翌日。
「じゃああの……行ってきます。狭くて申し訳ないですが自由に過ごしていて下さいねシェリルさん」
「帰ったらまたいっぱい話そうねシェリル!」
「分かりました。行ってらっしゃいませ」
どんな1日で何が起ころうと、時間は平等に流れていく。
昨日から一夜明け、アーサーとエレインは普段通りアカデミーへ登校する。結局一睡も出来なかったアーサーは道中で眠そうに欠伸ばかりしていたのだった。
「お兄ちゃん寝れなかったの? そんな欠伸ばっかりして。あ! まさかシェリルを襲おうとしてたッ……「そんな訳ないだろ!」
行き過ぎたエレインに発想をすかさずアーサーが遮った。
実際はただシェリルの存在が気になり緊張して眠れなかっただけであるが、兄であるアーサーは実の妹にそんな格好悪い事は言えない。
――――――――――
「……ロイ……」
――――――――――
アーサーは眠気に襲われる道中でずっと考えていた。
(夜中にシェリルさんが寝言を呟いたみたいだけど、あれは誰かの名前なのかな……? 僕は彼女の事を本当に何も知らない。それに肝心の『一の園』ギルドも、イヴという人の存在と名前しか分からなかった。
一体何が目的でその人はシェリルと繋がっているんだろう……。
それに昨日は驚き過ぎて忘れていたけど、シェリルさんは元々『黒の終焉』に所属していた。バットが彼女を追放したのか? いや、それはあり得ない。バットは金の力でとにかく優秀なハンターを集めていた。
私利私欲でしか動かないバットが、勇者のシェリルさんを手放すなんて絶対にあり得ない事だ。
でも、だったら尚更何で僕の所なんかに? そもそもシェリルさんはどういう経緯でバットのギルドに入ったんだろうか。ひょっとしてそれもあのイヴとかいう人の指示なのか――?)
「おーい、お兄ちゃん!」
「え」
眠気に襲われる頭でごちゃごちゃと考えていたアーサー。何時しかボーっと無言で歩いていた彼を、エレインが呼び戻した。
「そんなに眠いの? ずっと沈黙だったよ」
「あ、ああ、ごめんごめん。もう大丈夫だよ、こりゃ今日は休み時間は全部睡眠だな」
「授業中に寝たら怒られるから気を付けなよ。じゃあまた帰りね!」
アカデミー着いたアーサーとエレインはそれぞれのクラスに向かい、今日も1日平穏な時間をアカデミーで過ごした。
**
~ダンジョン・メインフロア~
「リリアさん。昨日は色々ありがとうございました!」
「あ、アーサー君。丁度いい所に来たわね(相変わらず可愛いわ)」
「どうしたんですか?」
アカデミーが終わり、アーサーはエレインと家に帰ろうと思ったのだが、連日のバタバタのせいでここ2日間ダンジョンに行っていない事を思い出したアーサー。
稼ぎが増えたとはいえまだまだ安心出来ない。そう思ったアーサーはエレインに先に帰るよう伝えると、その足でそのままダンジョンに向かったのだった。
生活費を稼ぐ事は勿論、受ける予定だった昇格テストや、やはり気になるイヴや一の園の情報を僅かでも集めたいとアーサーは思っていた。
「実はね、私もあれから気になって色々調べてみたの。そしたら何だか面白い事が分かったわ」
「面白い事……ですか」
「ええ。そもそもあの『一の園』ってギルドはね――」
リリアの話はとても興味深いものだった。
彼女曰く、この世界にダンジョンが出現して以降、1番最初に設立されたのがあの封筒に記されていた『一の園』ギルドの事。
ギルド一の園はイヴ・アプルナナバを筆頭に、当時のまだ数少ないハンター達も皆彼女のギルドに所属しており、その時からハンター達は今と変わらないダンジョン攻略を行っていたそうだ。
この時代は当然今よりもハンターの人数が少なく、圧倒的にダンジョンやスキル、アーティファクトなど全てにおいて知識が不足していた。その為今とは違ってハンターの死亡や生存確率が極めて高く、毎日当然の如く誰かが犠牲となった。そんな先人達のかけがえのない努力と結晶が、アーサーのいる現代まで100年近く紡がれ、人類は遂に前人未到のフロア90まで到達したのだ。
無論、このダンジョンがどこまで続いているのか誰も分からない。しかし大昔に1度、ダンジョンは“フロア100”が頂きであると噂になった事があった――。
アーサーがいる現代においては、最早知る人ぞ知るお伽話のような感覚で伝わっている話である。アーサー自身もこれまでの人生で数回耳にした事がある程度だ。誰もこんな話を信じていない。
だが。
何でもこの噂の出元が他ならぬ、ギルド『一の園』のイヴ・アプルナナバかもしれないとの事。つまり、これはあくまでリリアの憶測であるが、彼女はこのダンジョンについて何か重要な事を知っている可能性がある。勿論それと同時に全くのデマという可能性も否めない為、どの道真相に辿り着くには彼女を探さねばならないという結論に至った。
「……という感じなのよアーサー君。どう? 少しは役に立てたかしら」
「いやいや、少しどころじゃないですよ。こんな貴重な話をありがとうございます! やっぱりイヴという人を探すのが全ての答えになりそうですね」
正直、昨日からずっとアーサーは今後について悩んでいたが、どうやら彼の気持ちは固まった様子だ。
「ちょっと! まだ話は終わっていないわよアーサー君。私をそこら辺の受付嬢達と一緒にしないでくれる?」
突如リリアはそう言うと、ドヤ顔でアーサーを見つめ直した。彼女の鋭い視線と魅惑の谷間が毎度の如くアーサーの理性を襲う。
「……と言いますと?」
「フフフ。はい、これあげるわ」
リリアは徐に1枚の紙切れを取り出してアーサーに渡した。
「そこに書いておいたわよ。イヴの“居所”」
「えッ!? 本当ですか!?」
余りに予想外の展開にアーサーは慌てて紙に視線を落とした。するとそこには“ツインマウンテン”という文字が。
「ツインマウンテン……。あんな山にいるんですか!?」
「そうみたいよ。とは言ってもその情報も確実ではないわ。ハンター評議会の上のおじ様達にちょっと聞いただけだから。普通に考えてあんな所に人がいるとも思えないし」
(ハンター評議会の上のおじ様……?)
一瞬リリアに聞こうか迷ったアーサーであったが、何となく止めておこうと思いそのまま口を閉ざしたのだった。
「あ、ありがとうございますリリアさん! 今度の休みに試しに行ってみます」
「あらそう。まぁアーサー君ならそう言うと思ったわ。でも気を付けてね。ダンジョン程ではないけど、あそこに生息するモンスターも多いから。
それにツインマウンテンは標高6,000mを超える山が2つ。モンスターの被害よりも“遭難”で死ぬ方がずっと多いから絶対に1人で行かないようにね。万が一の為に」
そう。
時と場合によってはダンジョンよりも危険であるツインマウンテン。国の最南端に位置する巨大な山であり、標高6,660mの山が2つ並んでいる有名な山だ。
リリアから情報を貰ったアーサーは一先ず今日分のフロア周回をし終えると、改めて炎Cランクの昇格テストを受けたいとリリアに告げて日程を調整してもらった。
**
それから2日後。
今度こそ昇格テストを受けたアーサーは見事合格。遂に彼は炎Cランクハンターとなったのだった――。
「じゃああの……行ってきます。狭くて申し訳ないですが自由に過ごしていて下さいねシェリルさん」
「帰ったらまたいっぱい話そうねシェリル!」
「分かりました。行ってらっしゃいませ」
どんな1日で何が起ころうと、時間は平等に流れていく。
昨日から一夜明け、アーサーとエレインは普段通りアカデミーへ登校する。結局一睡も出来なかったアーサーは道中で眠そうに欠伸ばかりしていたのだった。
「お兄ちゃん寝れなかったの? そんな欠伸ばっかりして。あ! まさかシェリルを襲おうとしてたッ……「そんな訳ないだろ!」
行き過ぎたエレインに発想をすかさずアーサーが遮った。
実際はただシェリルの存在が気になり緊張して眠れなかっただけであるが、兄であるアーサーは実の妹にそんな格好悪い事は言えない。
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「……ロイ……」
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アーサーは眠気に襲われる道中でずっと考えていた。
(夜中にシェリルさんが寝言を呟いたみたいだけど、あれは誰かの名前なのかな……? 僕は彼女の事を本当に何も知らない。それに肝心の『一の園』ギルドも、イヴという人の存在と名前しか分からなかった。
一体何が目的でその人はシェリルと繋がっているんだろう……。
それに昨日は驚き過ぎて忘れていたけど、シェリルさんは元々『黒の終焉』に所属していた。バットが彼女を追放したのか? いや、それはあり得ない。バットは金の力でとにかく優秀なハンターを集めていた。
私利私欲でしか動かないバットが、勇者のシェリルさんを手放すなんて絶対にあり得ない事だ。
でも、だったら尚更何で僕の所なんかに? そもそもシェリルさんはどういう経緯でバットのギルドに入ったんだろうか。ひょっとしてそれもあのイヴとかいう人の指示なのか――?)
「おーい、お兄ちゃん!」
「え」
眠気に襲われる頭でごちゃごちゃと考えていたアーサー。何時しかボーっと無言で歩いていた彼を、エレインが呼び戻した。
「そんなに眠いの? ずっと沈黙だったよ」
「あ、ああ、ごめんごめん。もう大丈夫だよ、こりゃ今日は休み時間は全部睡眠だな」
「授業中に寝たら怒られるから気を付けなよ。じゃあまた帰りね!」
アカデミー着いたアーサーとエレインはそれぞれのクラスに向かい、今日も1日平穏な時間をアカデミーで過ごした。
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~ダンジョン・メインフロア~
「リリアさん。昨日は色々ありがとうございました!」
「あ、アーサー君。丁度いい所に来たわね(相変わらず可愛いわ)」
「どうしたんですか?」
アカデミーが終わり、アーサーはエレインと家に帰ろうと思ったのだが、連日のバタバタのせいでここ2日間ダンジョンに行っていない事を思い出したアーサー。
稼ぎが増えたとはいえまだまだ安心出来ない。そう思ったアーサーはエレインに先に帰るよう伝えると、その足でそのままダンジョンに向かったのだった。
生活費を稼ぐ事は勿論、受ける予定だった昇格テストや、やはり気になるイヴや一の園の情報を僅かでも集めたいとアーサーは思っていた。
「実はね、私もあれから気になって色々調べてみたの。そしたら何だか面白い事が分かったわ」
「面白い事……ですか」
「ええ。そもそもあの『一の園』ってギルドはね――」
リリアの話はとても興味深いものだった。
彼女曰く、この世界にダンジョンが出現して以降、1番最初に設立されたのがあの封筒に記されていた『一の園』ギルドの事。
ギルド一の園はイヴ・アプルナナバを筆頭に、当時のまだ数少ないハンター達も皆彼女のギルドに所属しており、その時からハンター達は今と変わらないダンジョン攻略を行っていたそうだ。
この時代は当然今よりもハンターの人数が少なく、圧倒的にダンジョンやスキル、アーティファクトなど全てにおいて知識が不足していた。その為今とは違ってハンターの死亡や生存確率が極めて高く、毎日当然の如く誰かが犠牲となった。そんな先人達のかけがえのない努力と結晶が、アーサーのいる現代まで100年近く紡がれ、人類は遂に前人未到のフロア90まで到達したのだ。
無論、このダンジョンがどこまで続いているのか誰も分からない。しかし大昔に1度、ダンジョンは“フロア100”が頂きであると噂になった事があった――。
アーサーがいる現代においては、最早知る人ぞ知るお伽話のような感覚で伝わっている話である。アーサー自身もこれまでの人生で数回耳にした事がある程度だ。誰もこんな話を信じていない。
だが。
何でもこの噂の出元が他ならぬ、ギルド『一の園』のイヴ・アプルナナバかもしれないとの事。つまり、これはあくまでリリアの憶測であるが、彼女はこのダンジョンについて何か重要な事を知っている可能性がある。勿論それと同時に全くのデマという可能性も否めない為、どの道真相に辿り着くには彼女を探さねばならないという結論に至った。
「……という感じなのよアーサー君。どう? 少しは役に立てたかしら」
「いやいや、少しどころじゃないですよ。こんな貴重な話をありがとうございます! やっぱりイヴという人を探すのが全ての答えになりそうですね」
正直、昨日からずっとアーサーは今後について悩んでいたが、どうやら彼の気持ちは固まった様子だ。
「ちょっと! まだ話は終わっていないわよアーサー君。私をそこら辺の受付嬢達と一緒にしないでくれる?」
突如リリアはそう言うと、ドヤ顔でアーサーを見つめ直した。彼女の鋭い視線と魅惑の谷間が毎度の如くアーサーの理性を襲う。
「……と言いますと?」
「フフフ。はい、これあげるわ」
リリアは徐に1枚の紙切れを取り出してアーサーに渡した。
「そこに書いておいたわよ。イヴの“居所”」
「えッ!? 本当ですか!?」
余りに予想外の展開にアーサーは慌てて紙に視線を落とした。するとそこには“ツインマウンテン”という文字が。
「ツインマウンテン……。あんな山にいるんですか!?」
「そうみたいよ。とは言ってもその情報も確実ではないわ。ハンター評議会の上のおじ様達にちょっと聞いただけだから。普通に考えてあんな所に人がいるとも思えないし」
(ハンター評議会の上のおじ様……?)
一瞬リリアに聞こうか迷ったアーサーであったが、何となく止めておこうと思いそのまま口を閉ざしたのだった。
「あ、ありがとうございますリリアさん! 今度の休みに試しに行ってみます」
「あらそう。まぁアーサー君ならそう言うと思ったわ。でも気を付けてね。ダンジョン程ではないけど、あそこに生息するモンスターも多いから。
それにツインマウンテンは標高6,000mを超える山が2つ。モンスターの被害よりも“遭難”で死ぬ方がずっと多いから絶対に1人で行かないようにね。万が一の為に」
そう。
時と場合によってはダンジョンよりも危険であるツインマウンテン。国の最南端に位置する巨大な山であり、標高6,660mの山が2つ並んでいる有名な山だ。
リリアから情報を貰ったアーサーは一先ず今日分のフロア周回をし終えると、改めて炎Cランクの昇格テストを受けたいとリリアに告げて日程を調整してもらった。
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それから2日後。
今度こそ昇格テストを受けたアーサーは見事合格。遂に彼は炎Cランクハンターとなったのだった――。