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~ダンジョン・メインフロア~

 ダンジョンのフロアの出入口に設置されている転送サークル。これに乗ると一瞬でダンジョン内を移動をする事が出来る。

 取り残されたフロアから無事に戻ったアーサーは、彼にとってはもうお馴染みのダンジョン“受付嬢”である「リリア」と言葉を交わす。

「お帰りなさい。アーサー君」
「あ、リリアさん! お疲れ様です。(相変わらず強力な“アーティファクト”を装備しているな……)」

 ほぼ毎日のように彼女と顔を合わしているアーサーであったが、何度会っても彼はリリアのそのはち切れそうな豊満な“胸”に毎度必ず視線を奪われていた。

 ダンジョンの最も下のフロア――。

 ここはハンターがダンジョンに挑む為の全員の出入口であり、そんなハンター達が自由に休息や交流を行える場ともなっている。

 メインフロアの中央には新規のハンター登録やダンジョンで手に入れた魔鉱石やアーティファクトなどの換金といった全ての窓口となる“受付”があり、他にも簡単な飯屋や武器屋などの商会も完備されている場所。

「どうしたのかしら、アーサー君。なんだかいつもより元気そうに見えるけど。いい事でもあった?」

 アーサーに色っぽい声で話し掛けたのはここの受付嬢の1人でもある“リリア・エロイム”。

 長い髪を束ねている彼女は抜群のスタイルを強調するそのタイトな服装と目元のほくろが妖艶な大人の女の魅力をこれでもかと放ち、アーサーを含めた多くの男達の視線を日々奪っている。

「え、そうですか?」
「あら。もしかして女でも出来たのかしら」
「いやいや、いませんよそんな人……! 僕をからかうのは止めて下さいリリアさん」

 リリアは悪戯っぽい笑みを浮かべてアーサーをからかう。これもいつも通りだ。少し体を動かしただけで暴れる彼女の巨乳は、女性経験の無いアーサーにとっては毎回刺激が強すぎる。

「フフフ。やっぱり可愛いわねアーサー君は。っていうか、今日は君1人なの?」

 アーサーの事をよく知るリリアは直ぐにその変化に気付く。

「あ、実はですね――」

 上手く嘘も付けないアーサーはリリアを心配させてしまうと分かっていながらも、バットに裏切られた事の経緯を簡潔に説明した。するとリリアは予想通りバット達への怒りを露に。

「ちょっとあり得ないわねそれ。私が“上”に報告してあげるわ」
「い、いやッ、それは止めて下さいリリアさん! 僕もこうして無事に戻れたわけですし……!」
「そういう問題じゃないわ。一歩間違えれば死んでいたのかもしれないのよ? そんんなの絶対に許さないわ。しかも“私のアーサー君”にそんな仕打ちを」

 怒りが収まらない様子のリリア。一瞬“私のアーサー君”という言葉に引っ掛かったアーサーであったが、これ以上周りのハンター達から注目を集めたくない為必死にリリアをなだめる。

「本当に大丈夫ですからリリアさん! お気持ちは嬉しいですが、そんな事をしてまた逆恨みでもされたら面倒くさいので……」

 アーサーの言葉で徐々に冷静になっていくリリア。まだ不満そうな表情であったが、彼女はアーサーの気持ちを尊重するのだった。

「そう。まぁアーサー君が言うならそうね。私が出しゃばる事じゃないわ。でもまた何かあったら直ぐに教えてね。本当にアーサー君の事心配してるんだから」

 そう言いながら真剣な表情でグッとアーサーを見るリリア。

(いつもいつも、仕草や表情がいちいち“エロい”な――)

 不測の事態の一報を聞いたリリアが本気で心配しているのもかかわらず、健全ないち男の子であるアーサーはリリアの言葉よりもまず“視覚”からの凄まじい攻撃を冷静に処理するので頭が一杯であった。

 まぁアーサーがそうなるのも無理はない。
 リリアは他のハンター……多くの男達をいとも簡単に魅了してしまう程に美人だからだ。しかもアーサーよりも7個年上であるリリアは現在24歳。
 
 17歳のアーサー少年からすれば、リリアは男の子ならば誰もが1度は夢を見るであろう憧れの“綺麗な年上のお姉さん”なのだ。

 ある程度の免疫があって女性に慣れている男であったとしても、リリアのこの色気を受けて正気を保てる者はごく僅かであろう。

「ちょっと、聞いてるアーサー君?」
「あ、はい……! しっかり気を付けます!」

 リリアの何とも言えないボディに目を奪われていたアーサーは一瞬で我に返り、焦って返事を返した。

「何はともあれ、見た感じ傷はちょっと酷そうだけど、無事に帰って来てくれて良かったわ。でも万が一また今日みたいな事があった直ぐにウォッチで連絡を入れて。死にそうな時も直ぐに緊急連絡するのよ。分かった?」
「は、はい。分かりました!」
「それとこれも何度も言っているけど、絶対に無理して“上のフロア”にも挑んじゃダメよ。私との約束だけは守ってね」

 リリアの圧に押されたアーサーは小さく頷く。
 今回の事は然ることながら、「上のフロア」という件に関しては彼女が言っている事が正論だった。

 ハンターはそれぞれの強さに応じて“ランク”が分かれており、ハンター達が挑むダンジョンにも同様のランクが指定されている。これは幾年もの長い歴史の中でハンター達が築き上げてきたものであり、何よりもまずハンター達の“命”を第一優先に考えられた絶対的な規則でもあった。

 現在、ダンジョンは一番下のフロア1から上はフロア89まで攻略されており、ハンターは当たり前の如く上のフロアを目指す。ダンジョンは上に行くほど強くて危険なモンスターが出現するのと同時にランクの高いアーティファクトも入手出来る。

 強いアーティファクトが手に入れば更に上へ。しかし上に行くにはそれ相応の命の危険がつきまとう。己の限界を見極め、命を懸けて道を切り開くのがハンターという職なのだ。

 弱いハンターでは絶対に上には行けない。辿り着けない。

 今のアーサーは最下層と呼ばれるフロア4をクリアするのがギリギリの実力。
 ハンター1人1人の実力をしっかりと見定め、それ相応のダンジョンフロアにあてがうのもリリア達受付嬢の責任ある仕事でもあった。

 だからこそリリアは母親のようにアーサーを気に掛けてくれているのだ。

「アーサー君、ちゃんと分かったのかしら? 返事は」
「わ、分かりました! 以後気を付けます! いつもありがとうございます!」

 小さな頷きでは納得出来なかったのか、リリアはアーサーの顔を覗き込んでしっかりと言葉に出させた。

 こんな状況でも不意に視界に入った鋭いリリアの表情と主張の強い胸に、アーサーが理性を飛ばされそうになったのは言うまでもない。

(わぁ……今の角度も激しいエロさだったなリリアさん。しかもめちゃくちゃいい匂いする……)

 そんな事を思いながら、リリアに別れを告げたアーサーは全速力でダンジョンを出て家に向かって走った。

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~家~

「ただいまー! エレイン、今日は久しぶりの外食に行くぞ!」
「お帰りお兄ちゃん。え、ガイ……ショク……? って、えぇぇッ!? それって家じゃなくて外に美味しものを食べに行くあの“外食”!?」
「勿論その外食だ。ついて来い妹よ!」
「嘘~! どこまでもお供します兄上!」

 ダンジョンを出てから止まる事なく猛烈ダッシュで家に帰ったアーサー。細かい説明はとにかく後。彼は開口一番にエレインにそれ告げると、流石は兄妹といったところだろうか、エレインは一瞬兄の言動にクエスチョンマークが浮かんだが細かい説明よりも本能が彼女に訴えかけた。

 “とにかくまず美味い飯だ”と――。

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 ――ジュゥゥゥ。
「「お、美味しそう~」」

 兎にも角にも家を飛び出したアーサーとエレイン。

 普段の2人の生活はとても貧しい。まともに食料を買う事すらままならず、大半がアーサーが取ってくる食べれられる“草”の数々。

 初めは食べられる草と食べられない草の区別も分からず知識もなかったが、今となっては何気ない散歩中にも食べられる草は見逃さなくなっている。アーサーを雑草博士と呼んでも過言ではないだろう。

 アーサー達はタダで取れる食料でなんとか生活する事が出来ていた。
 自然への尊敬と感謝を常に抱いているアーサーだが、それでも今日の様な特別な日にはやはり幾らか贅沢したい。

「それでそれで? なんで急にこんな美味しい夕飯に辿り着けたのよお兄ちゃん!」
「焦るなエレイン。今は兎に角目の前の“肉”に集中するんだ!」
「そ、それもそうね。理由はちゃんと後で説明してよ。私も6日ぶりのまともなご飯に集中するわ!」

 近所のとある定食屋に赴いていたアーサー達。
 2人のテーブルの前にはそれぞれ320Gのポークチキン定食が1つずつ。更に今日は300G追加でスープとデザートを付けた。更に今のリルガーデン家からは想像も出来なかった550Gの小さなステーキを2人で1つ注文していた。

 2人で合計1,790G。

 1日の食費の平均が約450Gのアーサーとエレインにとってはまさに破格の晩餐。草以外のおかずが食卓に並んだだけでも歓喜する彼らにとって、お肉……それも贅沢な外食は最早超お祭り状態。

 十分な贅沢を噛み締めながら、アーサーとエレインは一心不乱に全ての料理を平らげたのだった。

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「あ~、美味し過ぎた~。人生最後かも~」
「大袈裟だな。いや、それぐらい久々の外食だったから無理もないか」

 美味しい夕飯を食べた2人は満たされた満腹中枢と余韻に浸る。

「さて。それじゃあ今度は本当に理由を聞こうかな。まさか人生投げやりになって強盗でもしたんじゃないよね?」
「自分の兄貴をそんな風に思っているのか君は」
「ハハハ、冗談に決まってるじゃん。それで何があったの?」

 エレインに聞かれたアーサーはグイっと水を飲み干し、一呼吸の間を開けた後に唐突に言い放った。

「“体を売る”のは絶対に止めてくれ」
「ッ――!?」

 兄からの思いがけない一言に、エレインは一瞬息の仕方を忘れた。