濃ゆい1週間のラスト。
6日目にツインマウンテンを出たアーサー達は、既に時間も遅く疲れも溜まっていた為、そこで出会った謎の獣人少女モルナを放っておく事も出来ずに兎に角連れて帰ったのだ。
モルナの事情はさっぱり分からない。
彼女が何故あんな所に1人でいたのかも、涙を流して怖がっていたのかも。この時のアーサー達は知る由もなかった。
一先ず彼女を落ち着かせ、アーサー達は家に帰ってモルナに温かい食事とお風呂を用意してあげた。すると次第に心を開いてくれたのか、彼女は自分の名前がモルナであると皆に告げ、パーティでツインマウンテンを訪れていた時に突然仲間達に見捨てられてしまったと明かした。
モルナ曰く、ツインマウンテンの中腹辺りで1人取り残されてしまい、道もよく分からないまま出てくるモンスターを倒しつつ何とか下山したらしい。だが途中で体力も気力も限界に近付き、暗さで辺りもよく見えなくフラフラだった所をアーサー達が助けてくれたとの事。
話を聞いたアーサー達はとても憤りを感じた。
モルナの歳はエレインと同じ16歳。自分達と同じ歳の子を――それもあんな場所で女の子を1人置いていくなんて人殺しと変わらない。そう思ったアーサーとエレインは話を聞きながらプンスカ怒っていた。シェリルも怒っている様子であったが、冷静で落ち着いているせいか感情の起伏が全く見られない。
という訳で、このままモルナを家に帰す事も忍びない上に、彼女は家もなければ行く当てもないと言い出し為、結果この超狭い部屋に4人のほぼ大人が寝る事になった。
だがしかし、初心なアーサーは勿論寝られる筈がなかった。理由は言わずもがなシェリルの存在。しかし理由はそれだけでなく、モルナもまたシェリルに負けず劣らずの可愛い美女であったからだ――。
整った顔立ちとスタイル。
しかも獣人族特有のもふもふの毛並みと獣耳がアーサーの理性を破壊するのは簡単だった。だからアーサーは今日もまた、一睡も出来ずに目がギンギンのまま朝を迎えたのだった。
**
~家~
「「いただきます!」」
そして話は今に戻り、アーサー達は4人で小さな食卓を囲んでいる。昨日と唯一違うのは、すっかり元気になったモルナがとてもテンションが高いという事。元の彼女はこれがデフォルトなのだろう。
「はい、これシェリルの分ね」
「ありがとうございます」
「エレイン、僕のも取ってくれ」
「モルナのもよろしくー☆」
「はいはい」
バットの現状を知る由もないアーサーは、ご飯を食べながら眠たそうに目を擦る。そして彼は考える。
(どうなるのこれから――?)
そんな疑問を抱きつつ、アカデミーがあるアーサーとエレインは家を出て行った。不安で仕方がないシェリルとモルナという2人を残して。
**
~ダンジョン・メインフロア~
「お疲れ様です、リリアさん」
「あら、アーサー君じゃない。そういえばあれから……って、え!? また女の子増えてる! 何があったの?」
「ハハハ……実はですね――」
そう言ってアーサーは事の経緯をリリアに全て話した。別に言う決まりはないが、イヴの情報をくれたのは他でもないリリア。それに毎日訪れるダンジョンだから何時かはバレるだろうし、何よりアーサーはお世話になっているリリアだけには隠し事などをしたくなかったのだ。
とは言っても別に隠す様なやましい事をしているわけではない。
「へぇ~。じゃあ本当にいたのね、そのイヴって人が」
「はい。ビックリしましたよ。まさかあんな所に本当に人がいるなんて」
「それにしてもアーサー君、貴方一体何人の女をたぶらかすつもりかしら?」
「え!? た、たぶらかすなんてそんなッ……!」
(何だか雲行きが怪しくなってきてるじゃない。よりによって2人共可愛いし、片方はあの勇者シェリルなんて相手が悪すぎよねこれ。私のアーサー君が取られちゃうわ……)
突然のリリアの発言にアーサーは慌てて否定する。アーサー本人も改めて今の状況を実感すると共に、リリアもまた予期せずライバルが増える事に内心複雑な思いであった。
そんなこんなで話しを終えたアーサーは今日もフロア周回をする。シェリルは勿論の事ながら、モルナもハンター登録をしていると聞いたアーサーは一先ず彼女もパーティに入れる事に。
バタバタが続いていたアーサーであったが彼のやるべきことは変わらない。バットへのケリがついた今、後はひたすら母親の治療費と生活費を稼ぐのみ。
モルナはまだ人Dランク。
しかしアーサーとシェリルが炎Cランクの為、パーティを組めばモルナも一緒に炎Cランクのフロアに挑める。当たり前だが無茶は出来ない。それにモルナは身体能力の高い獣人族でアーティファクトも一応Dランクだがスキルが『会計士』だった。
会計士は読んで字のごとく、戦闘向きのスキルではない。
寧ろギルドには必要不可欠な“サポート系”のスキル。モルナのどちらかというと派手な見た目の印象とは対照的だなと思っていたアーサーであるが、流石獣人族というべきなのか、モルナは普通に実力も高い上に自らダンジョンに行きたいと言ったのだ。
そして、今日も無事に周回を終わらせたアーサー一行。今日一緒にダンジョンに挑んだアーサーは改めて2人の強さを実感した。
(シェリルは言うまでもなく圧倒的な強さだったな。全く無駄のない流れる様な動きに思わず見とれてしまった。
それにモルナは『会計士』スキルだから僕よりも基礎能力値が低いのにも、やはり獣人族という生まれながらの素質で普通に戦闘力が高かった。戦う会計士なんて聞いた事ないぞ……)
アーサーはそんな事を思いながらいつも通りに召喚で得たアーティファクトや魔鉱石をリリアに換金してもらい、この日はダンジョンを後にした。
**
帰り道。
「さて。エレインも待っているし、早く晩御飯を買って帰ろうか」
「モルナもお腹空いたぁ。早く食べたい!」
「私は先にお風呂に入りたいです」
当たり前の様にそんな会話をするアーサー達。だがアーサーは思っていた。
いつまであの狭い家でこんな生活が続くのだろうと。
「さっさと引っ越してギルドを設立しな――」
「「……!?」」
突如アーサー達に聞こえた声。
それはこの場にいる3人のものではく、明らかに違う“他の誰か”であり、驚いたアーサー達は反射的に声が聞こえた方へ振り返っていた。
するとそこにいたのは。
「え! イヴ……さん!?」
そう。
そこにいたのは他でもない、つい昨日会ったばかりのイヴ・アプルナナバであった――。
突如目の前に現れた事に驚くアーサー。
しかしイヴは驚くアーサー達をまるで無視するかの如く話しを続ける。
「全く。男ってのはどこまで浅はかなんだいアーサー。いいかい? アンタが狙ってる“ワンチャン”は起きないよ。夢の“ラッキーハーレム”展開なんて下らないものを期待しているぐらいなら、男らしく自分の行動でその展開を手繰り寄せな馬鹿者」
「なッ!?」
「ワンチャン……? ラッキーハーレム展開……?」
イヴの発言にいまいちピンときていないシェリルは1人首を傾げている。
「ヒッヒッヒッ。シェリルがその手の類に無知で良かったねぇアーサー」
「い、いや、イヴさんッ! 僕は鼻からそんなつもりはッ……「へぇ~。アーサー様そんな事考えてたんだぁ。好青年そうな顔してイヤらしい~!」
「こ、こらッ、モルナまで! 違うって言ってるだろ!」
意味をしっかりと理解しているモルナはイヴに乗ってアーサーをからかった。
「まぁアーサー様は私の命の恩人だし、モルナはいつでも“その”準備は出来てるわ☆なんなら今夜にでも」
「も……もう止めろモルナ! そんな事より何の用ですかイヴさん!」
思いがけない角度からの攻撃に焦ったアーサーは強引に話を戻したのだった。
「必死だねぇアーサー。ヒッヒッヒッ。まぁそれは一旦置いて、実は昨日話し忘れた事があってねぇ。アンタ、早く“ギルド”を建てな。話はそれからだよ――」
聞き間違いではない。
夕日が沈みかけた薄い空の下で、イヴは確かにギルドを建てろとアーサーに告げた。
「え、ギルドを――?」
6日目にツインマウンテンを出たアーサー達は、既に時間も遅く疲れも溜まっていた為、そこで出会った謎の獣人少女モルナを放っておく事も出来ずに兎に角連れて帰ったのだ。
モルナの事情はさっぱり分からない。
彼女が何故あんな所に1人でいたのかも、涙を流して怖がっていたのかも。この時のアーサー達は知る由もなかった。
一先ず彼女を落ち着かせ、アーサー達は家に帰ってモルナに温かい食事とお風呂を用意してあげた。すると次第に心を開いてくれたのか、彼女は自分の名前がモルナであると皆に告げ、パーティでツインマウンテンを訪れていた時に突然仲間達に見捨てられてしまったと明かした。
モルナ曰く、ツインマウンテンの中腹辺りで1人取り残されてしまい、道もよく分からないまま出てくるモンスターを倒しつつ何とか下山したらしい。だが途中で体力も気力も限界に近付き、暗さで辺りもよく見えなくフラフラだった所をアーサー達が助けてくれたとの事。
話を聞いたアーサー達はとても憤りを感じた。
モルナの歳はエレインと同じ16歳。自分達と同じ歳の子を――それもあんな場所で女の子を1人置いていくなんて人殺しと変わらない。そう思ったアーサーとエレインは話を聞きながらプンスカ怒っていた。シェリルも怒っている様子であったが、冷静で落ち着いているせいか感情の起伏が全く見られない。
という訳で、このままモルナを家に帰す事も忍びない上に、彼女は家もなければ行く当てもないと言い出し為、結果この超狭い部屋に4人のほぼ大人が寝る事になった。
だがしかし、初心なアーサーは勿論寝られる筈がなかった。理由は言わずもがなシェリルの存在。しかし理由はそれだけでなく、モルナもまたシェリルに負けず劣らずの可愛い美女であったからだ――。
整った顔立ちとスタイル。
しかも獣人族特有のもふもふの毛並みと獣耳がアーサーの理性を破壊するのは簡単だった。だからアーサーは今日もまた、一睡も出来ずに目がギンギンのまま朝を迎えたのだった。
**
~家~
「「いただきます!」」
そして話は今に戻り、アーサー達は4人で小さな食卓を囲んでいる。昨日と唯一違うのは、すっかり元気になったモルナがとてもテンションが高いという事。元の彼女はこれがデフォルトなのだろう。
「はい、これシェリルの分ね」
「ありがとうございます」
「エレイン、僕のも取ってくれ」
「モルナのもよろしくー☆」
「はいはい」
バットの現状を知る由もないアーサーは、ご飯を食べながら眠たそうに目を擦る。そして彼は考える。
(どうなるのこれから――?)
そんな疑問を抱きつつ、アカデミーがあるアーサーとエレインは家を出て行った。不安で仕方がないシェリルとモルナという2人を残して。
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~ダンジョン・メインフロア~
「お疲れ様です、リリアさん」
「あら、アーサー君じゃない。そういえばあれから……って、え!? また女の子増えてる! 何があったの?」
「ハハハ……実はですね――」
そう言ってアーサーは事の経緯をリリアに全て話した。別に言う決まりはないが、イヴの情報をくれたのは他でもないリリア。それに毎日訪れるダンジョンだから何時かはバレるだろうし、何よりアーサーはお世話になっているリリアだけには隠し事などをしたくなかったのだ。
とは言っても別に隠す様なやましい事をしているわけではない。
「へぇ~。じゃあ本当にいたのね、そのイヴって人が」
「はい。ビックリしましたよ。まさかあんな所に本当に人がいるなんて」
「それにしてもアーサー君、貴方一体何人の女をたぶらかすつもりかしら?」
「え!? た、たぶらかすなんてそんなッ……!」
(何だか雲行きが怪しくなってきてるじゃない。よりによって2人共可愛いし、片方はあの勇者シェリルなんて相手が悪すぎよねこれ。私のアーサー君が取られちゃうわ……)
突然のリリアの発言にアーサーは慌てて否定する。アーサー本人も改めて今の状況を実感すると共に、リリアもまた予期せずライバルが増える事に内心複雑な思いであった。
そんなこんなで話しを終えたアーサーは今日もフロア周回をする。シェリルは勿論の事ながら、モルナもハンター登録をしていると聞いたアーサーは一先ず彼女もパーティに入れる事に。
バタバタが続いていたアーサーであったが彼のやるべきことは変わらない。バットへのケリがついた今、後はひたすら母親の治療費と生活費を稼ぐのみ。
モルナはまだ人Dランク。
しかしアーサーとシェリルが炎Cランクの為、パーティを組めばモルナも一緒に炎Cランクのフロアに挑める。当たり前だが無茶は出来ない。それにモルナは身体能力の高い獣人族でアーティファクトも一応Dランクだがスキルが『会計士』だった。
会計士は読んで字のごとく、戦闘向きのスキルではない。
寧ろギルドには必要不可欠な“サポート系”のスキル。モルナのどちらかというと派手な見た目の印象とは対照的だなと思っていたアーサーであるが、流石獣人族というべきなのか、モルナは普通に実力も高い上に自らダンジョンに行きたいと言ったのだ。
そして、今日も無事に周回を終わらせたアーサー一行。今日一緒にダンジョンに挑んだアーサーは改めて2人の強さを実感した。
(シェリルは言うまでもなく圧倒的な強さだったな。全く無駄のない流れる様な動きに思わず見とれてしまった。
それにモルナは『会計士』スキルだから僕よりも基礎能力値が低いのにも、やはり獣人族という生まれながらの素質で普通に戦闘力が高かった。戦う会計士なんて聞いた事ないぞ……)
アーサーはそんな事を思いながらいつも通りに召喚で得たアーティファクトや魔鉱石をリリアに換金してもらい、この日はダンジョンを後にした。
**
帰り道。
「さて。エレインも待っているし、早く晩御飯を買って帰ろうか」
「モルナもお腹空いたぁ。早く食べたい!」
「私は先にお風呂に入りたいです」
当たり前の様にそんな会話をするアーサー達。だがアーサーは思っていた。
いつまであの狭い家でこんな生活が続くのだろうと。
「さっさと引っ越してギルドを設立しな――」
「「……!?」」
突如アーサー達に聞こえた声。
それはこの場にいる3人のものではく、明らかに違う“他の誰か”であり、驚いたアーサー達は反射的に声が聞こえた方へ振り返っていた。
するとそこにいたのは。
「え! イヴ……さん!?」
そう。
そこにいたのは他でもない、つい昨日会ったばかりのイヴ・アプルナナバであった――。
突如目の前に現れた事に驚くアーサー。
しかしイヴは驚くアーサー達をまるで無視するかの如く話しを続ける。
「全く。男ってのはどこまで浅はかなんだいアーサー。いいかい? アンタが狙ってる“ワンチャン”は起きないよ。夢の“ラッキーハーレム”展開なんて下らないものを期待しているぐらいなら、男らしく自分の行動でその展開を手繰り寄せな馬鹿者」
「なッ!?」
「ワンチャン……? ラッキーハーレム展開……?」
イヴの発言にいまいちピンときていないシェリルは1人首を傾げている。
「ヒッヒッヒッ。シェリルがその手の類に無知で良かったねぇアーサー」
「い、いや、イヴさんッ! 僕は鼻からそんなつもりはッ……「へぇ~。アーサー様そんな事考えてたんだぁ。好青年そうな顔してイヤらしい~!」
「こ、こらッ、モルナまで! 違うって言ってるだろ!」
意味をしっかりと理解しているモルナはイヴに乗ってアーサーをからかった。
「まぁアーサー様は私の命の恩人だし、モルナはいつでも“その”準備は出来てるわ☆なんなら今夜にでも」
「も……もう止めろモルナ! そんな事より何の用ですかイヴさん!」
思いがけない角度からの攻撃に焦ったアーサーは強引に話を戻したのだった。
「必死だねぇアーサー。ヒッヒッヒッ。まぁそれは一旦置いて、実は昨日話し忘れた事があってねぇ。アンタ、早く“ギルド”を建てな。話はそれからだよ――」
聞き間違いではない。
夕日が沈みかけた薄い空の下で、イヴは確かにギルドを建てろとアーサーに告げた。
「え、ギルドを――?」