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~ダンジョン・フロア89~

「ハァ……ハァ……納得いきません……。もう一勝負……!」
「ハーハッハッハッ! お前マジで諦め悪いな、シェリル」
「またやってるの? グリムとシェリルちゃんは」
「そうだよ! 因みに今のでグリムの10連勝☆ シェリルが勝つ日は遠いかな~」
「次は勝ちます」

 アーサー達が天Bランクに上がり、マリアとグリムの協力によって、アーサーの召喚士スキルが更なる高みに上がった日から早3日。
 あれから一行は、何よりまずアーサーのレベルを上げてSランクアーティファクトの召喚を可能にするべく、ひたすらスキルPの荒稼ぎを続けていた――のだが……。

「おーい……。もういいだろシェリル。いつまでこの勝負続けるつもりなんだ……?」

 アーサーの訴えも虚しく、今しがたグリムとシェリルによるモンスター狩り大会は“第11回目”が開催された。

「次勝つのは私です!」
「それもう何回目だ」

 アーサーの遠い目の視界の先で、今日もグリムとシェリルは豪快にモンスターを狩りまくっていた。

「毎日毎日、何してるんだあの2人は……」
「意外なところで気が合っちゃったわね」
「モルナは見てて楽しいよ☆ アーサー様も一緒に観戦しよ!」
「いや、それより大丈夫? 魔王の復活が迫ってるんじゃないの? この3日間でいつの間にか竜Aランクにも上がってスキルPもめちゃくちゃ大量だけど、急いだ方がいいんですよね、マリアさん?」

 この3日間、アーサー達――いや、正確にはほぼグリムと、そのグリムに対抗するシェリルの2人が、勝負がてら大量のスキルPを稼いでいた。本来はスキルPを稼ぐのがメインであるが、どうやらグリムとシェリルにとってはスキルPが“ついで”。あくまでどっちが沢山のモンスターを狩って勝者になるかに趣が置かれていた。
 だがその成果もあり、アーサー、モルナ、マリアはただ休んでいるだけで、とんでもない量のスキルPを得ていた。

「そうね。確かに魔王復活が近付いている今、私達は急がなければならない。だけど、その魔法復活阻止の為には、個々の力をもっと高める必要もあるわ。
グリムとシェリルちゃんがスキルPを稼いでくれているけど、アーサー君も知っている通り、スキルレベルはランクが上がる程必要なスキルPも多い。
特に“勇者”のスキルを持つシェリルちゃんは特殊よ。私達のスキルとは必要なPが桁違いだもの――」

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シェリル・ローライン

【スキル】勇者(A):Lv3
・勇者の証(Lv1上昇ごとに能力値+2000)
・スキルP:1,108,300

【サブスキル】
・勇者を紡ぐ者(使用不可)

【装備アーティファクト】
・スロット1:『エルフソード(B):Lv9』
・スロット2:『エルフの草冠(B):Lv9』
・スロット3:『エルフの羽(B):Lv9』
・スロット4:『エルフの腕輪(B):Lv9』
・スロット5:『エルフアンクル(B):Lv9』

【能力値】
・ATK:6000『+7600』
・DEF:6000『+3800』
・SPD:6000『+3800』
・MP:6000『+3800』

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 あれからスキルPを日々稼ぎつつ、アーサーの召喚スキルによって、全員のアーティファクトを着実にレベルアップさせていた。お陰でアーサーやグリム、モルナも装備しているアーティファクトが全てレベル上限に達するまでとなっていた。
 だがマリアも言った通り、レベルが高い程必要なスキルPが多い。通常のスキルでであるグリムやマリアでさえ、レベルを1上げるのに50万以上のスキルPが必要だが、極めて特殊な『勇者』のスキルを持つシェリルは更に別格。これまでも確かにレベルを1上げるだけでも苦労したが、今のLv3からLv4へはまた別次元だった。

「そうですね……。まさか次のレベルアップに必要なスキルPが“200万”だとは思いもしませんでした。ようやく半分ぐらい溜まったところですもんね」
「アーサー君のスキルと同様、シェリルちゃんのスキルもまた、選ばれしスキルなのよ。世界を救う為には貴方達の力がマスト。アーサー君が焦る気持ちも分かるけど、こればかりはどうする事も出来ないわね……」

ベクターの見解では、スキルによってレベルの最高値が変わる――先日、マリアがそう言った事を、アーサーは思い出していた。

(ランクとレベルから推測するに、僕の召喚士スキルは最高値が“レベル50”らしい。今までの流れと変わらなければ、僕は50に達したと同時に、きっとSランクのアーティファクト召喚やSランクへのランクアップ召喚が可能になる筈。

その一方で、シェリルのレベルの最高値は恐らく“5”の事。僕やマリアさん達の様に何十レベルも上がる訳じゃないが、シェリルの勇者スキルは1レベルアップで凄まじい能力値を得られる。それを考えればまぁ妥当とも言える)

「シェリルちゃんがあそこまで負けず嫌いだとは知らなかったけど、グリムと同じ馬力は助かるわ。結果オーライってところね」
「確かにあの二人がいなかったらと考えると、スキルP集めるだけでかなりの時間要しますもんね」
「やっぱ見てるだけは暇かも。モルナも参加しちゃおっかな~☆」
「それは絶対にやめておけ、モルナ」

 アーサー達はそんな会話をしながら、遠くから響いてくるグリムとシェリルの声に耳を傾けていた。

「ひゃっーーはぁッ! そんなもんかシェリル――!」
「私はまだ本気じゃありません! 2割程度ですよ――!」


(こんなおっかないフロアでよく楽しめるな……。いつの間にかスキルP稼ぐ事ばかりに気を取られていたけどさ、昨日? それとも一昨日……いつだっけ? 僕達がこのフロア89――しれっと“竜Aランク”にまで上がったのは……)

 そう。グリムとシェリルが連日、破天荒な行動し過ぎていたあまり、アーサーは最早いつ自分達が竜Aランクに上がったのか、記憶が朦朧としていたのだった。

(確かフロア80に上がる時に、これまでと同じで昇格テストを受けようとしてたんだよな……。でもスキルPを荒稼ぎしていたから、リリアさんが「これなら昇格テスト受けるまでもないわね」とか言い出して、ついでにマリアさんとグリムの“特別推薦”って形で昇格テストをパスした挙句、その日にこのフロア89まで来た……って感じだよな確か……。
まぁもういいや。なんか考えるだけでも疲れてくる。少し頭も気持ちも休めるよう――)