シェリルがアーサーと共に過去を乗り越えていた一方で――。
♢♦♢
~ダンジョン・フロア10~
「死ねッ!」
ザシュン。
『ビギーッ!』
「ちっ。弱過ぎてイラつくな」
ギガスライムを一刀両断したバット・エディング。
彼は面倒くさそうにギガスライムから魔鉱石を取り、フロア10を後にした。
**
「おい、エディング。いつまでこんなフロアにいる気だ?」
「ヒャヒャヒャ。ほんとほんと。もっと楽に稼ごうぜ~」
「でも上のフロアで死んだら元も子もありませんね」
見慣れない、ハンターと思われる者達がバットに話し掛けている。
「うるせぇな。勝手な事ばっか言うんじゃねぇよ。『黒の終焉』のマスターは俺だぞ」
そう。
バットと話しているのは“新たなギルドメンバー”達。1度は潰れた筈の黒の終焉であったが、バットはまだ諦めていなかった。彼が狙うは勿論……アーサーへの復讐だ――。
「それより、肝心のアーティファクトはまだ手に入らないのか? お前エンディング装備商会の息子なんだろ」
「だからちょっと待てって。Cランクアーティファクトだって普通に揃えたら数千万Gはするんだぞ。幾ら俺が息子だからって、そんなポンポン簡単に使えないんだよ」
父から決別されたバット。彼はあれから一切の反省もなく、虎視眈々とまた動き出していた。間違っても彼は王国で1番有名なエディング装備商会の息子。その事実が変わらなければ誰もバットと彼の父、オーバトの間に起きた確執を知る者はいない。
追い詰められた人間は手段を問わないもの。
バットは自分の家がエディング装備商会であるという事を利用し、父との確執の件は一言も伝えぬままただただ“エディング装備商会”という名で新たなハンターを釣っていたのだった。
(最低でもオーガアーティファクト……いや、アーサーの野郎を確実に殺すにはBランクが必須。覚えてろよあのクソ貧乏人! どうやってあんな強いアーティファクトを手に入れたか知らねぇが、次会った時がテメェの死ぬ時だからなアーサー!)
これでもかと殺意を溢れ出させるバット。
今の彼はアーサーを殺す事しか考えていない。
そして自分を捨てた父をも見返そうとしている。
バットは父に見限られた日から1Gもお金が引き出せなくなったが、最低限の手持ちと要らないアーティファクトを売る事で暫くは食い扶持に困らなかった。だがそれではいずれお金が底をつく。
そう思ったバットは新たな戦力とお金を手に入れる為に今の計画を思いつき実行。悪運強く、今のところは誰1人としてバットの事を疑っていなかった。寧ろ流石は王国一の大商会とも言うべきか、エディング装備商会という名を出すだけで簡単にハンターという戦力が集まる。
今のバットにとって何より重要なのは“気付かれない事”――。
それはハンター達には当然の事ながら、目立つ動きをして父にバレたら今度こそ本当に終わりだろう。僅かな抜け道すらなくなった瞬間、バットはそこで完全敗北だ。
「そういえば『黒の終焉』には勇者がいましたよね? あのシェリル・ローラインが」
1人の男が徐にバットにそう尋ねると、彼は舌打ちをして面倒くさそうに答えた。
「あー、アイツな。シェリルは今この黒の終焉を更に強いギルドにする為に優秀なハンターを集めに行ってるんだよ。基本的にシェリルは特別だ。なにせ勇者だからな」
息をするように嘘が出るバット。
我ながら上手く誤魔化してると言わんばかりの不敵な笑みだ。
「ヒャヒャヒャ! 凄ぇなほんとによ! マジであの勇者が同じギルドなんて信じられねぇぜ俺。噂の美女を生で拝みたかったのに残念だな~」
「そう残念がらなくてもいいでしょう。同じギルドなのですからそのうち勇者にも会えますよ」
「確かにそうだな。今は兎に角ランクを上げて稼ぐに越した事はない。エディング、このギルドは完全実力主義なんだよな? 結果を残したらそれなりの報酬を頂くぜ」
「ああ。勿論だ」
エディング装備商会という大きな名に寄せられるハンター達。
そしてその名を利用し、集うハンター達を自分の兵隊と考えるバット。
互いに需要と供給は合っている。
だが今のバットの財源には限りがあり、それだけは絶対にバレてはいけない真実。バットは目立たないように戦力を集めつつ、更に集った兵隊達を利用してどうにか利益を生み出す方法を熟考している始末だ。
失う物がない、開き直った人間は最も質が悪く意味しぶとい。
追い詰められれば追い詰められる程その狡猾な牙は露にされ、人道を外れた悪知恵や企みが生まれてしまうものである。
今のバットがまさにそれだろう――。
(ん……。この方法なら馬鹿なコイツらを騙したまま利用……いや、そうなると後々面倒が起こる確率が高いか? だったらいっその事もう1つのパターンでやれば……。ハハハ、こりゃなんとかイケるかもしれねぇな――)
**
アーサー達に忍び寄る影。
それはまだ誰にも気付かれない程小さく弱いもの。だがそれはゆっくりと確実にアーサー達の背中を捉え、静かな脅威として迫っているのだった――。
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~ダンジョン・フロア10~
「死ねッ!」
ザシュン。
『ビギーッ!』
「ちっ。弱過ぎてイラつくな」
ギガスライムを一刀両断したバット・エディング。
彼は面倒くさそうにギガスライムから魔鉱石を取り、フロア10を後にした。
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「おい、エディング。いつまでこんなフロアにいる気だ?」
「ヒャヒャヒャ。ほんとほんと。もっと楽に稼ごうぜ~」
「でも上のフロアで死んだら元も子もありませんね」
見慣れない、ハンターと思われる者達がバットに話し掛けている。
「うるせぇな。勝手な事ばっか言うんじゃねぇよ。『黒の終焉』のマスターは俺だぞ」
そう。
バットと話しているのは“新たなギルドメンバー”達。1度は潰れた筈の黒の終焉であったが、バットはまだ諦めていなかった。彼が狙うは勿論……アーサーへの復讐だ――。
「それより、肝心のアーティファクトはまだ手に入らないのか? お前エンディング装備商会の息子なんだろ」
「だからちょっと待てって。Cランクアーティファクトだって普通に揃えたら数千万Gはするんだぞ。幾ら俺が息子だからって、そんなポンポン簡単に使えないんだよ」
父から決別されたバット。彼はあれから一切の反省もなく、虎視眈々とまた動き出していた。間違っても彼は王国で1番有名なエディング装備商会の息子。その事実が変わらなければ誰もバットと彼の父、オーバトの間に起きた確執を知る者はいない。
追い詰められた人間は手段を問わないもの。
バットは自分の家がエディング装備商会であるという事を利用し、父との確執の件は一言も伝えぬままただただ“エディング装備商会”という名で新たなハンターを釣っていたのだった。
(最低でもオーガアーティファクト……いや、アーサーの野郎を確実に殺すにはBランクが必須。覚えてろよあのクソ貧乏人! どうやってあんな強いアーティファクトを手に入れたか知らねぇが、次会った時がテメェの死ぬ時だからなアーサー!)
これでもかと殺意を溢れ出させるバット。
今の彼はアーサーを殺す事しか考えていない。
そして自分を捨てた父をも見返そうとしている。
バットは父に見限られた日から1Gもお金が引き出せなくなったが、最低限の手持ちと要らないアーティファクトを売る事で暫くは食い扶持に困らなかった。だがそれではいずれお金が底をつく。
そう思ったバットは新たな戦力とお金を手に入れる為に今の計画を思いつき実行。悪運強く、今のところは誰1人としてバットの事を疑っていなかった。寧ろ流石は王国一の大商会とも言うべきか、エディング装備商会という名を出すだけで簡単にハンターという戦力が集まる。
今のバットにとって何より重要なのは“気付かれない事”――。
それはハンター達には当然の事ながら、目立つ動きをして父にバレたら今度こそ本当に終わりだろう。僅かな抜け道すらなくなった瞬間、バットはそこで完全敗北だ。
「そういえば『黒の終焉』には勇者がいましたよね? あのシェリル・ローラインが」
1人の男が徐にバットにそう尋ねると、彼は舌打ちをして面倒くさそうに答えた。
「あー、アイツな。シェリルは今この黒の終焉を更に強いギルドにする為に優秀なハンターを集めに行ってるんだよ。基本的にシェリルは特別だ。なにせ勇者だからな」
息をするように嘘が出るバット。
我ながら上手く誤魔化してると言わんばかりの不敵な笑みだ。
「ヒャヒャヒャ! 凄ぇなほんとによ! マジであの勇者が同じギルドなんて信じられねぇぜ俺。噂の美女を生で拝みたかったのに残念だな~」
「そう残念がらなくてもいいでしょう。同じギルドなのですからそのうち勇者にも会えますよ」
「確かにそうだな。今は兎に角ランクを上げて稼ぐに越した事はない。エディング、このギルドは完全実力主義なんだよな? 結果を残したらそれなりの報酬を頂くぜ」
「ああ。勿論だ」
エディング装備商会という大きな名に寄せられるハンター達。
そしてその名を利用し、集うハンター達を自分の兵隊と考えるバット。
互いに需要と供給は合っている。
だが今のバットの財源には限りがあり、それだけは絶対にバレてはいけない真実。バットは目立たないように戦力を集めつつ、更に集った兵隊達を利用してどうにか利益を生み出す方法を熟考している始末だ。
失う物がない、開き直った人間は最も質が悪く意味しぶとい。
追い詰められれば追い詰められる程その狡猾な牙は露にされ、人道を外れた悪知恵や企みが生まれてしまうものである。
今のバットがまさにそれだろう――。
(ん……。この方法なら馬鹿なコイツらを騙したまま利用……いや、そうなると後々面倒が起こる確率が高いか? だったらいっその事もう1つのパターンでやれば……。ハハハ、こりゃなんとかイケるかもしれねぇな――)
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アーサー達に忍び寄る影。
それはまだ誰にも気付かれない程小さく弱いもの。だがそれはゆっくりと確実にアーサー達の背中を捉え、静かな脅威として迫っているのだった――。