一瞬の出来事。目の前で起こった事と、それをやったであろう人物が繋がらない。
常人離れした攻撃によって破壊された扉。鬼の形相で殺意を剥き出しにする最弱無能な召喚士。周りには誰も仲間はいない。そこにいるのはアーサー・リルガーデンという人間が1人だけ。つまり、今この扉を破壊したのはアーサーだ。
「ん゛ん゛ーッ!」
「もう大丈夫だぞエレイン。兄ちゃんが来た」
絶対にあり得ない現実を見せつけられ、バット達は直ぐには状況を呑み込めずにいる。
「い、今のもしかしてアイツがやったのか?」
「それはないだろ……。だってあのアーサーだぜ」
戸惑う連れ達を他所に、アーサーが来た事が余程愉快なのかバットはニヤニヤと笑みを浮かべていた。
「ハッハッハッ! 逃げずに来たみたいだなクソアーサー! 雑魚だからってこんな手の込んだ“演出”してんじゃねぇよ。何の意味もないぞコラ」
「演出? な、なんだ、そう言う事かよ。ハハハ。そりゃそうだよな」
「当たり前だろ! お前達もなんで信じ切ってるんだよ。相手はあのアーサーだぞ。スライム装備で武器も持ってない野郎が一体どういう理屈で出来ッ……『――ズガァン!』
刹那、連れと話していたバットが一瞬でぶっ飛んだ。
「バ、バット……!?」
またも一瞬の出来事で男達は目を見開き言葉を失った。彼らの視線の先には、凄まじい勢いで壁に叩きつけられ床に倒れたバットの姿。更に今しがた隣で会話していた筈の立ち位置には何故かアーサーの姿がある。
扉からバット達までの距離はおよそ十数メートル程だったろうか。仮に勢いをつけて走って来たとしても反応出来る距離。それも相手があのアーサーともなれば尚更、奴の動きに反応出来ない訳がない。
「何時からだ? お前達は何時から僕になんて負けないと“思い込んでいた”?」
「「――!?」」
静かに響き渡ったアーサーの声。
直後アーサーの底知れない不気味な怒りを感じ取った男達の背筋には冷たいものが走った。
殺される――。
そう本能が訴えかける程に、男達は全員目の前のアーサー・リルガーデンに恐怖を感じさせられているのだった。
「大丈夫だったかエレイン」
静まり返る男達に一切見向きもせず、アーサーはエレインとサラの拘束を解いた。
「お兄ちゃん!」
「こ、怖かったですッ! ありがとうございますエレインのお兄さん!」
「本当に無事で良かった。2人共何もされていないか?」
恐怖から解放され、自分に抱き着いてきた2人の頭をそっと撫でるアーサー。改めてエレイン達が無事だったと確認出来たアーサーは一気に緊張が解けて全身が重くなった。だが同時にその重さの分だけ安心感も得たのだ。
「ぐッ! な、何が……起こった……」
ここでようやくバットが動き出す。
震える腕で懸命に体を起こしたバットの左顔面は青紫色に腫れあがり、曲がった鼻と口からは血が滴り落ちている。
「2人共離れていろ。後は兄ちゃんに任せておけ」
アーサーはエレインとサラを後方へと離し、ゆっくり立ち上がろうとしてるバットと対峙した。
「ちっ。どうなってやがる……! まさかお前がやったんじゃねぇだろうなアーサァァッ!」
「逆に僕以外に誰がいると思ってるんだよ。“無能”が」
「な、なんだとコラッ! 誰が無能だッ……ぐばぁッ!?」
次の瞬間、またも数メートルの距離を一瞬で詰めたアーサーはその勢いのまま握った拳をバットの腹にめり込んだ。余りの威力で息が止まったバットは悶絶の表情と共に膝から崩れ落ちる。
「がッ! あ、ごあッ……!」
「無能はお前だと言っているんだよバット。1度で分かる事を2度言わせるな。そういう所が無能なんだ」
「ばッ、ばでッ……!?」
「待たねぇよ」
腹に手を当て膝を着いていたバットを強引に立ち上がらせると、アーサーは握った拳でバットをぶん殴る。直前でバットが慌てて「待て」と訴えるも、無論今のアーサーがバットの言う事を聞くつもりなど微塵もなかった。
立て続けに殴られたバットは既に満身創痍。
顔半分は誰かも分からないぐらい腫れあがって流血し、足元は飛び散ったバットの血と嘔吐で汚れている。バット本人も目の前のアーサーに恐怖を感じ、完全に委縮してしまっていた。
「ば、ばで……。まずば話じをッ「聞かない」
ズガン。
「がはッ! や、止めでぐれッ……もう、何もじねぇッ「止めない」
ズガン。
「痛でぇッ! だ……頼むッ! 俺が悪がっだがらゆッ、許じでぐれッ……!」
「頼む? 俺が悪かった? 許してくれ? 上からで偉そうだな」
ズガン。
「う゛がァァァァッ!」
痛みに耐えきれなくなったバットが苦し紛れに断末魔の叫びを上げた。
何が起こっているのかまるで意味が分からない。自分が何故こんな目に遭っているのだと考えるバット。だが答えは出てこない。そんな事よりも今はただただこの痛みから解放されたいと願う。もう自分の顔面がどうなっているかも分からないバットはプライドも捨て、縋る思いでアーサーに許しを請いたのだった。
「ず、ずみませんでじたッ……! 許してくだざい! お、俺がぢょうしに乗っで、本当に……申しわげないごどをしてじまいましだッ、ごめんなざいッ!」
土下座でアーサーに謝るバット。
今の彼の言葉と態度には一切の偽りがない。全て本心であった。
「い、妹ざんもおども達もッ! 大変じつれいなごどをして申し訳ありばぜんでした……! 謝っで許ざれる事でばありませんが……ほ、ほんどうに反省していまず……! もう……もう2度と視界に映りまぜんので許じでいただけませんでじょうかッ!」
見苦しい事この上ない。
謝ってる最中にも鼻からは血が流れ、口からも血と唾液、それに折れた歯が床に転がっていた。バットからはもう微塵の反抗も感じない。アーサーもこんな姿の彼を見たのは初めてだった。
「どうする? エレイン」
アーサーは振り返ってエレインに問う。
「え? 私に聞かれても……って言うか、お兄ちゃんそんなに強かったの!? いつから!?」
「ちょっと前かな。地道に頑張ってオーガアーティファクトも手に入れたんだ」
唐突に出たオーガアーティファクトという単語に、この場にいた者達が一斉にどよめいた。
「え! それって滅茶苦茶高いあのアーティファクト!? 嘘でしょお兄ちゃん!?」
「オーガアーティファクトだって? あのアーサーが……!?」
「ば、馬鹿な……あり得ないだろそんな事……」
「でも、バットをあんな一方的に倒したぞ!」
次々に驚きの声が上がる。明かされた事実に皆が動揺を隠せない。
次の瞬間、アーサーはそんな男達を黙らせるかの如く自分のウォッチを彼らに見せつけた。そしてそこに映ったアーサーの装備アーティファクトを見た全員が驚愕し、開いた口が塞がらなくなった。
「うっそ、ヤバッ! お兄ちゃん凄いじゃん!」
「そうだ。兄ちゃんは凄いんだ」
数秒前までの怒りが消え去り、妹の前ではいつもの兄に戻るアーサー。しかし、再び燃え盛る怒りを露にしたアーサーは鋭い眼光で男達を睨んだ。
「まさかとは思うが、この中に妹達に手を出した奴はいないよな?」
「「だ、出していませんッ!!」」
男達は声を揃えてそう言い切り、全員が同時に首を横に振った。
「本当か? エレイン」
「う、うん。まぁ一応。でも逃げようとしたら無理矢理腕を掴まれた。それに椅子に縛り付けられたし」
「なんだと――」
「「……!?」」
エレインの言葉を聞き、アーサーは凄まじい怒りに更に殺意を追加して男達を睨んだ。エレインはしてやったりと言わんばかりに怒り狂うアーサーの後ろから男達に「べッー」と舌を出している。
嘘ではないとは言え、まさかのエレインの行動に一杯食わされた男達はこの瞬間“死”を覚悟した――。
そして。
幸いな事に死は避けたものの、エレインとサラに手荒な事をしたと本人達から指名された男数名は、アーサーの怒れる鉄拳をそれぞれ1発ずつ食らって気を失った。
常人離れした攻撃によって破壊された扉。鬼の形相で殺意を剥き出しにする最弱無能な召喚士。周りには誰も仲間はいない。そこにいるのはアーサー・リルガーデンという人間が1人だけ。つまり、今この扉を破壊したのはアーサーだ。
「ん゛ん゛ーッ!」
「もう大丈夫だぞエレイン。兄ちゃんが来た」
絶対にあり得ない現実を見せつけられ、バット達は直ぐには状況を呑み込めずにいる。
「い、今のもしかしてアイツがやったのか?」
「それはないだろ……。だってあのアーサーだぜ」
戸惑う連れ達を他所に、アーサーが来た事が余程愉快なのかバットはニヤニヤと笑みを浮かべていた。
「ハッハッハッ! 逃げずに来たみたいだなクソアーサー! 雑魚だからってこんな手の込んだ“演出”してんじゃねぇよ。何の意味もないぞコラ」
「演出? な、なんだ、そう言う事かよ。ハハハ。そりゃそうだよな」
「当たり前だろ! お前達もなんで信じ切ってるんだよ。相手はあのアーサーだぞ。スライム装備で武器も持ってない野郎が一体どういう理屈で出来ッ……『――ズガァン!』
刹那、連れと話していたバットが一瞬でぶっ飛んだ。
「バ、バット……!?」
またも一瞬の出来事で男達は目を見開き言葉を失った。彼らの視線の先には、凄まじい勢いで壁に叩きつけられ床に倒れたバットの姿。更に今しがた隣で会話していた筈の立ち位置には何故かアーサーの姿がある。
扉からバット達までの距離はおよそ十数メートル程だったろうか。仮に勢いをつけて走って来たとしても反応出来る距離。それも相手があのアーサーともなれば尚更、奴の動きに反応出来ない訳がない。
「何時からだ? お前達は何時から僕になんて負けないと“思い込んでいた”?」
「「――!?」」
静かに響き渡ったアーサーの声。
直後アーサーの底知れない不気味な怒りを感じ取った男達の背筋には冷たいものが走った。
殺される――。
そう本能が訴えかける程に、男達は全員目の前のアーサー・リルガーデンに恐怖を感じさせられているのだった。
「大丈夫だったかエレイン」
静まり返る男達に一切見向きもせず、アーサーはエレインとサラの拘束を解いた。
「お兄ちゃん!」
「こ、怖かったですッ! ありがとうございますエレインのお兄さん!」
「本当に無事で良かった。2人共何もされていないか?」
恐怖から解放され、自分に抱き着いてきた2人の頭をそっと撫でるアーサー。改めてエレイン達が無事だったと確認出来たアーサーは一気に緊張が解けて全身が重くなった。だが同時にその重さの分だけ安心感も得たのだ。
「ぐッ! な、何が……起こった……」
ここでようやくバットが動き出す。
震える腕で懸命に体を起こしたバットの左顔面は青紫色に腫れあがり、曲がった鼻と口からは血が滴り落ちている。
「2人共離れていろ。後は兄ちゃんに任せておけ」
アーサーはエレインとサラを後方へと離し、ゆっくり立ち上がろうとしてるバットと対峙した。
「ちっ。どうなってやがる……! まさかお前がやったんじゃねぇだろうなアーサァァッ!」
「逆に僕以外に誰がいると思ってるんだよ。“無能”が」
「な、なんだとコラッ! 誰が無能だッ……ぐばぁッ!?」
次の瞬間、またも数メートルの距離を一瞬で詰めたアーサーはその勢いのまま握った拳をバットの腹にめり込んだ。余りの威力で息が止まったバットは悶絶の表情と共に膝から崩れ落ちる。
「がッ! あ、ごあッ……!」
「無能はお前だと言っているんだよバット。1度で分かる事を2度言わせるな。そういう所が無能なんだ」
「ばッ、ばでッ……!?」
「待たねぇよ」
腹に手を当て膝を着いていたバットを強引に立ち上がらせると、アーサーは握った拳でバットをぶん殴る。直前でバットが慌てて「待て」と訴えるも、無論今のアーサーがバットの言う事を聞くつもりなど微塵もなかった。
立て続けに殴られたバットは既に満身創痍。
顔半分は誰かも分からないぐらい腫れあがって流血し、足元は飛び散ったバットの血と嘔吐で汚れている。バット本人も目の前のアーサーに恐怖を感じ、完全に委縮してしまっていた。
「ば、ばで……。まずば話じをッ「聞かない」
ズガン。
「がはッ! や、止めでぐれッ……もう、何もじねぇッ「止めない」
ズガン。
「痛でぇッ! だ……頼むッ! 俺が悪がっだがらゆッ、許じでぐれッ……!」
「頼む? 俺が悪かった? 許してくれ? 上からで偉そうだな」
ズガン。
「う゛がァァァァッ!」
痛みに耐えきれなくなったバットが苦し紛れに断末魔の叫びを上げた。
何が起こっているのかまるで意味が分からない。自分が何故こんな目に遭っているのだと考えるバット。だが答えは出てこない。そんな事よりも今はただただこの痛みから解放されたいと願う。もう自分の顔面がどうなっているかも分からないバットはプライドも捨て、縋る思いでアーサーに許しを請いたのだった。
「ず、ずみませんでじたッ……! 許してくだざい! お、俺がぢょうしに乗っで、本当に……申しわげないごどをしてじまいましだッ、ごめんなざいッ!」
土下座でアーサーに謝るバット。
今の彼の言葉と態度には一切の偽りがない。全て本心であった。
「い、妹ざんもおども達もッ! 大変じつれいなごどをして申し訳ありばぜんでした……! 謝っで許ざれる事でばありませんが……ほ、ほんどうに反省していまず……! もう……もう2度と視界に映りまぜんので許じでいただけませんでじょうかッ!」
見苦しい事この上ない。
謝ってる最中にも鼻からは血が流れ、口からも血と唾液、それに折れた歯が床に転がっていた。バットからはもう微塵の反抗も感じない。アーサーもこんな姿の彼を見たのは初めてだった。
「どうする? エレイン」
アーサーは振り返ってエレインに問う。
「え? 私に聞かれても……って言うか、お兄ちゃんそんなに強かったの!? いつから!?」
「ちょっと前かな。地道に頑張ってオーガアーティファクトも手に入れたんだ」
唐突に出たオーガアーティファクトという単語に、この場にいた者達が一斉にどよめいた。
「え! それって滅茶苦茶高いあのアーティファクト!? 嘘でしょお兄ちゃん!?」
「オーガアーティファクトだって? あのアーサーが……!?」
「ば、馬鹿な……あり得ないだろそんな事……」
「でも、バットをあんな一方的に倒したぞ!」
次々に驚きの声が上がる。明かされた事実に皆が動揺を隠せない。
次の瞬間、アーサーはそんな男達を黙らせるかの如く自分のウォッチを彼らに見せつけた。そしてそこに映ったアーサーの装備アーティファクトを見た全員が驚愕し、開いた口が塞がらなくなった。
「うっそ、ヤバッ! お兄ちゃん凄いじゃん!」
「そうだ。兄ちゃんは凄いんだ」
数秒前までの怒りが消え去り、妹の前ではいつもの兄に戻るアーサー。しかし、再び燃え盛る怒りを露にしたアーサーは鋭い眼光で男達を睨んだ。
「まさかとは思うが、この中に妹達に手を出した奴はいないよな?」
「「だ、出していませんッ!!」」
男達は声を揃えてそう言い切り、全員が同時に首を横に振った。
「本当か? エレイン」
「う、うん。まぁ一応。でも逃げようとしたら無理矢理腕を掴まれた。それに椅子に縛り付けられたし」
「なんだと――」
「「……!?」」
エレインの言葉を聞き、アーサーは凄まじい怒りに更に殺意を追加して男達を睨んだ。エレインはしてやったりと言わんばかりに怒り狂うアーサーの後ろから男達に「べッー」と舌を出している。
嘘ではないとは言え、まさかのエレインの行動に一杯食わされた男達はこの瞬間“死”を覚悟した――。
そして。
幸いな事に死は避けたものの、エレインとサラに手荒な事をしたと本人達から指名された男数名は、アーサーの怒れる鉄拳をそれぞれ1発ずつ食らって気を失った。