
 なんだかとても不憫に感じたマリアは、本来なら普通に話し合って解決出来る現状に呆れ顔を浮かべつつ、涙目のアーサーの願いを心優しく受け入れてあげたのだった。

「ありがとうございますマリアさんッ! 貴方も僕の命の恩人です!」
「もう分かったから、早くやって頂戴……」
「アーサー様ファイト! 失敗しても、死ぬ前にモルナの胸で慰めてあげるから安心して☆」
「アーサーの命は死んでも守りたいですが、次またグリムの攻撃を受け切れるかは正直微妙ですので」

 ちょいちょいツッコミを入れたい所であったが、何度も言おう、今のアーサーにそんな余裕は微塵もない。

「ふう……ふう……ふう……。絶対に成功してみせる……!」

 こうして、アーサーはマリアとモルナとシェリルの助けによって、正真正銘、本当に本当の最後のランクアップ召喚劇の幕を上げるのだった――。