～ビッグイーストタワー～
「ここだ」
「は……？ 嘘でしょ！？」
歩みを止めたアーサーとイヴ。
彼らの目の前には今、アーサーが暮らすこのイーストリバー地区で最も大きいとされる60階建ての超高層ビルが聳え立っていた。
「場所は勿論最上階だ。行くよ」
「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇ！！ って……痛つつッ……」
静かな道中と微塵も変わらないテンションで超高層ビルに入ろうとしたイヴ。だが普段滅多に大声を出さないアーサーが叫び声を上げて止めた。彼はその反動でまだ完全に治っていない傷が痛んだようだ。
「うるさいねぇ。何だい？」
「何だい？ じゃないですよ！ ちょ、ちょっと待って下さい……！ え、どういう事ですか！？」
昨日のリバースフロアよりも慌てふためくアーサー。
まぁ無理もないだろう。
アーサーにはイヴの言動が全て悪い冗談にしか思えなかった。
「どういう事も何も、ここがアンタの新しい引っ越し先だよ。もう手続きはしてある。妹達はもう中ではしゃいでいるよ」
「いやいやいやいや。何の冗談ですかこれは！？ こんな如何にも高価そうな所住めませんよ！ そ、そうだ！ 手続きしたって、誰がこのお金払うんですか！？」
アーサーがそう言うと、イヴは無言で彼を指差した。
「ん――？」
その瞬間、自分の脳みそでは処理出来なくなったアーサーは至高が停止する。
「いちいち面倒くさい男だねぇアンタは。いいから黙って動きな。その辺の細かい話は後だよ」
イヴに促されたアーサーはもう黙って付いて行く事しか出来ない。そして2人はこのビッグイーストタワーの最上階に着いた。
**
「あ、お兄ちゃん！ それにイヴさんも！」
「お帰りなさいませ」
「ここがモルナ達の新しい愛の巣だよ、アーサー様☆」
ここは一体何だ？
部屋に入った瞬間、アーサーがまず思ったのはそれだった。
自分の視界に入ったエレイン、シェリル、モルナの3人に加え、その奥にはとても綺麗でとても広い空間がとても続いていた。長い廊下に柔らかそうな敷物。設置されたテーブルやソファはどれも高価そうな物ばかり。
しかも部屋の外にはプールや庭までも完備されており、アーサーはここが“家”だと認識するのに暫く時間が掛かったのだった。
「じゃあ私は帰るよ」
「待った！ とりあえず詳しく事の経緯を説明して下さいよ僕に！」
まるで何事もなかったかの様に去ろうとするイヴをアーサーが勢いよく止めた。彼だけが未だに話しに付いていけていない。
「本当にうるさいねぇアンタは。そんなに知りたければこの子達から聞きな。私は忙しいんだよ色々と」
そう言うと、イヴの思念体はゆらゆらと揺らめきながら徐々にその姿が消えていく。
「色々ありがとうございました、イヴさん！ また遊びに来て下さい」
「エレイン。モルナお腹空いたよ」
「でしたら皆で買い物に行きましょうか」
アーサーの思いなどなんのその。
皆各々自由に意見を主張する。そしてイヴは去り際にアーサーに言葉を残していった。
「アーサー。シェリルの事しっかり頼むよ。さっさと怪我も治しな。あの子が“乗り越える”にはアンタの助けが必要なんだからねぇ――」
イヴの言葉を聞いたアーサーは表情が変わる。彼は真剣な面持ちでシェリルを見た。
「分かりました。まぁ僕に何が出来るか分かりませんが……」
アーサーの言葉を最後に、イヴの思念体は静かに消えていった。
**
～道中～
遡る事、数十分前――。
病院を出たアーサーは行き先も告げられずにイヴと歩いていた。
「新居って何処なんですか？ ってその前に、何でイヴさんが勝手に引っ越し先決めてるんですか！ しかも僕まだ傷口が……」
「いつもいつも質問が多いよアンタは。細かいを事を気にするんじゃない」
（引っ越しは細かい事なのか？ 重傷患者を退院させる事も？）
そう思ったアーサーだが、口に出すのは控えた様子。すると、話は思いがけない方向へと舵を切るのだった。
「ところで、まだアンタはにはシェリルの“過去”を話していなかったねぇアーサー」
イヴの口調がいつもより真剣なトーンになる。それを聞いたアーサーはツインマウンテンでの言葉を思い出した。
「シェリルの過去……。確か前にイヴさんが奴隷だったとかなんとか」
「ああ。そもそもシェリルが奴隷となってしまったのはその過去のせいであり、シェリルが戦闘中に“発作”を起こした事にも繋がっていてねぇ」
「――！」
アーサーはイヴの話に目を見開く。
キマイラとの戦闘中、突如彼女を襲った原因不明のパニック症状。その理由は彼も謎だった。
「いいかいアーサー、あの子はアンタが思っている以上にその過去のトラウマに縛られているのさ。ここで私がアンタに話すのは簡単だが、それでは根本的な解決にならない。最終的にはシェリル自身が乗り越えないといけない事だからねぇ」
イヴの言葉と雰囲気がその重さを物語る。
アーサーはシェリルが相当辛い過去に見回れたのだろうと理解は出来たが、それを聞いた所で自分では何も出来ないであろうと思ったアーサーは虚無感も感じてしまった。
「イヴさん。シェリルに何があったんですか？」
聞いた所で力になれるかも分からない。
でもアーサーはどれだけ小さくてもいいから何か彼女の力になれないと思った。
何もしないぐらいなら自分の無力さをこれでもかと痛感させられる方がマシ。
「真実はあの子の口から聞くといい。いや、シェリルが自分からアンタに話せるぐらい、あの子の心をアンタが開くんだよアーサー。
唯一私から話せる事があるとすれば、シェリルが奴隷となった経緯は“家族の死”。
そしてあの子はその家族の死の原因が自分だと思っているという事さ――」
ある程度聞く覚悟はしていた。
しかし、イヴから告げられた真実はアーサーが思う以上の衝撃であった。
（まぁ今回の一件でシェリルの心に僅かだが変化があった様だ。あの子の表情が幾らか明るくなっていたからねぇ。とは言ってもこの変化は誰にも気付けない程。
頼んだよ……。全てはアンタに懸かっているからねぇ、アーサー）
「ここだ」
「は……？ 嘘でしょ！？」
歩みを止めたアーサーとイヴ。
彼らの目の前には今、アーサーが暮らすこのイーストリバー地区で最も大きいとされる60階建ての超高層ビルが聳え立っていた。
「場所は勿論最上階だ。行くよ」
「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇ！！ って……痛つつッ……」
静かな道中と微塵も変わらないテンションで超高層ビルに入ろうとしたイヴ。だが普段滅多に大声を出さないアーサーが叫び声を上げて止めた。彼はその反動でまだ完全に治っていない傷が痛んだようだ。
「うるさいねぇ。何だい？」
「何だい？ じゃないですよ！ ちょ、ちょっと待って下さい……！ え、どういう事ですか！？」
昨日のリバースフロアよりも慌てふためくアーサー。
まぁ無理もないだろう。
アーサーにはイヴの言動が全て悪い冗談にしか思えなかった。
「どういう事も何も、ここがアンタの新しい引っ越し先だよ。もう手続きはしてある。妹達はもう中ではしゃいでいるよ」
「いやいやいやいや。何の冗談ですかこれは！？ こんな如何にも高価そうな所住めませんよ！ そ、そうだ！ 手続きしたって、誰がこのお金払うんですか！？」
アーサーがそう言うと、イヴは無言で彼を指差した。
「ん――？」
その瞬間、自分の脳みそでは処理出来なくなったアーサーは至高が停止する。
「いちいち面倒くさい男だねぇアンタは。いいから黙って動きな。その辺の細かい話は後だよ」
イヴに促されたアーサーはもう黙って付いて行く事しか出来ない。そして2人はこのビッグイーストタワーの最上階に着いた。
**
「あ、お兄ちゃん！ それにイヴさんも！」
「お帰りなさいませ」
「ここがモルナ達の新しい愛の巣だよ、アーサー様☆」
ここは一体何だ？
部屋に入った瞬間、アーサーがまず思ったのはそれだった。
自分の視界に入ったエレイン、シェリル、モルナの3人に加え、その奥にはとても綺麗でとても広い空間がとても続いていた。長い廊下に柔らかそうな敷物。設置されたテーブルやソファはどれも高価そうな物ばかり。
しかも部屋の外にはプールや庭までも完備されており、アーサーはここが“家”だと認識するのに暫く時間が掛かったのだった。
「じゃあ私は帰るよ」
「待った！ とりあえず詳しく事の経緯を説明して下さいよ僕に！」
まるで何事もなかったかの様に去ろうとするイヴをアーサーが勢いよく止めた。彼だけが未だに話しに付いていけていない。
「本当にうるさいねぇアンタは。そんなに知りたければこの子達から聞きな。私は忙しいんだよ色々と」
そう言うと、イヴの思念体はゆらゆらと揺らめきながら徐々にその姿が消えていく。
「色々ありがとうございました、イヴさん！ また遊びに来て下さい」
「エレイン。モルナお腹空いたよ」
「でしたら皆で買い物に行きましょうか」
アーサーの思いなどなんのその。
皆各々自由に意見を主張する。そしてイヴは去り際にアーサーに言葉を残していった。
「アーサー。シェリルの事しっかり頼むよ。さっさと怪我も治しな。あの子が“乗り越える”にはアンタの助けが必要なんだからねぇ――」
イヴの言葉を聞いたアーサーは表情が変わる。彼は真剣な面持ちでシェリルを見た。
「分かりました。まぁ僕に何が出来るか分かりませんが……」
アーサーの言葉を最後に、イヴの思念体は静かに消えていった。
**
～道中～
遡る事、数十分前――。
病院を出たアーサーは行き先も告げられずにイヴと歩いていた。
「新居って何処なんですか？ ってその前に、何でイヴさんが勝手に引っ越し先決めてるんですか！ しかも僕まだ傷口が……」
「いつもいつも質問が多いよアンタは。細かいを事を気にするんじゃない」
（引っ越しは細かい事なのか？ 重傷患者を退院させる事も？）
そう思ったアーサーだが、口に出すのは控えた様子。すると、話は思いがけない方向へと舵を切るのだった。
「ところで、まだアンタはにはシェリルの“過去”を話していなかったねぇアーサー」
イヴの口調がいつもより真剣なトーンになる。それを聞いたアーサーはツインマウンテンでの言葉を思い出した。
「シェリルの過去……。確か前にイヴさんが奴隷だったとかなんとか」
「ああ。そもそもシェリルが奴隷となってしまったのはその過去のせいであり、シェリルが戦闘中に“発作”を起こした事にも繋がっていてねぇ」
「――！」
アーサーはイヴの話に目を見開く。
キマイラとの戦闘中、突如彼女を襲った原因不明のパニック症状。その理由は彼も謎だった。
「いいかいアーサー、あの子はアンタが思っている以上にその過去のトラウマに縛られているのさ。ここで私がアンタに話すのは簡単だが、それでは根本的な解決にならない。最終的にはシェリル自身が乗り越えないといけない事だからねぇ」
イヴの言葉と雰囲気がその重さを物語る。
アーサーはシェリルが相当辛い過去に見回れたのだろうと理解は出来たが、それを聞いた所で自分では何も出来ないであろうと思ったアーサーは虚無感も感じてしまった。
「イヴさん。シェリルに何があったんですか？」
聞いた所で力になれるかも分からない。
でもアーサーはどれだけ小さくてもいいから何か彼女の力になれないと思った。
何もしないぐらいなら自分の無力さをこれでもかと痛感させられる方がマシ。
「真実はあの子の口から聞くといい。いや、シェリルが自分からアンタに話せるぐらい、あの子の心をアンタが開くんだよアーサー。
唯一私から話せる事があるとすれば、シェリルが奴隷となった経緯は“家族の死”。
そしてあの子はその家族の死の原因が自分だと思っているという事さ――」
ある程度聞く覚悟はしていた。
しかし、イヴから告げられた真実はアーサーが思う以上の衝撃であった。
（まぁ今回の一件でシェリルの心に僅かだが変化があった様だ。あの子の表情が幾らか明るくなっていたからねぇ。とは言ってもこの変化は誰にも気付けない程。
頼んだよ……。全てはアンタに懸かっているからねぇ、アーサー）
