時は遡る事、バットがエレイン達を誘拐しアーサーに敗北した日――。
♢♦♢
「ん……ここは……ぐッ!?」
意識を取り戻したバット・エディングは病院のベッドの上にいた。
「無理に動くな。傷が開くぞ」
「え、親父……!? なんでこんな所に。って、そういやアーサーの野郎は……!」
「バット、お前は何をしているのだ」
全身に巻かれた包帯と痛みによって、徐々にバットは起こった出来事を思い出していった。病室にはバットと彼の父親である“オーバト・エディング”の姿が。
オーバトは重傷な息子を心配するどころか、何故かとても冷たい視線を彼に向けていた。
「べ、別に何もしてねぇよ。その……ギルドメンバーの奴が他のギルドとちょっと揉めてたんだ。だからそれを止めようとしただけだよ」
父親に真実を話さないバット。これが彼と父親との距離感なのだろう。
「いい加減下らない遊びは止めるのだバットよ。お前は我がエディング装備商会の跡継ぎだ。暇を持て余しているのなら早く勉強をしろ。いつでも商会の即戦力となれる様にな」
「わ、分かってるよそんな事……。あ、そうだ親父ッ! それよりも俺に“Bランクアーティファクト”を用意してくれ! そろそろもっと上を目指さないといけないんだ」
「……分かった。用意しておいておこう」
父親の承諾の返事に、バットは思い切りガッツポーズした。彼が今考えているのは勿論“アーサーへの復讐”。
最弱のスライム召喚士と馬鹿にされていたアーサーが何故あそこまでの力を手に入れたのかは定かじゃない。いや、最早バットにとってそこはどうでもいい。ただ今以上に強いアーティファクトを手に入れられれば余裕でアーサーなど越せるからだ。
そして彼はいとも簡単にそれが叶ってしまう。金の力で。バットは包帯まみれの下で確かにその口元を緩ませていたのだった。
(クハハハ。よしよしよし! これでアーサーの野郎をぶっ殺せる! あの野郎、調子こいてこの俺をぶん殴りやがって。ふざけんじゃねぇぞコラ。どんなせこい真似してアーティファクトを手に入れたか知らねぇが、次会った時がお前の最後だアーサー!)
バットが1人ベッドの上で復讐の炎を滾らせていると、病室を出て行く直前でオーバトが動きを止めてバットの方へ振り返った。
「言っておくが、余計な尻拭いはこれで最後だぞバット。私はお前の下らん遊びに時間を割いている暇はない。次また問題を起こしたのなら、その時は自らの力で解決しろ。甘えるな。もう手助けはしない。分かったな?」
オーバトは物凄く冷酷な目でバットを見ながら言った。
バットはこれが冗談ではないと瞬時に理解し、生唾を呑みながらコクリと静かに頷いたのだった。
**
1週間後――。
「ちっ。何で誰も通話に出ねぇんだよクソが! メッセージの返信もないじゃねぇか!」
退院したバットは何故か苛立っていた。
無事体力も回復した様子であるが、まだ体の一部には包帯が巻かれて松葉杖をついて歩いている状態。そんなバットは自らのウォッチを何度も確かめながら相当苛立っている。
理由は明白。
それはバットが入院してからのこの1週間というもの、彼がどれだけ連絡をしようと仲間達からの連絡が一切返ってきていないからだ。理由が全く分からないバットはこの1週間ひたすらイライラを募らせており、退院と同時にそれが爆発している状況。
逆を言えば、知らないのはバットのみ――。
既に彼の最も近い仲間達は皆アーサーに謝罪をし、金輪際2度と同じ過ちを犯さない様にと誓いまでたてているのだ。これまでは何も考えずにバットの言う通り動いていた彼らが、初めて自分達の意志で動いた瞬間でもあった。それが良いのか悪いのかは人によるだろうが。
「おいおい……一体何が起こってんだよ」
松葉杖をついたバットが真っ先に向かったのは『黒の終焉』のギルド。
しかし建物の中は誰もいない。いつもなら少なくても数人は絶対に建物内にいるだが、全ての部屋を見渡してもそこには誰の姿もなかった。
「まさかアーサーの野郎がまた何かしたんじゃねぇだろうな……ッ!」
ひたすらアーサーへの怒りを溢れ出しているバットは直ぐにアーサーに連絡を取る。だがアーサーからの応答はない。
「クソッ、どいつもこいつも俺を舐めんじゃねぇ!」
バットはウォッチをむしり取る様に外し、そのまま地面へと思い切り叩きつけた。
(あぁ~クソ、イライラする! 丁度今日も明日もアカデミーは休みか。こうなったら直接家に行って探し出してやる!)
そう思い立ったバットは、先ずはこの場所から最も近い仲間の家に行く為に再び松葉杖をついて歩き出ず。
バットはずっと嫌な胸騒ぎに襲われている。
それは皆が連絡に出ない事は勿論ながら、それ以上に、バットは今まで当たり前の様に使えていた親の金が“使えなくなっている”事に嫌な予感がしていた。そのせいで“魔力自動車《ドライブ》”や“魔機関車《モーティブ》”にも乗れなかったバットはここまで必死に松葉杖でやって来たのだ。
そしてやっとの思いで辿り着いた自分のギルドがもぬけの殻。バットの中で、嫌な胸騒ぎがどんどんと確信に近付いていた。
「あり得ない。そんな事は絶対にあり得ないぞ……ッ! 待ってろよアイツら。俺が今から行って、何が起こってんのか全部説明してもらうかッ……「もう1度聞こう。お前は“何をしているのだ”。バットよ――」
「親父……!」
バットがギルドを出た瞬間、彼の目の前には父親であるオーバトがいた。
だが病室で会った時のオーバトとはまるで違う、全てを断絶したかの如き雰囲気を纏うオーバト・エディングという男がそこにはいた。
「もう終わりだぞバット」
「え……? な、何を言って……」
「お前はもう終わりだ。このお遊びギルドもな。ハンターでもなければ我がエディング家の息子でもない。これからは自らの力で好きに生きよ」
それだけ言うと、オーバトはバットに背を向けこの場から去って行った。
「は? ちょ、ちょっと待てッ……! 待ってくれよ親父! 一体どういうつもりだよ!」
訳が分からないバットは怒号交じりに叫び、それに反応を示したオーバトは歩みを止めて、ゆっくりと振り返った。
「どういうつもりも何も、この間病室でお前に告げただろう。もし“次また問題を起こしたのなら、その時は自らの力で解決しろ”とな」
「……た、確かにそれは聞いた。だがそれはまだ次の話だろ! 俺はあれからずっと入院していたんだから何もしてねぇ!」
そう言った刹那、オーバトは1つのウォッチを出してバットに向け投げた。
「私の所にその“データ”が送られてきた」
「こ、これは……!?」
拾い上げてウォッチを確認するバット。するとそこには1週間前のアーサーとバットの一連のやり取りが全て記録された映像が流れていた。
「それは私がお前に最終勧告を告げた“後”に送られてきたものだ。言いたい事は分かるな?」
「そんな……。こ、こんな馬鹿な事が……」
「客観的に見ればお前も確かに重傷を負ったが、貴様のその行動は人の道を踏み外している。その怪我は因果応報。そしてそれが貴様と私の関係に終止符を打ったという事だ。
貴様にはもうギルドメンバーもいなければ金も地位も権力もない。生きたければ精々自分の力で這い上がる事だな。愚かな負け犬よ――」
吐き捨てる様に言ったオーバトは今度こそ去って行った。
絶望に突き落とされたバットも最早父親を止める気力がない。体の力も入らず言葉も出ず、全身が虚無感に襲われたバットはただただ去って行く父親の背中を眺める事しか出来なかった。
♢♦♢
「ん……ここは……ぐッ!?」
意識を取り戻したバット・エディングは病院のベッドの上にいた。
「無理に動くな。傷が開くぞ」
「え、親父……!? なんでこんな所に。って、そういやアーサーの野郎は……!」
「バット、お前は何をしているのだ」
全身に巻かれた包帯と痛みによって、徐々にバットは起こった出来事を思い出していった。病室にはバットと彼の父親である“オーバト・エディング”の姿が。
オーバトは重傷な息子を心配するどころか、何故かとても冷たい視線を彼に向けていた。
「べ、別に何もしてねぇよ。その……ギルドメンバーの奴が他のギルドとちょっと揉めてたんだ。だからそれを止めようとしただけだよ」
父親に真実を話さないバット。これが彼と父親との距離感なのだろう。
「いい加減下らない遊びは止めるのだバットよ。お前は我がエディング装備商会の跡継ぎだ。暇を持て余しているのなら早く勉強をしろ。いつでも商会の即戦力となれる様にな」
「わ、分かってるよそんな事……。あ、そうだ親父ッ! それよりも俺に“Bランクアーティファクト”を用意してくれ! そろそろもっと上を目指さないといけないんだ」
「……分かった。用意しておいておこう」
父親の承諾の返事に、バットは思い切りガッツポーズした。彼が今考えているのは勿論“アーサーへの復讐”。
最弱のスライム召喚士と馬鹿にされていたアーサーが何故あそこまでの力を手に入れたのかは定かじゃない。いや、最早バットにとってそこはどうでもいい。ただ今以上に強いアーティファクトを手に入れられれば余裕でアーサーなど越せるからだ。
そして彼はいとも簡単にそれが叶ってしまう。金の力で。バットは包帯まみれの下で確かにその口元を緩ませていたのだった。
(クハハハ。よしよしよし! これでアーサーの野郎をぶっ殺せる! あの野郎、調子こいてこの俺をぶん殴りやがって。ふざけんじゃねぇぞコラ。どんなせこい真似してアーティファクトを手に入れたか知らねぇが、次会った時がお前の最後だアーサー!)
バットが1人ベッドの上で復讐の炎を滾らせていると、病室を出て行く直前でオーバトが動きを止めてバットの方へ振り返った。
「言っておくが、余計な尻拭いはこれで最後だぞバット。私はお前の下らん遊びに時間を割いている暇はない。次また問題を起こしたのなら、その時は自らの力で解決しろ。甘えるな。もう手助けはしない。分かったな?」
オーバトは物凄く冷酷な目でバットを見ながら言った。
バットはこれが冗談ではないと瞬時に理解し、生唾を呑みながらコクリと静かに頷いたのだった。
**
1週間後――。
「ちっ。何で誰も通話に出ねぇんだよクソが! メッセージの返信もないじゃねぇか!」
退院したバットは何故か苛立っていた。
無事体力も回復した様子であるが、まだ体の一部には包帯が巻かれて松葉杖をついて歩いている状態。そんなバットは自らのウォッチを何度も確かめながら相当苛立っている。
理由は明白。
それはバットが入院してからのこの1週間というもの、彼がどれだけ連絡をしようと仲間達からの連絡が一切返ってきていないからだ。理由が全く分からないバットはこの1週間ひたすらイライラを募らせており、退院と同時にそれが爆発している状況。
逆を言えば、知らないのはバットのみ――。
既に彼の最も近い仲間達は皆アーサーに謝罪をし、金輪際2度と同じ過ちを犯さない様にと誓いまでたてているのだ。これまでは何も考えずにバットの言う通り動いていた彼らが、初めて自分達の意志で動いた瞬間でもあった。それが良いのか悪いのかは人によるだろうが。
「おいおい……一体何が起こってんだよ」
松葉杖をついたバットが真っ先に向かったのは『黒の終焉』のギルド。
しかし建物の中は誰もいない。いつもなら少なくても数人は絶対に建物内にいるだが、全ての部屋を見渡してもそこには誰の姿もなかった。
「まさかアーサーの野郎がまた何かしたんじゃねぇだろうな……ッ!」
ひたすらアーサーへの怒りを溢れ出しているバットは直ぐにアーサーに連絡を取る。だがアーサーからの応答はない。
「クソッ、どいつもこいつも俺を舐めんじゃねぇ!」
バットはウォッチをむしり取る様に外し、そのまま地面へと思い切り叩きつけた。
(あぁ~クソ、イライラする! 丁度今日も明日もアカデミーは休みか。こうなったら直接家に行って探し出してやる!)
そう思い立ったバットは、先ずはこの場所から最も近い仲間の家に行く為に再び松葉杖をついて歩き出ず。
バットはずっと嫌な胸騒ぎに襲われている。
それは皆が連絡に出ない事は勿論ながら、それ以上に、バットは今まで当たり前の様に使えていた親の金が“使えなくなっている”事に嫌な予感がしていた。そのせいで“魔力自動車《ドライブ》”や“魔機関車《モーティブ》”にも乗れなかったバットはここまで必死に松葉杖でやって来たのだ。
そしてやっとの思いで辿り着いた自分のギルドがもぬけの殻。バットの中で、嫌な胸騒ぎがどんどんと確信に近付いていた。
「あり得ない。そんな事は絶対にあり得ないぞ……ッ! 待ってろよアイツら。俺が今から行って、何が起こってんのか全部説明してもらうかッ……「もう1度聞こう。お前は“何をしているのだ”。バットよ――」
「親父……!」
バットがギルドを出た瞬間、彼の目の前には父親であるオーバトがいた。
だが病室で会った時のオーバトとはまるで違う、全てを断絶したかの如き雰囲気を纏うオーバト・エディングという男がそこにはいた。
「もう終わりだぞバット」
「え……? な、何を言って……」
「お前はもう終わりだ。このお遊びギルドもな。ハンターでもなければ我がエディング家の息子でもない。これからは自らの力で好きに生きよ」
それだけ言うと、オーバトはバットに背を向けこの場から去って行った。
「は? ちょ、ちょっと待てッ……! 待ってくれよ親父! 一体どういうつもりだよ!」
訳が分からないバットは怒号交じりに叫び、それに反応を示したオーバトは歩みを止めて、ゆっくりと振り返った。
「どういうつもりも何も、この間病室でお前に告げただろう。もし“次また問題を起こしたのなら、その時は自らの力で解決しろ”とな」
「……た、確かにそれは聞いた。だがそれはまだ次の話だろ! 俺はあれからずっと入院していたんだから何もしてねぇ!」
そう言った刹那、オーバトは1つのウォッチを出してバットに向け投げた。
「私の所にその“データ”が送られてきた」
「こ、これは……!?」
拾い上げてウォッチを確認するバット。するとそこには1週間前のアーサーとバットの一連のやり取りが全て記録された映像が流れていた。
「それは私がお前に最終勧告を告げた“後”に送られてきたものだ。言いたい事は分かるな?」
「そんな……。こ、こんな馬鹿な事が……」
「客観的に見ればお前も確かに重傷を負ったが、貴様のその行動は人の道を踏み外している。その怪我は因果応報。そしてそれが貴様と私の関係に終止符を打ったという事だ。
貴様にはもうギルドメンバーもいなければ金も地位も権力もない。生きたければ精々自分の力で這い上がる事だな。愚かな負け犬よ――」
吐き捨てる様に言ったオーバトは今度こそ去って行った。
絶望に突き落とされたバットも最早父親を止める気力がない。体の力も入らず言葉も出ず、全身が虚無感に襲われたバットはただただ去って行く父親の背中を眺める事しか出来なかった。