徐に語り出したマリアの話は、更にアーサー達を驚愕させる。

「私達がこの存在を知ったのも最近なんだけど、どうやらSランクアーティファクトには、今までとまた違った“スキル専用”のアーティファクトという物が存在するらしいの」
(スキル専用のアーティファクト――?)

 眉を顰めずにはアーサー達。確かに、今しがたマリアに見せてもらったSランクアーティファクト『イザナギの薙刀(S): Lv1』には“※ヒーラー専用”と文字表示がされている。Aランクアーティファクトは勿論、他のどのアーティファクトでも見た事がない表示だ。

「それはつまり、アーティファクトに表示されているスキルの人しか使えないって事ですよね?」
「ああ、そうだ。その証拠に俺がこの『イザナギの薙刀』を装備しようとしたら出来なかった」

 アーサーが率直な疑問を尋ねると、グリムがそう答えた。

「スキル専用アーティファクトなんてちょっと格好いいね☆ モルナも欲しい!」
「私の勇者にも専用アーティファクトがあるのでしょうか? あるなら是非欲しいですね」
「いや、そんな簡単に手に入る物じゃないだろ……。マリアさん達だって今命懸けで手に入れたって言ってたじゃないか」

 現金なシェリルとモルナの発言に、思わずツッコミを入れるアーサー。
 存在すら知らなかったSランクアーティファクト、更にそのSランクアーティファクトにはスキル専用というものまである。加えてフロア90の異次元の領域。分かっていた事とは言え、アーサーはまだまだ自分が知らない事だらけ。
 新たな事を知る度に、恐怖や期待、好奇心や葛藤など、様々な感情が入り乱れては一喜一憂するが、もう今のアーサー達がやるべき事は只1つ。魔王の復活を阻止し、世界を平和に導く事だ。

「Sランクのアーティファクトやスキル専用はまだ知らなくて当然だと思うけど、ちなみに『+○○』って表記されたアーティファクトは知ってる?」

 またもマリアから聞き慣れない言葉が出た。眉を顰めて首を傾げたアーサーの表情が、その返答を現していた。

「その表情は知らないって顔ね」
「お前ら本当に何も知らねぇな。それでよく生きてられたもんだぜ」
「それは僕もそう思います」
「話の腰を折らないでグリム。あのね、その『+○○』って表記されたアーティファクトは、イヴやベクターが言うには、どうやらそのアーティファクトの“上げられるランク”を現したものらしいんだけど」

 この短時間で情報過多。アーサーはどんどん思考回路の動きが鈍くなっていたが、何やら重要そうな話である事はしっかりと感じ取っていた。
 それと同時、鈍くなっていた思考回路が一瞬動きを止めるや否や、アーサーはマリアの言葉でふとある事を思い出した。

「ちょっと待てよ……。マリアさんが言ってるその『+○○』って表記されたアーティファクト、僕持ってるかもしれません」
「あら、そうなの?」
「これも精霊の宴会の皆さんに助けていただいた、アンデットキマイラ戦の報酬なんですけど――」

 そう言いながら、アーサーは何時ぞやに入手した『聖なる剣(C+3):Lv1』を取り出した。

「そうそう、これ。この+3っていう数値が上げられるランクの数値らしいわ。早速やってみてアーサー君」
「え……! 僕がですか?」
「そうよ。だって貴方しかいないでしょ? アーティファクトのランクを自由に上げられるのなんて」
「まぁ一応そうですけど……」

 思わぬ急展開に戸惑いつつも、アーサーはマリアに促され、『聖なる剣』のランクアップを試みる。

「まず普通にレベル上げからするればいいんですよね?」
「そうね。それで大丈夫だと思うわ」
(+3が上げられる数値って事は……Cから3ランク上。え……? これ“Sランク”まで上げられるって事!? 噓だよね?)

 そんな事を思いながら、アーサーは慣れた手つきでひとまず召喚を繰り返した。

『アーティファクト召喚を使用しました。『聖なる剣(C+3):Lv8』が『聖なる剣(C+3):Lv9』にレベルアップしました』
「とりあえずいつも通り。後はここから――」

 アーサーは横目でマリアを見ると、マリアは無言で頷きを見せた。それを確認したアーサーはレベル上限に達した『聖なる剣(C+3):Lv9』に、ランクアップ召喚を使用する。

『ランクアップ召喚を使用しました。『聖なる剣(C+3):Lv9』は『聖なる剣(B+2):Lv1』になりました』
「「……!」」

 驚いたアーサー達は、反射的に目を見合わせる。マリアの言った通り、『聖なる剣』はランクアップをした。そして僅かに表記も変化している。

「本当にCがBにランクアップしましたね……マリアさん」
「ええ。イヴとベクターの言った通りだわ」
「すっごいじゃんアーサー様☆ ってちょっと待って! これ+3から+2に変化してない?」
「確かにしてますね」
「ハッハッハッ。マジで愉快なスキルだな。+2って事は……いくじゃねぇか。Sランク――」
「……!?」

 何気ないグリムの言葉で目を見開いたアーサー。
 そう。グリムの言った通り、このままランクアップが続けられるのならば後2回。つまり、今BランクのこのアーティファクトはA……そしてその上のSランクに到達する。
 だが……。

「まぁすぐには無理だな。今のお前の限界はAランクだろ、アーサー」
「はい。残念ですけど……」

 一瞬心が躍るも、アーサーの気持ちは平常に戻る。理屈ではSランクに到達する事が可能だが、残念ながら今のアーサーにはSランクに到達するまでの力がない。

「ガッカリする事はねぇだろ。Sランクに上げられる可能性が得られただけでも十分な成果だしよ、お前にはまだ他にも色々とやる事があるだろうが」

 グリムはそう言いながら、自分のウォッチのステータスをアーサーに見せつける。
 “俺のアーティファクトを強くしろ”――と。

「どの道全員が今より強くならないと、先には進めねぇ。そしてその鍵は他の誰でもねぇ、お前が握ってる事は忘れんなアーサー。お前のレベルアップに世界の運命が懸かってる」

 グリムの真剣な眼差しが、真っ直ぐとアーサーの瞳を捉える。それに乗じ、マリア、シェリル、モルナもいつになく真剣な表情でアーサーを見ていた。
 勿論アーサー1人に全てを背負わせる訳ではない。しかし、アーサーはそれぐらいの皆の期待と覚悟を確かに感じ取っていた。そしてアーサーもまた、決意を固めた瞳で皆を見る。

「そうですね……。正直、僕は不安しかありません。ですが、ここまできたらもう開き直ります。例え僕が特殊な力を持っていたとしても、僕1人で全てを成し得るのは不可能です。
僕に出来る事は勿論全てやる。でも出来ない事は出来ない。だから皆の力も貸して欲しい。僕が皆を強くする。その代わりに、皆が僕を強くしてほしい――!」

 グッと拳を握るアーサー。その言葉に、自然と皆も温かい笑顔を見せていた。