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~ビッグイーストタワー・最上階~

「お~い! ボーっとしてどうしたの、アーサー様!」
「動けるならお兄ちゃんも手伝って! このペースじゃ今日中に終わらないよ! 私達は一旦休憩してお昼食べるからね」

 別の事を考えていたアーサーを他所に、エレインとモルナはテンポよく物事を進めていく。

「ちょ、ちょっと待った! 僕イヴから全く話を聞いていないんだけどさ、本当にここが僕らの新しい家になったの? お金は?」

 要約肝心な話題へと移れたアーサー。
 彼には聞きたい事が山ほどあった。

「え? 心配しなくてもここに住めるぐらいの稼ぎがあるって私聞いたけど、イヴさんとモルナに」
「誰の稼ぎが?」
「そりゃお兄ちゃんでしょ。え、違うの?」

 何やら話しが噛み合わないアーサーとエレイン。
 2人のそんな状況を見事に打破したのはモルナだった。

「OK、OK! じゃあモルナが一から説明してあげましょう。アーサー様でも分かる様に☆」
(なんだその僕が1番頭悪いみたいな言い方は……)

 微妙にモルナの言葉に違和感を抱いたアーサーであったが、一先ず話はそのまま本題へ――。

「結論から言うと、ここはもうモルナ達の家! ちゃんと買ったからね。面倒な手続きは全部イヴがやってくれたみたいで、ここならダンジョンにもアカデミー近いし、防犯やらその他の設備諸々一流だから文句ないだろうってイヴが言ってた。

それとアーサー様がずっと気になっているお金の事だけど、それもさっきイヴが言っていた通り、ここの費用は全部アーサー様の“稼ぎ”で買ったの。ありがとうアーサー様!」
「いや、急にお礼を言われても困るし、そもそも僕の稼ぎで買ったって……どうやって? 当たり前だけど僕にここを買える大金はないぞ」
「“今は”ね☆」

 意味深にそう言い放ってきたモルナ。言わずもがなアーサーは更に不安を募らせている。

 しかし、彼女から返ってきた言葉はとても理論的で正論であり、余りに想定外の展開に思わずアーサーも納得してしまった。

「アーサー様、モルナが『会計士』って事忘れてたでしょ。いい? 確かに今アーサー様は8億Gなんて大金持っていないけど、アーサー様にはあの召喚スキルがある。他の誰にも真似できない“アーティファクト召喚”っていう最強のスキルが☆

それを踏まえて計算すると……単純などんぶり勘定でも今のアーサー様は1日にBランクアーティファクトLv9を30個も召喚出来る。
現状市場でのBランクアーティファクトの販売額は約10,000,000G~15,000,000Gだから、買取や換金相場はそのおよそ4割程度。

1番下の10,000,000Gだとしたら利益は4,000,000Gになるわ。で、それの×30だから1日に約120,000,000Gの稼ぎ。
1ヵ月毎日召喚なら最低でも120,000,000×30で3,600,000,000Gアーサー様は稼げるの☆

ね! 凄いでしょ! これでこの新居の支払いも一切の心配なし。それどころかアーサー様は世界トップクラスのお金持ちハンターだよ!
しかもモルナ達みたいな神Sランクの美女付きでね! アーサー様もう完全に勝ち組じゃん。憎いねぇ、このこの~☆」

 モルナの解説を聞いたアーサーは色んな意味で言葉を失っていた。

 無能、役立たず、スライム召喚士と散々馬鹿にされ嘲笑され。惨めな姿を晒してでもハンターという最後の希望に縋りついた。
 
 体はボロボロ。毎日死と隣り合わせ。なのにまともな稼ぎすら得られずに貧乏生活を送る日々。そんなどうしよもない有象無象の1人のハンターだった若者が、遂に夢と希望をその手で掴んだ――。

 嬉しい、儚い、喜び、辛さ、困難、安堵……。
 様々な感情が一気に体の中を駆け巡ったアーサーは、モルナの言葉に未だに実感が持てない。初めて自分のスキルが覚醒したあの日、いつかこんな日が来ればと確かに彼は夢に抱いていた。そしてそれが現実のものとなったのだ。

「僕がそんな大金を稼げるハンターに……」
「1ヵ月で36億!? お兄ちゃんやばいじゃん!」
「ね、やば過ぎでしょ! モルナ絶対アーサー様と結婚したい! 無理なら都合の良い女でも構わないから一生側に置いてね、アーサー様!」

 詳細を知ったエレインは驚愕。モルナは上目遣いでアーサーの腕に絡みつき、胸を押し当て誘惑している。皆が盛り上がる中でもシェリルはクールに無表情だ。

 今回の話はイヴがどこまで手を回してくれたのか、アーサーにそれだけ稼げる見込みがあるなら問題ないと、8億以上の買い物にもかかわらずに後払いでOKとの承諾まで済んでいるらしい。

 それを聞いたアーサーは「明日から休まず召喚しなくちゃ!」と慌てながらも次第にやる気を見せていた。後払いとは言え8億を稼がなければいけない為、アーサーも全額払い終えないと安心出来ないのだろう。

 そんなこんなで話も終えて一段落したアーサー達。
 エレインとモルナは言っていた通り皆分のご飯を買いに行き、病み上がりのアーサーとシェリルは家で待つ事に。

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「全然実感湧かないなぁ~。って言うか広過ぎて落ち着かない」

 広過ぎる部屋を見渡しながら大きなソファの隅に座って呟くアーサー。彼の視界にはこれまでの生活からは想像だにしていなかった世界が広がっている。

「アーサー。私の話を聞いて下さい」
「うお、ビックリしたな。どうした?」

 彼女はいつも唐突だ。だがそれにも慣れてきた。

 広過ぎる部屋、勇者シェリル。彼女に話し掛けられたアーサーは不意にその美しさに目と心を奪われていた。銀色の綺麗な髪を靡かせ、端正な顔で自分を見る美しい少女。
 
 思い返せばその美しい少女はアーサーにとって遥か雲の上の存在だった。アーサーはハンターとして勇者シェリルに憧れていた1人。そんな憧れの勇者が目の前に――ましてや自分と会話して当たり前の如く一緒に暮らす様になっている事に、アーサーは改めて不思議な感覚を覚えたのだった。

 そして。

 シェリル・ローラインは唐突に語り始めるのだった。

「アーサー。私のご主人様である貴方に、私の“全て”を話したいと思います――」