**
~ダンジョン・フロア70~
「うわ~、ここがフロア70か。何か空気が重い気が……」
天Bランクに上がり、予想外のグリムとマリアという2人と合流したアーサー達は遂にフロア70に足を踏み入れた。
「このフロアからはモンスターのレベルも一気に上がるわ。空気が重く感じるのはきっとそのモンスター達の魔力の“圧”よ。って言ってもこんなの直ぐに慣れるから心配ないわ」
マリア・シスターが優しい人なのか恐ろしい人なのか分からなくなってしまったアーサー。ひとまずその事は置いておき、気持ちを切り替える。
「そう言われてみれば確かにちょっと慣れてきたかも」
「フフフ、そうでしょ」
「嘘つけ」
モルナのいい加減さに思わず突っ込んでしまったアーサーだが、今ので程よく体の緊張が抜けた様だ。
「下らねぇ会話は後にしろ。さっさと終わらせるぞ」
グリムはそう言うと、面倒くさそうにフロアの奥へと歩いて行く。
グリムとマリアがアーサー達の所に来た理由。それは“助っ人”だ。
イヴの計画では魔王の復活までにこのダンジョン――世界樹を全て攻略しなければない。それはつまりフロア90以降……頂上まで辿り着かなければならないという事。
その為にはジャックを始めとする『精霊の宴会』は勿論の事、アーサー達の存在が必要不可欠であるが、ベクター・ブン・セキの計算ではそれが間に合わない。だからグリムとマリアはアーサー達の“成長促進剤”として助っ人に来てくれたのだ。
成長促進剤とは言っても、何より優先すべきはアーサーのレベルアップ。正確には召喚スキルを更なる高みへと昇華させる事。
つまり。
「めんどくせぇから一気にP集めるぞ――」
そう。
アーサーが、そして全員が最も早く強くなる最短ルートは兎にも角にもスキルPを稼ぎまくっていち早くアーサーのレベルを上げる事である。
肩幅より広く両足を開き、静かにグッと腰を沈ませたグリム。
アーサーはグリムのその僅かな何気ない動きだけで、彼が相当の実力者である事を感じ取れた。そしてそれは思い込みでも勘違いでもないそれ以上。
グリムはアーサーが感じ取った強さの数十倍上を行く強さだった――。
「ひゃっはーーッ! 散れやクソモンスター共ッ!」
――シュバババババ。
数多く存在するハンターの中でもこのフロア70に到達出来る者達はほんの一握り程度。しかも出現するモンスターは全てレベルも高く、1人で倒すのは困難極まりない。
だが、そんなモンスター達をまるでゴミのように蹴散らせていく青髪の剣士、グリム・セントウキョー。
「相変わらず品の無い戦い方ね」
「凄ぇ……」
呆れた様子のマリアに感激するアーサー。その横ではシェリルとモルナもグリムの強さに言葉を失っている。
「うらうらうらうらうらうらうらぁぁぁぁッ!!」
両手に持つ2本の剣が、目にも留まらぬ速度で縦横無尽に動き回る。
まるで鋭い牙を持つ獣が暴れ狂うかの如く振られる刃は次々にモンスターを真っ二つに切り裂いていく。
触れれば一溜りもない――いや、触れていなくても近くにいるだけで斬られそうなグリムの剣筋。彼の見た目と言葉遣い同様、一見その剣筋もただ豪快に舞っているようにも見えるが、アーサーはグリムの剣術に“見惚れていた”。
荒々しい剛と共存する滑らかな柔。同じ剣を扱うシェリルとはまた違う美しさを兼ね備えたグリムの剣。彼の2本の剣から生まれる連続の銀閃は、この薄暗いフロア70という夜空にえお駆け巡る流星群そのものであった――。
「アーサー様、なんか綺麗じゃない?」
「うん……。僕も同じ事思ってた」
「素晴らしい剣捌きです」
靡く青髪から覗く鋭い眼光は常にモンスターを捉える。
――シュバババババ。
地面に転がるモンスターの亡骸。全てが綺麗に真っ二つにされており、数は優に200は超えていた。
「全く。どんどん先に行っちゃうんだから。私達も行きましょう」
アーサー達がグリムの強さに見惚れている間にグリムは1人でどんどんフロア70を突き進んでいた。マリアに促されたアーサー達は彼女と共に歩き始める。
「やっぱ最高だなぁ、モンスター狩りは! もっと出て来いやッ!」
凄まじい速さで突き進んで行くグリムは、既にアーサーの視界では捉える事が出来ない程奥に進んでいしまっていたが、遠くから楽しそうなグリムの声だけがしっかりと響いていた。
「同じ剣を扱う者として負けていられません」
「え? ちょ、シェリル!?」
何の血が騒いだのだろうか。ここで突如シェリルが颯爽と走り出した。彼女の言葉をそのまま受け取るならば“グリムには負けまい”と対抗心を燃やだしたという事。
「あら。クールなシェリルちゃんにそんな意外な一面があったのね。益々可愛い」
「いけーシェリル! 勇者の力を見せつけてあげてー!」
「おいおい、盛り上がるな。盛り上げるな。そもそもグリムさんは僕達の為にモンスター倒してくれてるんだぞ……! 何で急に張り合うの!?」
予想外のシェリルの行動に驚くアーサー。引き留めようと思ったが、シェリルもグリムに負けない速さで瞬く間にアーサーの視界からフェードアウトしたのだった。
「なにこれ。どういう状況?」
アーサーは戸惑いながらマリアとモルナと共に、ただフロア70を普通に歩いて行く。依然遠くからは時折グリムの声が響いて来るも、シェリルが何をしているのかは最早確認不可。「まぁいいや……」と小さく溜息を吐いたアーサーはその後もマリアとモルナとひたすら歩き、遂にフロア70の出口まで辿り着いた。
**
「やっと来たか。遅せぇぞ」
出口の前では既にグリムが待ちくたびれた様子で座り込んでいた。
「貴方が勝手に突撃して行ったんじゃない。まぁお陰で順調に片付いたみたいね」
フロア70の入り口からここの出口まで、辺りを見渡す限りそこかしこにグリムが斬ったモンスターの亡骸が転がっていた。
(全部で何体のモンスターを1人で? しかもここフロア70ですけど……)
目の前の光景が信じられないアーサーは開いた口が塞がらない。斬られたモンスターに同情していると、シェリルが徐にアーサーへと近付いて来た。
「追いつけませんでした」
「ん?」
「あれから私は1体もモンスターを倒せず、全てグリムさんに倒されてしまいました。屈辱です」
「嘘でしょ……(確かにスタートが遅れたとはいえ、あのシェリルが追い付けなかったって事? どれだけ強いんだよグリムさん)」
どうやらシェリルは本気でグリムに剣術勝負で勝とうとしていた様子。しかし剣に自信のあるシェリルでさえも勝負どころか追いつくのが精一杯だったらしい。
上には上がいる。
アーサーは改めてそう思う。
「さーて、次のフロア行くか」
「今度は負けません」
「お。お嬢ちゃん一丁前に俺に張り合う気か?」
「今度は負けません」
まさかシェリルがこんな所で負けず嫌いを発揮するとは思わなかったアーサーであったが、彼女の何気ないその姿が微笑ましくも感じたのだった。
「ま~たシェリルに見惚れちゃって、アーサー様ったら☆」
「ちゃんと捕まえておかないとダメよアーサー君」
「なッ!? モルナはまだしもマリアさんまで……ッ!?」
予想外のマリアの登場に同様を隠しきれないアーサー。マリアとモルナはそんなアーサーを見て悪戯に笑っていた。
そして一行は次のフロアへと向かう――。
~ダンジョン・フロア70~
「うわ~、ここがフロア70か。何か空気が重い気が……」
天Bランクに上がり、予想外のグリムとマリアという2人と合流したアーサー達は遂にフロア70に足を踏み入れた。
「このフロアからはモンスターのレベルも一気に上がるわ。空気が重く感じるのはきっとそのモンスター達の魔力の“圧”よ。って言ってもこんなの直ぐに慣れるから心配ないわ」
マリア・シスターが優しい人なのか恐ろしい人なのか分からなくなってしまったアーサー。ひとまずその事は置いておき、気持ちを切り替える。
「そう言われてみれば確かにちょっと慣れてきたかも」
「フフフ、そうでしょ」
「嘘つけ」
モルナのいい加減さに思わず突っ込んでしまったアーサーだが、今ので程よく体の緊張が抜けた様だ。
「下らねぇ会話は後にしろ。さっさと終わらせるぞ」
グリムはそう言うと、面倒くさそうにフロアの奥へと歩いて行く。
グリムとマリアがアーサー達の所に来た理由。それは“助っ人”だ。
イヴの計画では魔王の復活までにこのダンジョン――世界樹を全て攻略しなければない。それはつまりフロア90以降……頂上まで辿り着かなければならないという事。
その為にはジャックを始めとする『精霊の宴会』は勿論の事、アーサー達の存在が必要不可欠であるが、ベクター・ブン・セキの計算ではそれが間に合わない。だからグリムとマリアはアーサー達の“成長促進剤”として助っ人に来てくれたのだ。
成長促進剤とは言っても、何より優先すべきはアーサーのレベルアップ。正確には召喚スキルを更なる高みへと昇華させる事。
つまり。
「めんどくせぇから一気にP集めるぞ――」
そう。
アーサーが、そして全員が最も早く強くなる最短ルートは兎にも角にもスキルPを稼ぎまくっていち早くアーサーのレベルを上げる事である。
肩幅より広く両足を開き、静かにグッと腰を沈ませたグリム。
アーサーはグリムのその僅かな何気ない動きだけで、彼が相当の実力者である事を感じ取れた。そしてそれは思い込みでも勘違いでもないそれ以上。
グリムはアーサーが感じ取った強さの数十倍上を行く強さだった――。
「ひゃっはーーッ! 散れやクソモンスター共ッ!」
――シュバババババ。
数多く存在するハンターの中でもこのフロア70に到達出来る者達はほんの一握り程度。しかも出現するモンスターは全てレベルも高く、1人で倒すのは困難極まりない。
だが、そんなモンスター達をまるでゴミのように蹴散らせていく青髪の剣士、グリム・セントウキョー。
「相変わらず品の無い戦い方ね」
「凄ぇ……」
呆れた様子のマリアに感激するアーサー。その横ではシェリルとモルナもグリムの強さに言葉を失っている。
「うらうらうらうらうらうらうらぁぁぁぁッ!!」
両手に持つ2本の剣が、目にも留まらぬ速度で縦横無尽に動き回る。
まるで鋭い牙を持つ獣が暴れ狂うかの如く振られる刃は次々にモンスターを真っ二つに切り裂いていく。
触れれば一溜りもない――いや、触れていなくても近くにいるだけで斬られそうなグリムの剣筋。彼の見た目と言葉遣い同様、一見その剣筋もただ豪快に舞っているようにも見えるが、アーサーはグリムの剣術に“見惚れていた”。
荒々しい剛と共存する滑らかな柔。同じ剣を扱うシェリルとはまた違う美しさを兼ね備えたグリムの剣。彼の2本の剣から生まれる連続の銀閃は、この薄暗いフロア70という夜空にえお駆け巡る流星群そのものであった――。
「アーサー様、なんか綺麗じゃない?」
「うん……。僕も同じ事思ってた」
「素晴らしい剣捌きです」
靡く青髪から覗く鋭い眼光は常にモンスターを捉える。
――シュバババババ。
地面に転がるモンスターの亡骸。全てが綺麗に真っ二つにされており、数は優に200は超えていた。
「全く。どんどん先に行っちゃうんだから。私達も行きましょう」
アーサー達がグリムの強さに見惚れている間にグリムは1人でどんどんフロア70を突き進んでいた。マリアに促されたアーサー達は彼女と共に歩き始める。
「やっぱ最高だなぁ、モンスター狩りは! もっと出て来いやッ!」
凄まじい速さで突き進んで行くグリムは、既にアーサーの視界では捉える事が出来ない程奥に進んでいしまっていたが、遠くから楽しそうなグリムの声だけがしっかりと響いていた。
「同じ剣を扱う者として負けていられません」
「え? ちょ、シェリル!?」
何の血が騒いだのだろうか。ここで突如シェリルが颯爽と走り出した。彼女の言葉をそのまま受け取るならば“グリムには負けまい”と対抗心を燃やだしたという事。
「あら。クールなシェリルちゃんにそんな意外な一面があったのね。益々可愛い」
「いけーシェリル! 勇者の力を見せつけてあげてー!」
「おいおい、盛り上がるな。盛り上げるな。そもそもグリムさんは僕達の為にモンスター倒してくれてるんだぞ……! 何で急に張り合うの!?」
予想外のシェリルの行動に驚くアーサー。引き留めようと思ったが、シェリルもグリムに負けない速さで瞬く間にアーサーの視界からフェードアウトしたのだった。
「なにこれ。どういう状況?」
アーサーは戸惑いながらマリアとモルナと共に、ただフロア70を普通に歩いて行く。依然遠くからは時折グリムの声が響いて来るも、シェリルが何をしているのかは最早確認不可。「まぁいいや……」と小さく溜息を吐いたアーサーはその後もマリアとモルナとひたすら歩き、遂にフロア70の出口まで辿り着いた。
**
「やっと来たか。遅せぇぞ」
出口の前では既にグリムが待ちくたびれた様子で座り込んでいた。
「貴方が勝手に突撃して行ったんじゃない。まぁお陰で順調に片付いたみたいね」
フロア70の入り口からここの出口まで、辺りを見渡す限りそこかしこにグリムが斬ったモンスターの亡骸が転がっていた。
(全部で何体のモンスターを1人で? しかもここフロア70ですけど……)
目の前の光景が信じられないアーサーは開いた口が塞がらない。斬られたモンスターに同情していると、シェリルが徐にアーサーへと近付いて来た。
「追いつけませんでした」
「ん?」
「あれから私は1体もモンスターを倒せず、全てグリムさんに倒されてしまいました。屈辱です」
「嘘でしょ……(確かにスタートが遅れたとはいえ、あのシェリルが追い付けなかったって事? どれだけ強いんだよグリムさん)」
どうやらシェリルは本気でグリムに剣術勝負で勝とうとしていた様子。しかし剣に自信のあるシェリルでさえも勝負どころか追いつくのが精一杯だったらしい。
上には上がいる。
アーサーは改めてそう思う。
「さーて、次のフロア行くか」
「今度は負けません」
「お。お嬢ちゃん一丁前に俺に張り合う気か?」
「今度は負けません」
まさかシェリルがこんな所で負けず嫌いを発揮するとは思わなかったアーサーであったが、彼女の何気ないその姿が微笑ましくも感じたのだった。
「ま~たシェリルに見惚れちゃって、アーサー様ったら☆」
「ちゃんと捕まえておかないとダメよアーサー君」
「なッ!? モルナはまだしもマリアさんまで……ッ!?」
予想外のマリアの登場に同様を隠しきれないアーサー。マリアとモルナはそんなアーサーを見て悪戯に笑っていた。
そして一行は次のフロアへと向かう――。