♢♦♢
~馬車内~
「……という事だ。私は、幼少期からずっと感じていた小さな綻びから目を背けていたのだ。ラグナと私は異母兄弟……同じ家族であり兄弟でありながら、ラグナと私にはハッキリとした血の区別があった……。
私は正当な国王の跡継ぎ。だがラグナは父上と愛人に生まれた妾の存在……!
当時の私は“そんな事は関係ない”と思っていた。ただラグナと純粋に仲良くなれれば良いと。そして私達には本当の兄弟と変わらない絆があると、私はずっと疑いもしなかった。
でもそれは私の都合の良い解釈。
私の知らない所で父上は……ラグナは私とは違う方向を向いていた。その結果がこの有り様だ……!
今になっては後悔するばかり。何故もっと早く気が付かなかったのだと。何故初めからしっかりラグナと向き合えなかったのだろうかと。私は自分の過ちを償わなければならないのに、自分の力が余りに無力過ぎてそれすらも出来ずにいる。
だから無力な私にどうか力を貸してもらいたい……! 私は何が何でもラグナを、父上を、そして『終焉の大火災』を止めたいのだ!」
目の前にいるアッシュ達に改めて揺るがない決意を示すジャック。
対し、そんな彼の話をしかと聞いていたアッシュ達の反応は三者三様。
「有り得ないわ……。練成術どころか、1人の魔導師があの『終焉の大火災』を引き起こすなんてそんな事……」
ラグナと同じ魔導師として、その所業に目を見開くローゼン総帥。
「とても信じ難い話です。……と言いたい所ですが、ローゼンとイェルメスに行っていなければ、私はジャック王子の話を直ぐには受け入れられなかったでしょうな」
冷静に現状を受け入れ整理するエド。
そして。
「知らねぇよ――」
ジャックの思いの丈とは到底釣り合わない短き言葉。
だがそのアッシュの極めて短い言葉には、ジャックの思いを遥かに上回るであろうエレンを想う彼なりの気持ちが込められていた。
「話も長けりゃお前ん家の事情なんてどうでもいい。ただラグナの野郎の場所だけ教えればそれでな」
今アッシュの頭の中にはエレンの存在のみ。その他は心底どうでもいいのだ。
「貴方の気持ちも分からなくはないわアッシュ……。けれど、今の話が本当だとするならとんでもない事態よ。いえ……彼の言う事は歴史の真実。ラグナは妾よりも早く終焉のグリモワールを見つけていたんだわ」
悔しそうに眉を顰めるローゼン総帥。彼女の瞳は個人的な悔しさなんかではなく、純粋に“これから起こる危機”への不安と心配を宿しているように見える。
全人類の度肝を抜くと言っても過言ではない歴史の真実――。
これが公になれば間違いなく世界に何かしらの大きい影響をもたらす事は明白。
最早その規模すら大き過ぎて、流石のローゼン総帥やエドもそれ以上の事は考えられなかった。
「ラグナによって『終焉の大火災』が起こされると分かった今、妾達も全力で奴を阻止しなければならなくなった。でもそれは決して貴方達の為ではなく、大切な仲間であり友であるエレンを救う為よジャック。
いえ、貴方にはエレンという名より“混血の女神”と言った方が分かりやすいかしら――」
「「……!」」
ローゼン総帥の言葉にアッシュとエド、そしてジャックも反応を示した。
「どういう事だローゼン総帥」
「そうか……やはりラグナが狙っていた彼女が……」
「その言い方だと、やはり君は以前から知っていたようだねローゼン」
事の真意を悟ったエドがローゼン総帥に問う。
「ええ。勿論確証はなかったわ。けれど今の話で確実となった。長年の研究によって仮説の1つとなっていた“エルフ族の支配説”。その実態はラグナも言っていたように、専門家や妾達魔導師の間でも1%未満の仮説として知られていたわ。
当然皆がまさかと思い気にも留めていなかったけれど、妾はこのエルフ族の支配説を聞いた時からずっと気になり調べていたの。
そして調べれば調べる程、妾の中でこの仮説のパーセンテージがどんどん上がっていくのが分かったわ。
666年前……『終焉の大火災』が起こったあの日、ラグナが貴方に話した歴史の真実には“もう1つの事実”があった筈。恐らくラグナもその事を知っているでしょう。
そう考えれば妾の推測やエレンの存在、更にラグナの行動も全てが繋がるわ――」
ローゼン総帥によって更に紡がれる歴史の真実。
アッシュ達も自然とローゼン総帥の話に耳を傾けていた。
「結論から言いましょう。彼らの言う混血の女神とは、紛れもなくエレンの事。
つまり……エレンは“人間とエルフ族。そして竜族の血を受け継いだ特異な存在”だわ――」
「「……!?」」
ローゼン総帥の言葉に驚くアッシュ達。
エレンが何かしら特別な存在であるとは心の片隅で思っていた。
しかし、告げられた真実はアッシュやエドの想像の上を行くもの。
そしてジャックもまた、明かされた新たなる事実に呆然としていた。
この世界に存在したと言われる人間、エルフ族、竜族、そして多種多様の生物達を含め、大昔から全ての種族が共に共存していたとされる世界。
だがその歴史は偽りの歴史。
真実は絶対的な力を誇示していたエルフ族が、他の種族を支配していた世界であった。
共存から支配。
虚偽から真実。
この歴史の真相の受け入れだけでも時間が掛かるであろうにもかかわらず、支配されていたとされるその世界で何故“混血”などという特異な存在が生まれたのだろうか――。
それも人間、エルフ族、竜族の3血統。
歴史がどうであれ、アッシュ達にもまだ知り得ない真実があるのだろうと思う他なかった。
~馬車内~
「……という事だ。私は、幼少期からずっと感じていた小さな綻びから目を背けていたのだ。ラグナと私は異母兄弟……同じ家族であり兄弟でありながら、ラグナと私にはハッキリとした血の区別があった……。
私は正当な国王の跡継ぎ。だがラグナは父上と愛人に生まれた妾の存在……!
当時の私は“そんな事は関係ない”と思っていた。ただラグナと純粋に仲良くなれれば良いと。そして私達には本当の兄弟と変わらない絆があると、私はずっと疑いもしなかった。
でもそれは私の都合の良い解釈。
私の知らない所で父上は……ラグナは私とは違う方向を向いていた。その結果がこの有り様だ……!
今になっては後悔するばかり。何故もっと早く気が付かなかったのだと。何故初めからしっかりラグナと向き合えなかったのだろうかと。私は自分の過ちを償わなければならないのに、自分の力が余りに無力過ぎてそれすらも出来ずにいる。
だから無力な私にどうか力を貸してもらいたい……! 私は何が何でもラグナを、父上を、そして『終焉の大火災』を止めたいのだ!」
目の前にいるアッシュ達に改めて揺るがない決意を示すジャック。
対し、そんな彼の話をしかと聞いていたアッシュ達の反応は三者三様。
「有り得ないわ……。練成術どころか、1人の魔導師があの『終焉の大火災』を引き起こすなんてそんな事……」
ラグナと同じ魔導師として、その所業に目を見開くローゼン総帥。
「とても信じ難い話です。……と言いたい所ですが、ローゼンとイェルメスに行っていなければ、私はジャック王子の話を直ぐには受け入れられなかったでしょうな」
冷静に現状を受け入れ整理するエド。
そして。
「知らねぇよ――」
ジャックの思いの丈とは到底釣り合わない短き言葉。
だがそのアッシュの極めて短い言葉には、ジャックの思いを遥かに上回るであろうエレンを想う彼なりの気持ちが込められていた。
「話も長けりゃお前ん家の事情なんてどうでもいい。ただラグナの野郎の場所だけ教えればそれでな」
今アッシュの頭の中にはエレンの存在のみ。その他は心底どうでもいいのだ。
「貴方の気持ちも分からなくはないわアッシュ……。けれど、今の話が本当だとするならとんでもない事態よ。いえ……彼の言う事は歴史の真実。ラグナは妾よりも早く終焉のグリモワールを見つけていたんだわ」
悔しそうに眉を顰めるローゼン総帥。彼女の瞳は個人的な悔しさなんかではなく、純粋に“これから起こる危機”への不安と心配を宿しているように見える。
全人類の度肝を抜くと言っても過言ではない歴史の真実――。
これが公になれば間違いなく世界に何かしらの大きい影響をもたらす事は明白。
最早その規模すら大き過ぎて、流石のローゼン総帥やエドもそれ以上の事は考えられなかった。
「ラグナによって『終焉の大火災』が起こされると分かった今、妾達も全力で奴を阻止しなければならなくなった。でもそれは決して貴方達の為ではなく、大切な仲間であり友であるエレンを救う為よジャック。
いえ、貴方にはエレンという名より“混血の女神”と言った方が分かりやすいかしら――」
「「……!」」
ローゼン総帥の言葉にアッシュとエド、そしてジャックも反応を示した。
「どういう事だローゼン総帥」
「そうか……やはりラグナが狙っていた彼女が……」
「その言い方だと、やはり君は以前から知っていたようだねローゼン」
事の真意を悟ったエドがローゼン総帥に問う。
「ええ。勿論確証はなかったわ。けれど今の話で確実となった。長年の研究によって仮説の1つとなっていた“エルフ族の支配説”。その実態はラグナも言っていたように、専門家や妾達魔導師の間でも1%未満の仮説として知られていたわ。
当然皆がまさかと思い気にも留めていなかったけれど、妾はこのエルフ族の支配説を聞いた時からずっと気になり調べていたの。
そして調べれば調べる程、妾の中でこの仮説のパーセンテージがどんどん上がっていくのが分かったわ。
666年前……『終焉の大火災』が起こったあの日、ラグナが貴方に話した歴史の真実には“もう1つの事実”があった筈。恐らくラグナもその事を知っているでしょう。
そう考えれば妾の推測やエレンの存在、更にラグナの行動も全てが繋がるわ――」
ローゼン総帥によって更に紡がれる歴史の真実。
アッシュ達も自然とローゼン総帥の話に耳を傾けていた。
「結論から言いましょう。彼らの言う混血の女神とは、紛れもなくエレンの事。
つまり……エレンは“人間とエルフ族。そして竜族の血を受け継いだ特異な存在”だわ――」
「「……!?」」
ローゼン総帥の言葉に驚くアッシュ達。
エレンが何かしら特別な存在であるとは心の片隅で思っていた。
しかし、告げられた真実はアッシュやエドの想像の上を行くもの。
そしてジャックもまた、明かされた新たなる事実に呆然としていた。
この世界に存在したと言われる人間、エルフ族、竜族、そして多種多様の生物達を含め、大昔から全ての種族が共に共存していたとされる世界。
だがその歴史は偽りの歴史。
真実は絶対的な力を誇示していたエルフ族が、他の種族を支配していた世界であった。
共存から支配。
虚偽から真実。
この歴史の真相の受け入れだけでも時間が掛かるであろうにもかかわらず、支配されていたとされるその世界で何故“混血”などという特異な存在が生まれたのだろうか――。
それも人間、エルフ族、竜族の3血統。
歴史がどうであれ、アッシュ達にもまだ知り得ない真実があるのだろうと思う他なかった。