「おい! しっかりしろエレン!」
「アッ……シュ。良かった……無事だった」
「何やってんだよお前は……! って、おい。動こうとするな」
エレンはアッシュに支えられながらゆっくりと上半身だけを起こした。
「弱い奴が出しゃばるなよ」
「仕方ないでしょ。無意識に体が動いていたんだよ……」
「幸い傷口は深くねぇ。俺が止血してやるから、お前はもっと奥で隠れてろ」
アッシュはそう言って、自分の服の袖を破いてエレンの傷口を固く縛った。
「い"ッ……!」
「これでよし。あっちの岩陰なら人も来ないだろ。ここで動けるまで隠れたら、お前はそのまま逃げッ……「嫌だよ」
エレンがアッシュの言葉を遮る。
そしてグッと睨みつけた。
「僕はもう逃げないって言っただろ。目の前で君が戦っているのに、それを見て見ぬふりなんて絶対にしたくない」
「この状況でまだそんな事言ってんのかお前」
「もう嫌なんだよ! 大切な人達が傍からいなくなるのは――」
エレンのその言葉に、アッシュは目を見開いた。
「アッシュにだって僕の気持ちが分かる筈だ。突然大切な人を失う気持ちが……いなくなる怖さが……!」
いつの間にか1人なってしまったエレン。
彼女は大切な家族や友達を失った。
だがそれでも、時流れが止まる事は決してない。
悲しみに打ちひしがれながらも、エレンは今日という日を生き抜いてきた。
毎日毎日自分の為に。
ただ自分が今日を生きる為に。
いつからか自分の事だけで精一杯になっていたエレンは、アッシュやエド達との出会いで再び実感したのだ。
当たり前のものが失う怖さを――。
「僕達もう仲間だよね……? 確かに出会ってまだ日が浅いかもしれないけど、一緒にここまで生き抜いてきた仲間じゃないか。
だから僕は怖くなるんだよ。もし君を失ってしまったらって……また大切な人が傍からいなくなってしまったらって……!
僕は絶対に嫌だ。こんな僕を何度も助けてくれた君を……僕は失いたくない」
話す度に。
呼吸をする度に。
抉られた脇腹がズキズキと痛んで熱い。
それでもエレンは言葉を止められない。
だって。
それほど目の前の彼を失いたくないのだから――。
「また1人になりたくない。だから僕は逃げずに戦うと決めた……。君の戦いが終わるまで、死に急ぐ君がまた生きると決めるまで……僕はその時まで絶対に逃げ出さない……!」
エレンの瞳は真っ直ぐアッシュを捉える。
その瞳は今まで彼が見てきた中で1番強い思いを感じるものだった。
「……っとに。テメェは果てしなく馬鹿な野郎だな」
アッシュの眉間に皺が寄る。
そして彼は一瞬口籠った後、しっかりとエレンの目を見て言った。
「そんなに怖いならもっと強くなれ。俺はお前に守られるほど弱くねぇ。それにな、エレン。俺はもうとっくにッ……「よお。久しぶりだな――」
次の瞬間、エレンとアッシュの背後から低い声が響いた。
「テメェは……!?」
バッと勢いよく2人が振り返ると、そこには深緑色のローブを纏ったラグナの姿があった。
グラニス街ぶりに遭遇したエレンとアッシュの胸は大きく脈を打つ。
「約束通り迎え来たぜ、混血の女神様。って事でバイバイ!」
くしゃっと笑顔を見せながら徐に手を振ったラグナ。
エレンとアッシュが呆気に取られていた次の瞬間、突如エレンの体が地面に沈んだ。
「え、ちょッ……!?」
「エレン!」
エレンとアッシュは互いに手を伸ばす。
しかし、ラグナの繰り出した魔法によって、エレンの体は一瞬で異空間に呑み込まれ姿を消してしまった。
「おいエレンッ! ちっ、ラグナお前一体エレンをどこにッ……!?」
怒り心頭でラグナの方へ振り返ったアッシュであったが、そこには既にラグナの姿もなくなっていた。
「くそッ! あの野郎……!」
ラグナがエレンを連れ去った。
それを理解したアッシュは凄まじい怒りが込み上げている。
直後アッシュは岩陰から戦場へと戻ると、通りかかった敵兵――ノーバードに乗っていた男を瞬殺して引きずり落とし、そのまま無人となったノーバードに跨りユナダス軍へと突っ込んだ。
「あの野郎、どこ行きやがった……!」
何万もの兵が入り乱れる中、アッシュは血眼でエレンとラグナを探す。
「アッシュ! エレン君は?」
ノーバードを勢いよく走らせていたアッシュの後ろから、同じくノーバードに乗ったエドが追いついた。
「ラグナに連れ去られちまった!」
「そうでしたか。ならばやる事は1つですね」
アッシュとエドはユナダス軍の後方、この軍の大将となる者がいるであろうユナダス王国の紋章を施した一際大きな旗目掛け、敵軍のど真ん中を突き進んで行く。
「どけえええッ!」
「いざ味方となると頼もしいですね、ノーバード」
2人の猛攻がユナダス軍に混乱を招き、隊列を徐々に大きく崩していった。
そして。
大きく開かれた道。
如何にも実力がありそうな団長クラスの敵兵数十人が固まる中、忌まわしい深緑色のローブを身に纏う人物をアッシュは捉えた。
「いた! ラグナだ――!」
エドが援護に回り、アッシュは一直線にラグナ向かってノーバードを走らせる。
瞬く間にラグナと距離を詰めたアッシュはノーバードを踏み台に、周りの団長達を無視してラグナに斬りかかった。
――ガキィン。
剣と剣が衝突する金属音が響き、互いの剣が一瞬弾かれる。
「エレンを返しやがれ!」
鬼の形相を浮かべるアッシュは立て続けに剣を振るい、防ぐラグナの体勢を思い切り崩した。
そこへ間髪入れずに飛び込んだアッシュがラグナの胸ぐらを掴むと、そのまま渾身の力で地面に叩きつける。馬乗り状態となったアッシュは剣の切っ先を奴の首元へと突き付け、酷く冷酷な声を漏らした。
「ぶっ殺してやる」
自分の目の前には全ての元凶。
彼の家族を奪った憎き男がいる。
それに加えてエレンを誘拐。
アッシュにはもうラグナを殺す以外の選択肢はなかった。
「死ね。くそ野郎が――」
「アッ……シュ。良かった……無事だった」
「何やってんだよお前は……! って、おい。動こうとするな」
エレンはアッシュに支えられながらゆっくりと上半身だけを起こした。
「弱い奴が出しゃばるなよ」
「仕方ないでしょ。無意識に体が動いていたんだよ……」
「幸い傷口は深くねぇ。俺が止血してやるから、お前はもっと奥で隠れてろ」
アッシュはそう言って、自分の服の袖を破いてエレンの傷口を固く縛った。
「い"ッ……!」
「これでよし。あっちの岩陰なら人も来ないだろ。ここで動けるまで隠れたら、お前はそのまま逃げッ……「嫌だよ」
エレンがアッシュの言葉を遮る。
そしてグッと睨みつけた。
「僕はもう逃げないって言っただろ。目の前で君が戦っているのに、それを見て見ぬふりなんて絶対にしたくない」
「この状況でまだそんな事言ってんのかお前」
「もう嫌なんだよ! 大切な人達が傍からいなくなるのは――」
エレンのその言葉に、アッシュは目を見開いた。
「アッシュにだって僕の気持ちが分かる筈だ。突然大切な人を失う気持ちが……いなくなる怖さが……!」
いつの間にか1人なってしまったエレン。
彼女は大切な家族や友達を失った。
だがそれでも、時流れが止まる事は決してない。
悲しみに打ちひしがれながらも、エレンは今日という日を生き抜いてきた。
毎日毎日自分の為に。
ただ自分が今日を生きる為に。
いつからか自分の事だけで精一杯になっていたエレンは、アッシュやエド達との出会いで再び実感したのだ。
当たり前のものが失う怖さを――。
「僕達もう仲間だよね……? 確かに出会ってまだ日が浅いかもしれないけど、一緒にここまで生き抜いてきた仲間じゃないか。
だから僕は怖くなるんだよ。もし君を失ってしまったらって……また大切な人が傍からいなくなってしまったらって……!
僕は絶対に嫌だ。こんな僕を何度も助けてくれた君を……僕は失いたくない」
話す度に。
呼吸をする度に。
抉られた脇腹がズキズキと痛んで熱い。
それでもエレンは言葉を止められない。
だって。
それほど目の前の彼を失いたくないのだから――。
「また1人になりたくない。だから僕は逃げずに戦うと決めた……。君の戦いが終わるまで、死に急ぐ君がまた生きると決めるまで……僕はその時まで絶対に逃げ出さない……!」
エレンの瞳は真っ直ぐアッシュを捉える。
その瞳は今まで彼が見てきた中で1番強い思いを感じるものだった。
「……っとに。テメェは果てしなく馬鹿な野郎だな」
アッシュの眉間に皺が寄る。
そして彼は一瞬口籠った後、しっかりとエレンの目を見て言った。
「そんなに怖いならもっと強くなれ。俺はお前に守られるほど弱くねぇ。それにな、エレン。俺はもうとっくにッ……「よお。久しぶりだな――」
次の瞬間、エレンとアッシュの背後から低い声が響いた。
「テメェは……!?」
バッと勢いよく2人が振り返ると、そこには深緑色のローブを纏ったラグナの姿があった。
グラニス街ぶりに遭遇したエレンとアッシュの胸は大きく脈を打つ。
「約束通り迎え来たぜ、混血の女神様。って事でバイバイ!」
くしゃっと笑顔を見せながら徐に手を振ったラグナ。
エレンとアッシュが呆気に取られていた次の瞬間、突如エレンの体が地面に沈んだ。
「え、ちょッ……!?」
「エレン!」
エレンとアッシュは互いに手を伸ばす。
しかし、ラグナの繰り出した魔法によって、エレンの体は一瞬で異空間に呑み込まれ姿を消してしまった。
「おいエレンッ! ちっ、ラグナお前一体エレンをどこにッ……!?」
怒り心頭でラグナの方へ振り返ったアッシュであったが、そこには既にラグナの姿もなくなっていた。
「くそッ! あの野郎……!」
ラグナがエレンを連れ去った。
それを理解したアッシュは凄まじい怒りが込み上げている。
直後アッシュは岩陰から戦場へと戻ると、通りかかった敵兵――ノーバードに乗っていた男を瞬殺して引きずり落とし、そのまま無人となったノーバードに跨りユナダス軍へと突っ込んだ。
「あの野郎、どこ行きやがった……!」
何万もの兵が入り乱れる中、アッシュは血眼でエレンとラグナを探す。
「アッシュ! エレン君は?」
ノーバードを勢いよく走らせていたアッシュの後ろから、同じくノーバードに乗ったエドが追いついた。
「ラグナに連れ去られちまった!」
「そうでしたか。ならばやる事は1つですね」
アッシュとエドはユナダス軍の後方、この軍の大将となる者がいるであろうユナダス王国の紋章を施した一際大きな旗目掛け、敵軍のど真ん中を突き進んで行く。
「どけえええッ!」
「いざ味方となると頼もしいですね、ノーバード」
2人の猛攻がユナダス軍に混乱を招き、隊列を徐々に大きく崩していった。
そして。
大きく開かれた道。
如何にも実力がありそうな団長クラスの敵兵数十人が固まる中、忌まわしい深緑色のローブを身に纏う人物をアッシュは捉えた。
「いた! ラグナだ――!」
エドが援護に回り、アッシュは一直線にラグナ向かってノーバードを走らせる。
瞬く間にラグナと距離を詰めたアッシュはノーバードを踏み台に、周りの団長達を無視してラグナに斬りかかった。
――ガキィン。
剣と剣が衝突する金属音が響き、互いの剣が一瞬弾かれる。
「エレンを返しやがれ!」
鬼の形相を浮かべるアッシュは立て続けに剣を振るい、防ぐラグナの体勢を思い切り崩した。
そこへ間髪入れずに飛び込んだアッシュがラグナの胸ぐらを掴むと、そのまま渾身の力で地面に叩きつける。馬乗り状態となったアッシュは剣の切っ先を奴の首元へと突き付け、酷く冷酷な声を漏らした。
「ぶっ殺してやる」
自分の目の前には全ての元凶。
彼の家族を奪った憎き男がいる。
それに加えてエレンを誘拐。
アッシュにはもうラグナを殺す以外の選択肢はなかった。
「死ね。くそ野郎が――」