そして再び話はバットに戻る。
「それで、どうするエレイン。まだ足りないなら僕がぶん殴るけど」
そう言いながらアーサーは正座しているバットの前に立った。
言わずもがなバットはもう既にボロボロで戦意の欠片も感じない。アーサーが目の前に立ってもただひたすら謝る事しか出来ずにいる。
勿論これで全てがチャラになる訳ではない。
それでも幾らか怒りが収まったアーサーは、後の処理をエレイン達に委ねた。最初はただ自分だけの為にバットをぶっ飛ばしてやろうと思っていたが、それも随分と状況が変わっていた。
流石に無能のバットでもここまで痛い目に遭えば理解出来るだろう。
なんの苦労もせずに親の金の力だけでCランクアーティファクトを手にしたバットと、自分の人生を懸けて死に物狂いでオーガアーティファクトを手に入れたアーサーでは最早比べものにならない程の差が生じていた。
アーサーからの問いに悩むエレインであったが、彼女は突如何かを閃いたのか勢いよくアーサーの方へ振り向いた。
「ねぇ、お兄ちゃん。そのアーティファクトって“私”でも使えるの?」
急に我が妹から意味深な事を聞かれたアーサー。彼は一瞬戸惑いを見せるも直ぐに答える。
「え、ああ……それはまぁ一応誰でも使えるけど。なんで?」
嫌な予感を感じるアーサーとは対照的に、子供の様な笑みを浮かべたエレイン。
そして。
アーサーは2度とこんな事が起こらない様にと猛省した。
――ドガァァン!
「ぐびゃはッ……!?」
「わお! 凄いパワー!」
“エレインにぶん殴られたバット”は凄い勢いで壁に叩きつけられ遂に気を失ってしまった。
「あ~スッキリした! 私とサラに手を出した罰だからねこれは!」
気絶しているバットに留めの勝ち台詞を放ったエレイン。どうやら気が済んだらしい。アーサーは気絶するバットを見ながら最後にそっと手を合わせていたのはここだけの話。
(まさかの行動に出たな妹よ。
まぁ今回の1番の被害者はエレイン達だから気持ちは分かる。僕も怒りのままに行動したからね。確かに気持ちは分かる。
でもまさか「私とサラに手を出した分は私がやり返す!」って僕からアーティファクトを借りて直接バットをぶん殴るという結論に至るとは正直予想していなかったぞ兄ちゃんも……)
アーサーはエレインの後ろ姿を見て思った。
(拝啓母さん――。
妹のエレインは日々の貧しい生活にも耐え、優しく逞しく強く立派に育っています。ひょっとしたら僕よりもハンターに向いているのかもしれません。なので母さんは自分の体の事だけを考えて穏やかな日々をお過ごし下さい。
最後にもう1度……。妹は強いです――)
**
見事バットへの反撃を成功させたアーサー。……それからエレインは、黒の終焉ギルドを後にする前にまだ気を失っていない残りの男達にダメ押しで釘を刺しておいた。
もう2度と僕達に関わるなと――。
それでも既に状況を理解していた男達には毛頭そのつもりはなかったのだが、ここでまさかのダメ押しのダメ押し。なんとサラが拘束中に密かに一部始終の音声をウォッチで録音していたのだ。
しかもアーサー達にとても都合が良い事に、録音されていたのはバット達の下衆な会話だけ。その後アーサーがボコボコにした事や、予想外のエレインがバットをぶん殴った事などは全く記録も証拠も残っていない。この場にいる者達の思い出のみだ。
仮に今回の事を口外したとしても、悪いのは間違いなくバット達。だから問題ないだろう。確かに多少やり過ぎた部分はアーサーにもあったのかもしれないが、それでもこの件が公になれば圧倒的に大きな被害を被るのはバット達や関係のない黒の終焉メンバーとなる。
ましてやバットに至ってはこのドラシエル王国1番の大商会であるエディング装備商会の息子。今回は完全にその立場が裏目に出たと言えよう。下手な事実は黒の終焉、エディング装備商会、そしてバット本人にもマイナスでしかないのだ。
「よし。帰るぞ」
こうして、アーサー達の今日という濃い1日は無事に幕を下ろした。
……かに思えたが、アーサー達が黒の終焉を去った後に“それ”は起こっていた――。
♢♦♢
~ギルド・黒の終焉~
アーサーが黒の終焉に乗り込んできた瞬間、その時“彼女”はギルドの2階にいた。
――ドガァァァァァンッ。
「「……!?」」
ギルドの扉が豪快に破壊されたと同時、1人の男が物凄い形相でギルドへと入ってきた。彼の鋭い視線はギルドマスターであるバットに真っ直ぐ向けられている。
「……」
2階から視線を落とし、その様子を何気なく見ていたのは他でもない、美しき白銀の勇者“シェリル・ローライン”であった。
あまり感情を表に出さない彼女はアーサーとバットの様子を無表情で眺めている。バットと一部の男達以外は、彼らが何をして今の状況になっているのか知る由もない。彼女もその1人だ。
シェリルはこれから起こるいざこざの経緯を全く知らない。なのにもかかわらず、何故かシェリルは徐にウォッチの“録画機能”を起動させアーサー達に向けていた。
そして。
シェリルはアーサーとバット達の一連のやり取りを全て録画し、アーサー達がギルドを後にした所で彼女も静かにウォッチを停止させたのだった。
(……とりあえずこれで“また1つ”。この半年で“言われた通り”に何度か送ったけれど、こんな感じでいいのかしら――?)
些かの疑問を抱きつつ、シェリルは今録画した一部始終のデータをを誰かの元へと送る。
『送信完了』
ウォッチに表示された文字を見たシェリルは最後に気絶するバットを無表情で見つめると、そのまま何事もなかったかのように場を去るのであった。
「それで、どうするエレイン。まだ足りないなら僕がぶん殴るけど」
そう言いながらアーサーは正座しているバットの前に立った。
言わずもがなバットはもう既にボロボロで戦意の欠片も感じない。アーサーが目の前に立ってもただひたすら謝る事しか出来ずにいる。
勿論これで全てがチャラになる訳ではない。
それでも幾らか怒りが収まったアーサーは、後の処理をエレイン達に委ねた。最初はただ自分だけの為にバットをぶっ飛ばしてやろうと思っていたが、それも随分と状況が変わっていた。
流石に無能のバットでもここまで痛い目に遭えば理解出来るだろう。
なんの苦労もせずに親の金の力だけでCランクアーティファクトを手にしたバットと、自分の人生を懸けて死に物狂いでオーガアーティファクトを手に入れたアーサーでは最早比べものにならない程の差が生じていた。
アーサーからの問いに悩むエレインであったが、彼女は突如何かを閃いたのか勢いよくアーサーの方へ振り向いた。
「ねぇ、お兄ちゃん。そのアーティファクトって“私”でも使えるの?」
急に我が妹から意味深な事を聞かれたアーサー。彼は一瞬戸惑いを見せるも直ぐに答える。
「え、ああ……それはまぁ一応誰でも使えるけど。なんで?」
嫌な予感を感じるアーサーとは対照的に、子供の様な笑みを浮かべたエレイン。
そして。
アーサーは2度とこんな事が起こらない様にと猛省した。
――ドガァァン!
「ぐびゃはッ……!?」
「わお! 凄いパワー!」
“エレインにぶん殴られたバット”は凄い勢いで壁に叩きつけられ遂に気を失ってしまった。
「あ~スッキリした! 私とサラに手を出した罰だからねこれは!」
気絶しているバットに留めの勝ち台詞を放ったエレイン。どうやら気が済んだらしい。アーサーは気絶するバットを見ながら最後にそっと手を合わせていたのはここだけの話。
(まさかの行動に出たな妹よ。
まぁ今回の1番の被害者はエレイン達だから気持ちは分かる。僕も怒りのままに行動したからね。確かに気持ちは分かる。
でもまさか「私とサラに手を出した分は私がやり返す!」って僕からアーティファクトを借りて直接バットをぶん殴るという結論に至るとは正直予想していなかったぞ兄ちゃんも……)
アーサーはエレインの後ろ姿を見て思った。
(拝啓母さん――。
妹のエレインは日々の貧しい生活にも耐え、優しく逞しく強く立派に育っています。ひょっとしたら僕よりもハンターに向いているのかもしれません。なので母さんは自分の体の事だけを考えて穏やかな日々をお過ごし下さい。
最後にもう1度……。妹は強いです――)
**
見事バットへの反撃を成功させたアーサー。……それからエレインは、黒の終焉ギルドを後にする前にまだ気を失っていない残りの男達にダメ押しで釘を刺しておいた。
もう2度と僕達に関わるなと――。
それでも既に状況を理解していた男達には毛頭そのつもりはなかったのだが、ここでまさかのダメ押しのダメ押し。なんとサラが拘束中に密かに一部始終の音声をウォッチで録音していたのだ。
しかもアーサー達にとても都合が良い事に、録音されていたのはバット達の下衆な会話だけ。その後アーサーがボコボコにした事や、予想外のエレインがバットをぶん殴った事などは全く記録も証拠も残っていない。この場にいる者達の思い出のみだ。
仮に今回の事を口外したとしても、悪いのは間違いなくバット達。だから問題ないだろう。確かに多少やり過ぎた部分はアーサーにもあったのかもしれないが、それでもこの件が公になれば圧倒的に大きな被害を被るのはバット達や関係のない黒の終焉メンバーとなる。
ましてやバットに至ってはこのドラシエル王国1番の大商会であるエディング装備商会の息子。今回は完全にその立場が裏目に出たと言えよう。下手な事実は黒の終焉、エディング装備商会、そしてバット本人にもマイナスでしかないのだ。
「よし。帰るぞ」
こうして、アーサー達の今日という濃い1日は無事に幕を下ろした。
……かに思えたが、アーサー達が黒の終焉を去った後に“それ”は起こっていた――。
♢♦♢
~ギルド・黒の終焉~
アーサーが黒の終焉に乗り込んできた瞬間、その時“彼女”はギルドの2階にいた。
――ドガァァァァァンッ。
「「……!?」」
ギルドの扉が豪快に破壊されたと同時、1人の男が物凄い形相でギルドへと入ってきた。彼の鋭い視線はギルドマスターであるバットに真っ直ぐ向けられている。
「……」
2階から視線を落とし、その様子を何気なく見ていたのは他でもない、美しき白銀の勇者“シェリル・ローライン”であった。
あまり感情を表に出さない彼女はアーサーとバットの様子を無表情で眺めている。バットと一部の男達以外は、彼らが何をして今の状況になっているのか知る由もない。彼女もその1人だ。
シェリルはこれから起こるいざこざの経緯を全く知らない。なのにもかかわらず、何故かシェリルは徐にウォッチの“録画機能”を起動させアーサー達に向けていた。
そして。
シェリルはアーサーとバット達の一連のやり取りを全て録画し、アーサー達がギルドを後にした所で彼女も静かにウォッチを停止させたのだった。
(……とりあえずこれで“また1つ”。この半年で“言われた通り”に何度か送ったけれど、こんな感じでいいのかしら――?)
些かの疑問を抱きつつ、シェリルは今録画した一部始終のデータをを誰かの元へと送る。
『送信完了』
ウォッチに表示された文字を見たシェリルは最後に気絶するバットを無表情で見つめると、そのまま何事もなかったかのように場を去るのであった。